第19話 元貴族の冒険者、ランクアップの試験を受ける
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「ランクアップの試験を受けてみませんか?」
その日、クリスが冒険者ギルドへ行くと、
馴染みの受付レナがそう言ってきた。
「試験・・・」
「はい、近々Dランクへの昇格試験を行いますので、
ぜひクリスさんも、と思いまして」
言われたクリスは、
思わずユキとシンのほうを見た。
白狼のユキは黙って、
「いいんじゃないかな」
とでも言いたげに目を細め、
シンも仮面の下から、
「そうだな・・・。
冒険者になって二か月だろう?
ちょうどよい
と、勧めてきた。
Bランクのシンが、
問題ないと判断したのだ。
なら・・・、
きっと大丈夫だろう。
「よろしくお願いします!」
と、クリスが受ける意思を伝えると、
「はい、受験料は金貨二枚です」
そう言って、レナはニッコリとほほ笑んだ。
はい、しばらくおやつは我慢・・・。
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当日、受験者である二十名近いEランク冒険者たちが集められたのは、
森を越えた先にある山岳だった。
試験内容は『山での泊りがけでの討伐』という話だったが、
冒険者たちの服装はまちまちである。
中にはローブやランニングシャツ一枚など、
山岳にはとても向いていない恰好の者までいる。
単に手持ちがなくて、
装備が買えなかった様子の子もいるが・・・。
クリスはいつも通り、
生地が少なめの革鎧に外套という出で立ちだ。
そんな彼らの前に、
三人いる試験官の一人が進み出た。
プレートアーマーにマントをはおった、
三十前くらいの大柄な男だ。
その背中には、
正面からでも分かるほどの大剣が装着されている。
ちなみに、他の二人はそれぞれ、
スーツの女性とスマートな剣士だ。
男は開口一番、
「さあ、準備はいいか!?
ヒヨッコども!」
と、声を張り上げた。
思わず
「おーっ!」
と拳を突き上げるクリス。
だが、そうしたのは彼だけだった・・・。
他のEランク冒険者たちは、
普通に「はいっ!」と返事をしたり、
いきなりで返事ができないといった感じだった。
(は・・・恥ずかしい・・・)
と、真っ赤になるクリス。
何でもない顔をして、
さりげなく振り上げた拳を顔に近づけ、頬をいじる・・・。
そんなクリスの
男の声は続く。
「俺はAランク冒険者のヴァン!
今回、お前たちの試験監督を務めるのでよろしく!」
「よろしくお願いします!」
そう言って頭を下げるクリス。
今回は自分だけではなかった・・・。
「試験開始の前に、
改めて内容を説明する!
一言で言えば『魔物の討伐』だ!」
そう言ってヴァンは周りの山々を示し、
「お前たちにはこれからこの山に入り、
各自自力で魔物を見つけて倒してもらう!
受験者の中でパーティーを組んでも良い!
期限は明日の正午までだ!
これは冒険者にとって必須となるサバイバル能力に戦闘能力、
もしくはそれを補うチームワークを見るものである!」
そこまで言って、
「何か質問はあるか?」
と、問うヴァンに、
クリスは手を上げ、
「この白狼と一緒にやってもよろしいですか?」
と、相棒のユキの首筋をなでながら質問した。
「構わん!
従魔も冒険者の力のうちだ」
試験監督のヴァンはそう言ったが、
周りの受験者たちの眼は否定的だった。
「何だよ、あのでかい従魔は・・・」
「かわいい・・・」
「あんなのが一緒なら、簡単に合格じゃないか」
「ちょっとずるいんじゃないの・・・?」
などと、聞えよがしに言っている者たちまで・・・。
「・・・」
これは、試験中他の受験者とは関わらないほうがいいな。
「各自、緊急用の発煙筒は受け取ったな?
――では、試験開始!!」
ヴァンがそう合図するや
クリスはユキの背に乗り、
あっという間に山道を駆け上がった!
「あっ!
やっぱりあいつ、従魔で楽する気だ!」
「卑怯だぞ!
自分の力で登れよ!」
背後から、
自分たちを責める声が聴こえてくるが、
クリスは無視した。
(とにかく、
一刻も早く先に山中に潜り、
他の受験者とは距離を取るんだ!)
そうすれば、
あいつらに何か仕掛けられる心配はない・・・。
(悪く考えすぎかな・・・?)
どうも以前より、
自分が人の悪意に過敏になってきている気がする。
(ここ最近いろんな事がありすぎたからな・・・)
そう、自分の人生そのものが変わるくらい・・・。
勘当・・・、追放・・・、謀略・・・、罠・・・。
(でも・・・)
クリスは思い直した。
悪いことばかりではない。
(ユキに会えた・・・)
またがったその背中のぬくもりを感じながら、
クリスは気持ちを切り替えた。
(レナさんにも会えた。
施設の子供たちにも・・・。
そして・・・)
シンに会えた。
自分に背中を任せてくれ、
そして自分の背中を守ってくれるシンに・・・。
(シンのためにも・・・)
早くランクを上げて、
強くなって・・・。
そのためにも、
クリスは試験に集中する事にした。
その邪魔となる可能性のあるものからは、
徹底的に距離を置く。
――気が付けば周りには木々が生い茂り、
完全に山道から外れていた。
だが、これでいい。
人の作った山道よりも、
こういう樹海の中のほうが魔物との遭遇率は高いはずだ。
ユキの背から降りたクリスは、
いったんここで魔物を待つことにした。
「時間はあるしね」
「ウォフ」
試験中・・・、しかもここは危険な獣道かもしれないのに、
二人はなんだか楽しくなってきた。
「と・・・。
まずはやる事があるよね」
そう言ってクリスは、
行動を開始した。
【つづく】
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ここまでお読みいただき、
本当にありがとうございます!
そして・・・、
『試験中での樹海の中、クリスがまず行った事は!?』
あなたの答えを下のコメント欄にてお贈りください!
想像力広がる簡単な言葉を切望いたします!
『食事』とか、『組み手』とか、『全裸パーティー』とか・・・。
偉大なる神々よ・・・、
どうぞよろしくお願いいたします!
・・・というお願いを先日までしておりました。
アイデアをお贈り下さり、
本当にありがとうございます!
最新話では常に、
新しいお題に対するアイデアを切望しておりますので、
どうぞよろしくお願いします。
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