第12話 元貴族の冒険者、頭を下げられる

「何だ、ギルドうちの前に馬車が止まったぜ」


「誰か降りて・・・おい、

 こっちへ来るぞ」


「入ってきた・・・。

 一体何事だ?」


 ざわつく冒険者たちの声に、

 受付でレナと話していたクリスとユキも、

 そちらへ視線を向けた。


 見ればギルドに入ってきたのは、

 およそこの場には似つかわしくない、

 仕立ての良い服に身を包んだこぎれいな男だった。


 年齢は30前後といったところだろうか・・・。


 男は白狼のユキを連れたクリスの姿を認めると、

 すぐに近づいてきた。


「冒険者のクリスさんですね?」


 どうやら男の目当てはクリスだったようだ。

 ・・・変な意味ではなく。


「はい、そうです」

 そう答えるクリスだが、

 若干警戒していた。


 何故なら・・・


「ゼニー商会の方ですね?」

 と、そばにいた受付のレナが、

 男に確認する。


 そう、

 男の服装はマルコが着ていたものと同じ、

 ゼニー商会の制服なのだ。


「はい、

 私は商会の使いとして参りました、

 チルポと申します」

 そう言って男は、

 クリスとレナに向かって折り目正しく頭を下げた。


「あ、これはご丁寧に」

 と、クリスもつられて頭を下げる。


 見ればユキまでコクリとやっている・・・。


 レナも丁寧に会釈を返してはいるが、

 その表情かおは・・・優しくない。


「それで、ご用件は?」

 と、貼り付けた笑顔で質問する。


 チルポはあくまで礼儀正しく、

「はい、

 実は商会長が先日の件で、

 クリスさんに直接お詫び申し上げたいとの事で、

 こうしてお迎えに参りました」

 と、表の馬車を示す。


「え、

 今からですか?」


「できれば、そう願いたいのですが・・・」


「そうですねえ・・・」

 クリスは考えた・・・。


 確かに今日は、

 レナにおすすめの依頼がないか聞きにきただけで、

 特に予定はない。


 先日の件も、

 児童保護施設のマルコ達が勝手にやった事で、

 施設を運営している商会には直接的な責任はない、

 とも言える。


 なら、特に問題はないか。


「分かりました。

 ご一緒します」

 と、クリスが承諾すると、


「私も行きます」

 何故かレナも同行を宣言。


「レナさん?」

 クリスも驚いたが・・・、


 チルポも同じだったようだ。


「あの、

 失礼ですがあなたは?」


「クリスさんの担当職員レナです。

 先日のマルコさんからのご依頼も、

 私がクリスさんに紹介しました」

 と、含みのある言葉で自己紹介するレナ。


「そうですか・・・、

 あなたが・・・」


 チルポは少し考えたようだが、

 やがて二人に言った。


「分かりました。

 二人ともお越しください」


 そのチルポへ、

 レナは笑顔で言った。


「あら、

 の間違いでは?」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後、クリスとレナ、

 そしてユキのは、

 ゼニー商会長の屋敷へと到着した。


 さすがに巨体のユキは馬車には乗れなかったので、

 走って馬車の後ろを追いかけてきてもらった。


 クリスはチルポに続いて馬車を降りると、

 レナに向かって手を差し出した。


「ありがとうクリスさん」

 レナは微笑んで、

 クリスに手を預けて馬車を降りた。


 そのまま屋敷の中へ、

 そして応接室へと案内される三人。


 広く、洗練された良い部屋だ、

 とクリスは思った。


 追放された屋敷、

 父ゴネルのより雰囲気が良い・・・。


 招待主は既に部屋で待っていた。


 趣味の良いジャケットに身を包んだ、

 40前後の男性である。


「わざわざお越しいただき、

 ありがとうございます。

 商会長のゼニーです」


 そこから、

 お互いの自己紹介が済むと、

 着席を促すゼニー。


 横長の椅子にクリスとレナが座ると、

 すぐに使用人からお茶と茶菓子が出される。


 後ろのユキが、

 物欲しそうにこちらを見てくる。


 甘いものは与えても良いのだろうか・・・。


 ゼニーはまずクリスへ、

 マルコの件について謝罪した。


「本当に申し訳ありませんでした・・・」

 深々と頭を下げるゼニーに、

 クリスのほうが慌ててしまう。


 父ゴネルと同年代であろう大人に、

 頭を下げさせるのは何とも居心地が悪い。


「念のために、

 確認をさせていただきたいのですが、」

 と、レナが口をはさむ。


「マルコさんの件、

 商会長は動機に心当たりはないのでしょうか。

 単純に個人の利益のために、

 ユキさんを奪おうとしたとは思えないのですが」


 言い方は丁寧だが、

 聞きようによっては

「遠因くらいは雇い主のあなたにあるのではないか」

 という詰問にも捉えられられかねない。


 すると、

 ゼニーは心苦し気に説明をした。


「実は・・・、

 あの児童保護施設は採算が取れないからと、

 商会への出資者方からも解体の要望が来るようになっていたのです。

 そのため、施設の職員も数を減らし、

 残ったマルコ達にはさらに負担が増え・・・」


「・・・」

 クリスもレナと一緒に黙って聞いていた。


「そんな時に、

 一番の出資者である貴族の方が、

 珍しい従魔を集めているという話を耳にしたのです。

 おそらくマルコはそれで・・・」


「・・・」

 やりきれない話だ・・・。



 あの夜、

 クリスはマルコに『研磨』のスキルを使った。


 クリスはマルコのを壊してやろうと、

 幸せを構成するあらゆる要素を、

 マルコからのだ。


 幸せな『記憶』、

 幸せの『予感』、

 幸せを求める『意欲』、

 幸せに必要な『体力』、『健康』、『知識』、『視野』、『声帯』、『体臭』、『性〇』・・・・・・



(でも、そんな事しなくてもあの人は・・・)


 今、居場所を創ろうと必死な自分は、

 居場所を守ろうと必死だったであろうマルコよりも、

 もしかしたら幸せなのかもしれない・・・。



「あの施設は・・・、

 どうなるんですか?」

 クリスは説明を終えたゼニーに尋ねた。


 自分たちへの示談金で、

 さらに財源も苦しくなっているだろう・・・。


「新しい施設長を迎えて何とか存続させるつもりです。

 実は、今日お越しいただいたのは、

 その事でお話がありまして・・・」

 ゼニーがクリスに向かって言ったその時、


 廊下からバタバタと走る音がして、

 部屋の扉がバン!と開いた!


「商会長!

 た、助けて・・・!」

 そう言って部屋に飛び込んできたのは・・・、


「エミリさん!?」」

 クリスとレナは同時に声を上げた。


 それは、マルコの共犯の一人、

 施設の女性職員エミリだった・・・!


【つづく】



 _____________________


 ここまでお読みいただき、

 本当にありがとうございます!


 そして・・・、

『エミリに一体何が!?

 ていうか、お前クビになってないのかよ!?』


 この答をぜひ、

 下のコメント欄にてお贈りください。


 どうぞ、どうぞよろしくお願いします・・・!





 ――というお願いを先日しておりました。


 コメント本当にありがとうございました!


 この物語は最新話で常にお題へのコメントを切望しております。


 どうぞ・・・どうぞご協力よろしくお願いします!!

































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