第11話 元貴族の冒険者、懐が潤う

 クリスとユキの冤罪。


 だが、それを知っているのは本人たちと、

 その冤罪をかけたエミリ達のみ。


 冒険者ギルドは、

 今回の件について、

 不干渉を決め込んでいる。


 何しろ最近登録したばかりの、

 まだ人となりも分からぬ新人の事である・・・。


 だが、

 クリスを担当した受付のレナだけは、

「あの子がやったという証拠でもあるんですか?

 もっとしっかり調べてください」

 そう言って、

 個人的に屯所まで抗議に来た。


 だが応対した衛兵たちは、

「しかしだな・・・、

 あの少年は金に困っていたのだろう?

 さらに言えばのは施設の職員たちのほうだ。

 状況的に考えて、やつが被害者とは思えないんだが・・・」

 と、らちが明かない。


 それを聞いたレナは、

「分かりました。

 では、被害にあったというその職員に会わせてください」

 と、半ば強引にエミリとの面談にこぎつけた。


 屯所にある一室の席で、

 衛兵立会いの下レナは、

 エミリと向かい合う。


 レナはいきなり、

「今回の事ですが、

 我々冒険者ギルドは教会での裁判に踏み込むことに決定しました」

 と切り出した。


「え・・・?

 さ、裁判・・・?」

 明らかに動揺するエミリ。


 もちろんこれはレナの嘘である。


 だが、

 すねに傷を持つエミリは、

 裁判と聞いて冷静な思考ができなくなった。


「そんな・・・、

 あの冒険者は新人でしょう?

 そんな子の主張を信用して、高額な提訴ていそ金を出すなんて・・・」


「あいにくと、ギルド独自の調べで、

 クリスさんがハメられた事が分かったのです。

 ・・・あなたがたにね、エミリさん」

 と、すました顔で答えるレナ。


 もちろん、これも嘘。


 だが、

 冒険者ギルドの内実など知らないエミリは、

 全て信じ込んでしまう。


「ご存じかもしれませんが、

 教会の裁判では『看破かんぱ』のスキルが用いられます。

 証言台で嘘や隠し事が通じないのはお分かりですね」


「え、あ・・・」


『看破』のスキル・・・。

 相手の言葉の嘘を見破る能力。

 教会の裁判では、

 必ずこのスキルを持った人間が裁判官を務める。


 つまり、

 エミリの嘘は確実にそこで見破られてしまうのだ。


「もし、裁判の場で罪が明らかになったら・・・、

 当然、示談は不可能となります。

 法にのっとり刑が確定され、

 あなた方は罪人となるわけです」

 レナの言葉は、

 じわじわとエミリを追い詰める。


「ざ・・・罪人・・・」


「当然でしょう?

 私利私欲で罪のない少年を殺そうとしたのですから」

 レナは冷徹な声で言った。


「彼・・・クリスさんが死んでいたら、

 極刑は免れなかったでしょうが、

 幸運にも失敗のですから。

 そうですねえ・・・、

 鞭打ちと国外追放程度で済むのではないですか?」


「そ、そんな・・・」

 エミリはもはや、

 絶望的な顔となっていた。


 化粧まで一緒に崩れ落ちそうだ・・・。


「―――ま、それはあくまで、

 裁判をおこせばの話ですけどね」


「えっ!?」


 エミリのその反応を見て、

 レナは(かかった・・・!)と思った。


「あなた方の態度しだいでは、

 クリスさんはもちろん、

 我々冒険者ギルドも示談でおさめられるかもしれません、

 という話です」


「ほ、本当!?

 どうすれば・・・?」


 溺れる者が紐を投げたら、

 案の定つかんできた。


 毒のついたイバラの紐を・・・。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「――と、いうわけで・・・」

 レナはカウンターごしにクリスとユキに言った。


「無罪放免おめでとうございます!」


「ありがとうございます・・・!」

 そう言って、深々と頭を下げるクリス。


 ユキも謝意を表するように、

 の姿勢をとる。


 数日後の冒険者ギルド、

 その受付である。


 散々な目にあっただが、

 既にその顔にはかげりなどない。


「今回、レナさんには本当にお世話になって・・・」


「そう言われると心苦しいです。

 そもそも私が、

 クリスさんにあの依頼を紹介したせいで・・・」


「でも、衛兵さんから聞きましたよ。

 レナさんがいなかったら、

 僕たちは濡れ衣を着せられたままだったって」


「クリスさん・・・」


 ―――あの後レナは、

 街の衛兵たち立会いの下、

 正式な供述調書をエミリに書かせた。


 内容はもちろん、

 マルコ、エミリ、門番の男三人が、

 クリスを殺しユキを奪おうとした事を認める、

 というものだった。


 その調書が出来上がると、

 エミリはその場で拘束され、

 衛兵は牢にいるクリス達を釈放するため、

 地下まで下りていった。


 レナも一緒にだ。


 だが、

 彼らが地下に下りると・・・、



おりが壊されていたのにはビックリしましたよ。

 まさか脱獄しようなんて・・・」

 あの時の光景を思い出し、

 ため息をつくレナ。


「すみません・・・。

 でも、脱獄する気はなかったんです。

 こっちはいつでも抜け出せるんだって、

 衛兵さん達に見せてやりたくて・・・」


 そう、

『研磨』のスキルで檻の『質量』と『耐久性』と『寿命』を

 ユキの力でそれを押し広げ牢の外へ出ただが、

 そのまま逃げることなく檻の外で過ごしていたのだ・・・。


「冤罪で無理やり勾留されて、

 理不尽さに怒る気持ちは分かりますが、

 ああいう行動は逆に、

 自分の首を絞める事になってしまいますよ」


「はい、すみませんでした」


 諭すように注意するレナの言葉で、

 クリスは素直に反省する。


「実際牢の修理費用として、

 クリスさんへの示談金からだいぶ引かれてしまいましたし」


「はい・・・」


 そう・・・。


 今回のマルコ達の罪に目をつぶるかわりに、

 エミリに要求した示談金。


 実際には裁判をおこせない以上、

 それが彼らに与える事のできる最大の罰だった。


 そしてマルコ達のように立場ある相手からこそ、

 示談金はたっぷりと搾り取れるのである・・・。


 まず、クリスへは金貨50枚。


 これは普通の4人家族が、

 普通に数年は暮らしていける額である。


 だが、ここから牢の修理費用に加え、

 器物破損の罪に対するが引かれてしまったのだ・・・。


 冒険者ギルドには金貨100枚。


 ちなみにレナはこれに対しギルドの上役たちに、


「今回の件、

 あなた方は我関せずを決め込んでいたのに、

 お金だけはしっかり要求するんですか?」

 と、遠回しに(?)彼らの態度を攻め立て、

 結果半分の100枚を特別ボーナスとして獲得したのである。


(ふっふっふ。

 計画通り・・・)

 と、レナが悪い笑みを浮かべていたのを

 クリス達は知らない・・・。



 ―――ともあれこれで、

 今回の件は一応終了したかに思えた。


 だが、そうではなかった。



 数週間後、

 冒険者ギルドにある人物が現れた。


 それは、

 あの児童保護施設を運営していた、

 ゼニー商会からの使者であった・・・。


【つづく】



 ___________________________


 ここまでお読みいただき、

 本当にありがとうございます!


 そして、


『果たして、ゼニー商会の来訪目的は!?』


 下のコメント欄にて、

 あなたのアイデアをお贈りください。


 一言だけで良いのです。

『謝罪』とか『報復』とか『ナンパ』とか・・・


 どうぞよろしくお願いします!




 ―――やばい!

 はやく公開しないと日付が変わってしまううううう!!!!



 ―――というお願いを先日しておりました。


 更新は間に合いました。


 そして、

 コメント本当にありがとうございました!


 この物語は最新話で常にお題へのコメントを切望しております。


 どうぞ・・・どうぞご協力よろしくお願いします!!



















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