第18話 元貴族の冒険者、たらしこむ

「?

 大丈夫か?」

 シンに言われて、

 クリスはハッとした。


「あ、すみません。

 ちょっと考え事を・・・」

 そう言ってごまかすクリス。


(駄目だ駄目だ、こんなんじゃ・・・)

 クリスは努めて、

 今抱いた感情を流そうとした。


 自分の父や、カリガール家・・・。


 それらはもう、

 自分とは関係のない貴族たちだ。


 そんな人間の言動や仕打ちで頭をいっぱいにして、

 今の自分にとって大事な事をなんて・・・。


(そうだ、

 僕が今、全集中しないといけないのは・・・)


 そんなクリスの葛藤などいざ知らず、

 シンのほうは、彼に後味の悪い依頼結果を言ってしまった事に、


「君にも、レナにも申し訳なかったな・・・。

 彼女は、君に秘密にしておきたかったのだろうに・・・」

 そう、気落ちしているようだった。


(この人は・・・)

 クリスは思った。


(僕よりもはるかに実力のあるBランクなのに、

 依頼の時も、そうでない今も、

 対等に接してくれる・・・)


 以前、冒険者として今以上に慣れていなかった自分を馬鹿にしてきた、

 ボックという冒険者の事が思い出される。


 ユキと一緒なせいか、

 それ以外でクリスがギルドでからまれたりする事はなかったが、

 基本、ランクが上の冒険者は下の冒険者を見下し、

 依頼失敗した冒険者を馬鹿にする・・・、

 そんな空気があった。


 貴族が冒険者を馬鹿にするように・・・。


 だからクリスは惹かれた。


 新人の自分を初めから、

 対等の仲間として見てくれたシンに。


 ダンジョンでつくったスープも、

 さりげなく自身のより多くよそってくれたし・・・。


 だから言った。


「シンさん。

 僕たちと固定で、パーティーを組んでくれませんか?」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~


「君の『研磨けんま』は・・・」


 ダンジョン地下四階、

 片付けたオークの群れから魔石を回収しながらシンは言った。


「敵ではなく、

 君自身に対しては効果があるそうだが・・・、

 それは仲間にも影響を及ぼすようだ」


「え、どういう事?」

 クリスは尋ねた。


 もう敬語ではなかった。


 シンに

「パーティーを組むなら上も下もない」

 と言われたからだ。



 さて、

 そうやって新しくできたクリス、ユキ、そしてシンのパーティーは、

 改めてダンジョンで腕を事にした。


 魔物たちとの戦いが続くそのさなか、

 シンは自身の振るう剣に違和感を覚えた。


(動きがいつもよりキレる・・・)


 最初は、ただ調子が良いのかと思っていたが、

 じきにそうではないと分かった。


 魔物との戦いが続き、

 疲労もたまっているはずなのに、

 動きが鈍るどころか、前よりも良くなってきているのだ。


 見ればクリスとユキにも、

 同じ現象が見られる。


 両手のショートソードを振るうクリスの腕が、

 徐々にサマになっていく。


 自身の倍ある体形のオークを、

 一撃で仕留めるほどに・・・。


(二刀流は初めてと言っていたのに・・・)

 とてもそうは見えなかった。


 白狼のユキも、

 その動きがわずかずつだが早くなっていく。


(段々・・・、

 肉眼では追えなくなってきている・・・)


 そこでシンは考えたのだ。


 クリスが話した自身のスキルの事を。


 シンがパーティーを組んだ時、

 クリスは自身のスキルが『研磨』だと隠さず教えてくれた。


【研磨・・・対象の表面を研ぎ磨くこと、もしくは少々削ること。

 研鑽けんさんを重ね、自身の才能や能力を磨くこと。

   パリス教聖典 共用語大辞泉の巻より】


(自身の才能や能力を磨くこと・・・)



 ――そして今、

 シンは自分が思いついた仮説をクリスに

 伝えたのだ。


「自身の能力を磨く効果は、

 仲間である我々にも及ぶ」


「・・・え?」

 シンのその言葉に、

 クリスは実感がなかった。


 何しろ、

 自分でもスキルを意識せず戦っていたのだから。


「実際ここ数日の実戦訓練で、

 わたし達の力はかなり底上げされている」


「い、いや待ってシン!

 それって普通に戦って強くなってきたんじゃ・・・」


「普通は短時間でここまで成長しない」


「・・・」


 そこまで言うシンの言葉を、

 クリスは信じることにした。


 スキル効果の伝導・・・、

 それが可能なのは魔柱との戦闘で、

 投げたナイフにもその効果が表れた事で、

 既に実証済みだ。


 実際、自分たちが強くなってきている事は、

 感じとしてあったのだ。


 何年も一人で、

 剣の稽古をしてきたけれど、

 ここまでの成長はなかった・・・。


(実戦に勝る修行はない・・・)

 そんな事をどこかの達人が言っていたとか・・・。


「じゃあ、このまま戦い続ければ、

 僕たち皆で、もっともっと強くなれるってこと?」

 自分たちの可能性に興奮が抑えられないのか、

 クリスは震える声で言った。


 シンはコクリとうなずく。


「あのも倒せるくらい?」


「強くなれる・・・!」

 シンのそれは、決意のようであった。


 かつての仲間たちの仇である、

 あの魔柱を今度こそ・・・!



「あ、でもさ」

 思いついたようにクリスは言った。


「僕の『研磨』は能力だけを磨くはずなのに、

 何でシンにも効果が表れるんだろう?」

 ユキはまあ、

 自分の『命』を分けたからだろうけれど・・・。


「それは・・・」

 それを聞いたシンは言いよどんだ。


「多分・・・、

 君のスキルは『研磨』という言葉どおりのものではないのだろう」

 シンのその答えに、

 クリスは「そっか」と、納得したようだった。


「そうだね。

 スキルの名前なんて『鑑定』で付けたようなものだしね!」

 そう結論づけたクリスを見て、

 シンはひそかに思った。


(言えるわけない・・・)

 君が、わたしをと思ってくれているからだろう、

 なんて・・・。


【つづく】



 _________________


 ここまでお読みいただき、

 本当にありがとうございます!


 そして、


『ギルドが出す、

 クリスが冒険者ランクアップに必要なテストとは?』


 下にあるコメント欄にて、

 あなたの思いついた内容をお贈りください。


 複雑すぎず、想像が広がる簡単なアイデアだと助かります。

『一騎打ち』とか、『護衛』とか、『枕営業』とか・・・。


 神々よ、

 どうぞそのお声を聞かせてください!

 ・・・コメント欄で。



 ・・・というお願いを先日までしておりました。


 アイデアをお贈りくださり、

 本当にありがとうございます!


 最新話では常に、

 新しいアイデアを切望中ですので、

 どうか、どうかご検討くださいませ!






























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