第15話 元貴族の冒険者、ダンジョンを進む
冒険者ギルドの職員レナの紹介で、
今回同行してくれることになった仲間・・・。
名前をシンと言った。
ただし、本人が名乗ったわけではなく、
ギルドでレナからそう聞いたのだ。
「よろしく、シンさん!」
今からダンジョンに入ろうという時、
改めてクリスはシンに挨拶した。
シンは言葉をはっさずに、
ただコクリとうなずく。
(う~ん・・・)
全身を黒マントで覆い、
顔にも仮面を付けているため、
性別も分からない。
ギルドでも謎が多い人物らしいが、
冒険者ランクはBのベテランだという。
さらにギルド職員のレナいわく、
シンはとても有能な
ただ荷物を持つだけでなく、
戦闘の補助、戦利品の収納、食事の支度、周囲への警戒、安全な場所の確保等々・・・、
魔物退治に慣れていない冒険者にとっては、
本当にありがたい助っ人なのである。
と、レナから聞いたクリス。
(レナさんの紹介なら・・・)
と、クリスは宿代一か月分に相当する金額を払って、
シンを雇ったのである。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
実際、シンの力は本物だった・・・。
まず、一階に現れたゴブリンの群れ。
白狼のユキが警戒を知らせると、
すぐさまその方向に飛び出し、
あっさりと一掃した。
その手に握った剣以外、
返り血一つついていない・・・
「ゴブリン達は皆殺しだ・・・」
その光景に、
思わずつぶやくクリス。
魔物の体内には、
魔石と呼ばれる色付きの欠片がある。
この魔石は色々な素材として売れるため、
倒した魔物は、ハラワタぶちまけて魔石を取り出す事になる。
『魔石を取り出すまでが魔物退治です!』
それが、冒険者たちの常識である・・・。
まだ屋敷にいたころクリスは、
何度か父ゴネルに剣の実戦訓練として、
領都付近の森に置き去りにされ、
魔物と戦う事になった事がある。
倒すか逃げるか・・・、
でなければ殺されて終わりだった。
だが、倒した魔物の身体を裂いて、
魔石を取り出すのはやった事がない。
死体をほじくるという凄惨な行為に、
どうしても尻込みしてしまったのだ。
だが、屋敷を追われ冒険者となった今、
そんな事を言っていられない。
クリスはシンと同じように、
ゴブリンの死体に刃を突き立てた・・・。
~~~~~~~~~~~~
地下二階では、魔狼が現れた。
かつて白狼のユキがそれであったが・・・。
(あれ・・・?)
シンと魔狼の群れを斬り続けながら、
クリスは敵の姿に違和感を覚えた。
以前のユキ以外の魔狼を見るのは、
これが初めてなのだが・・・
(なんか・・・やけに小さくない?
ユキと比べると、大人と子供並みのサイズ差・・・)
実際、強さもユキとは雲泥の差だった。
クリス達と共に戦うユキに、
魔狼達は次々とその牙の犠牲になっていく・・・。
――苦戦もなく、あっさりとその群れを片付けた。
魔石を取り出しながら、
クリスはそばにいるユキに向かって聞いてみる。
「ユキ、君ってもしかして、
特別な狼なの?」
その言葉が解ったのかどうか、
白狼のユキは何も言わず、
ただその眼を細めた・・・。
~~~~~~~~~~~~~~
どうやらシンは、
ユキの様子も参考にしながら、
なるべく魔物のいないルートを選んでいるようだった。
(さすがBランク・・・)
おかげでクリス達は、
十回にも満たない戦闘回数で地下五階まで来られた。
目指す魔物は地下六~八階で、
その姿が確認されているらしい。
ここで一旦食事休憩となった。
クリスにはよく分からないが、
周囲を岩肌に囲まれたこの場所は、
ダンジョンでは希少な
腰のマジカルボックスから、
食材と食器、コンパクトな調理器具を取り出す。
「本当に便利なんですね、
マジカルボックスって・・・」
と、思わず口に出るクリス。
その中が広い異空間とつながっているため、
その見た目の数倍のサイズのものを収納できるマジカルボックス。
冒険者だけでなく、
その利便性から誰もが欲してやまない逸品である。
そんなクリスに、
シンは軽くうなずいて返す。
そして、調理を始める・・・。
~~~~~~~~~~~~~~~
意外といってはなんだが・・・、
シンのつくった食事はうまかった。
ダンジョンでつくる食事という事で、
クリスは腹さえ満たせれば・・・と思っていたのだが。
マジックコンロを使って鍋に湯を用意し、
そこに干し肉や種類豊富に野菜を切って入れる。
ときどき、アクをすくうのも忘れない。
最後に塩とスパイスを入れて完成。
深皿に盛り付け、
パンと一緒に受け取るクリス。
「ありがとう・・・!
いただきます!」
そう言ってスープを一口飲んだクリスは、
身体に
まるで、ここまでの戦いで消耗した身体の栄養素が、
このスープで補われていくような・・・。
「美味しい・・・!」
一緒に付いた硬いパンは、ちぎってスープに沈める。
パンとスープを別々に食べるより、
こうしたほうがずっとうまい・・・!
ちなみにユキは、
塩抜きのスープを仕留めた魔物の肉と一緒に食べている。
その食べるスピードは速い。
どうやら、白狼のユキにもそのスープはうまかったようだ。
「ごちそうさま、シンさん!
すごくおいしかったです!」
そう言って、
満足の意を示すクリスに、
やはりシンは軽くうなずいて返す。
だが、少し嬉しそうにも見えるのは気のせいか。
『戦場』でのつかの間の休息・・・。
~~~~~~~~~~~~~~
地下七階、
ダンジョンに潜って半日以上かけ、
クリス達はついに目的にたどり着いた。
だが、目の前には予定と違う光景が繰り広げられていた。
クリス達が目的としていた魔物『ミノタウロス』・・・。
その半人半牛の怪物が今、
クリス達の目の前で血の海の中で絶命していた。
そのそばで、
しとめた獲物を見下ろすように立つ、
感情の読めないその姿を見せる魔物・・・。
邪神教の神殿を構成する柱のような、
生物としてはあまりに異形な、
手足のない円柱状の怪物・・・。
「フランティック・トーテム・・・」
今まで口を閉ざしていたシンから、
その名前がこぼれ出た・・・。
【つづく】
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