第16話 元貴族の冒険者、格差を思い知る

 フランティック・トーテム・・・、

 それが目の前にいる魔物(?)の名前らしい。


 シルエットだけ見れば、

 縦長の円柱・・・。


 それが地面に根でも張っているのか、

 倒れずにダンジョンの荒れた床に立って、

 クリス達を見下ろしている。


 高さはクリスの倍以上、

 ところどころグロテスクな脈が浮かび、

 その真ん中あたりに、

 生物である事を証明するように、

 巨大な一つ目が見開き、

 圧倒的な威圧感を放っている。


 瞬間、

 その眼が赤く光りだし、

 それを見たクリス達が反射的に伏せると同時に、

 魔柱の眼から放たれた『光線』が彼らの頭上を通過し、

 その先の岩肌を貫いた!


 その理不尽な威力に、

 クリスは戦慄した。


(かろうじて今のはかわせた・・・、

 でも今度は・・・)


 無理だ・・・。



 防御はおろか、

 岩陰に隠れても無意味な攻撃・・・。


(これには・・・勝てない!)

 クリスにもそれが分かった・・・。


 だが、逃走を提案するより早く、

 シンがそのに向かっていった・・・!


「駄目だ、シンさん!」

「ウォオン!」

 クリスもユキも慌てて止めるが間に合わない・・・。


 だが、

 シンの目的は魔柱ではなかった。


 その目の前に横たわるミノタウロスの死体・・・。


 それを素早く、

 マジカルボックスに収納する。


 そして再び離れようとするが、

 その姿をとらえた魔柱の眼が光りだす。


(危ない!)

 このままではシンが・・・!


 クリスは瞬時にそう予測すると、

 腰からミスリスナイフを引き抜く。


 大金をはたいて購入したばかりのその短剣を、

 クリスはためらいもせずに投げつけた!


 グチュッ!

 というグロテスクな音と共に、

 その刃は魔柱の眼に突き立った。


「GFRRRRRRRRRRRRRR!!」

 悲鳴を上げながら、

 その身体を台風の中での竹のように、

 ブンブンと振り、もだえる魔柱。


 どうやら、

 高くて見えないが奴の口は、

 身体のてっぺんにあるようだ・・・。


 そのスキにクリスとシンは、

 白狼ユキの背にまたがり、

 その場を全力で離脱した・・・。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~


「はあっ・・・はあっ・・・」


 地下六階へ上がる階段前で、

 クリス達は息を整えた。


 正直、逃げ切れたのは奇跡だ・・・。


 ミノタウロスを仕留めた直後で、

 わずかに疲弊していた敵の力。


 その一撃目をかわせた偶然。


 力のチャージにわずかに遅れた二撃目。


 鉄をも断つミスリルのナイフ。


 そして、

 ナイフに宿らせたクリスの『研磨』のスキル・・・。


(投げた武器からもスキルを流せた・・・)

 その事実・・・。


 クリスの『研磨』は魔柱の『回復力』を


 だからこそ、敵が回復を終え、

 追撃が来る前にその場を離脱できたのだ。


 そう・・・、

 は滅びるまで無限に回復し続ける敵なのだ。


 その事をシンは、

 ポツリ、ポツリと説明した。


「フランティック・トーテム・・・、

 ダンジョンに流れる瘴気そのものから生まれる突然変異体・・・。

 周辺の瘴気が弱まるまで、決して死ぬ事はない・・・。」


 つまり、

 実質倒せない敵という事・・・。


「前に一度だけ、

 他のパーティーに雇われた時遭遇した。

 わたし以外、皆殺された・・・。」

 仮面で表情は分からないが、

 その姿は悔しそうだった・・・。


「あれの眼・・・、

 本当はたくさんあるらしい・・・。

 体中にたくさん・・・、

 相手が強いほど、眼が開くって・・・」


「・・・」


「前に会った時、

 もっと下の階層だったから、今回のとは別の魔柱かもしれないけど・・・、

 わたし達6人に、二つの眼しか開かなかった・・・」


「・・・」


「6人ともBランク・・・、

 それも魔物退治専門の冒険者だった・・・」


「シンさん・・・」

 クリスにもシンのやるせなさが伝わってくるようだった。


 雇われた、とシンは言ったが、

 本当はもっと親しい間柄の仲間だったのかもしれない・・・。


 ――ここはもう、

 ダンジョンを出るべきだろう。


 シンのおかげで、

 目的のミノタウロスの死体は手に入ったのだ。


 それは分かっていた。

 しかし・・・、


(倒したい・・・)

 そうクリスは思った。


 あの時、

 シンは危険も顧みず魔柱に接近した。


 クリスが欲していた、

 ミノタウロスの死体を手に入れるために。


 そのシンの行動にクリスは報いたかった。


 あの魔柱を倒すことで・・・。


 だが、


「引き返そう」

 シンはそう主張した。


「・・・はい」

 クリスもうなずいた。


 今の状態では勝てない。

 今はまだ・・・。


 ダンジョンの帰還中、

 クリスはシンに話しかけた。


「シンさん、

 今日は本当にありがとうございました」


「・・・」

 シンは、無言でうなずく。


 ダンジョンを出た時には、

 もう辺りは暗くなっていた。


「ユキ、

 街まで乗せてくれる?」

 正直、クリスは疲労の限界だった。


 ユキは優し気に目を細めると、

 伏せの姿勢をとった。


「シンさん、

 シンさんも一緒に」

 クリスのその言葉に、

 シンは少し驚いたようで、

 身振りで断りの意を示すが、


「依頼人のお願いです。

 一緒に乗ってください」

 クリスはそう言って先に乗るよう促す。


「・・・」

 シンは黙ってユキに乗る。


 続いてクリスも。


 帰りの道中、

 クリスはユキの背に揺られながら、

 後ろから腰をつかんでいるシンに言った。


「シンさん。

 あの魔柱ですが・・・」


 その言葉に、

 シンの手がピクリと反応した。


「僕、しばらくしたら、

 もう一度あれに挑んでみようと思います」


「・・・!」


「その時、

 もう一度雇われてくれませんか?」


【つづく】



 __________________


 ここまでお読みいただき、

 本当にありがとうございます!


 そして、

『ミノタウロスの死体に、

 献上先のカリガール家の反応は!?』


 あなた様のアイデアを下のコメント欄にてお贈りください。


 一言だけで良いのです!!


『感激』とか『嘲笑』とか『食いたい!』とか・・・


 どうか、どうかよろしくお願いします!


 ――というお願いを先日までしておりました。


 アイデアを頂き本当にありがとうございました!


 最新話では、

 また新しい募集をしておりますので、

 どうぞ、切にお願い申し上げます!!
































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