エピローグ



 あれから1ヵ月あまりが過ぎた。

 魔王が倒されたという一報がニンジの国まで届いたあと、瞬く間に世界中に広まった。

 世界中はこの吉報を聞いてどこのお祭り騒ぎ。一時は魔王を倒したのは誰なのかと騒ぐ連中もいたらしいけれど、その点はニンジの国が徹底的に情報を遮断して正体を隠し通した。

 というのも、魔王を倒した張本人が、世間に顔を晒す事を嫌がったせいだ。

 なんて事になっているらしい。ルルアの話では。

 というのも、別にオレは黙っていてくれと言った覚えはないし、何なら魔王を倒したあとにさっさと自分の家に帰ろうとしたくらいだ。

 その時ルルアに盛大なパーティーを国中総出で行うと思うから一度ニンジの国まで誘われたけど、オレは断った。

 なぜなら、家の様子が心配だったのもあるけど、魔王との一件でまだまだオレも修行が足りないと痛感したからだ。

 ほんとは重りを解かずに勝ちたかったんだけど、まさかあんな強いやつがいたなんてなあ。

 でも爺ちゃんに比べたら全然弱かったし、あんなやつに本気を出しているようじゃ、爺ちゃんに笑われてしまう。



 だってオレは、爺ちゃんに勝てた事がなかったのだから。

 それも、本気を出した状態でも。



 だからと言うか、さっさと山に戻って修行をしたかったのだ。

 いつか爺ちゃんに勝てるくらい強くなるために。

 まあその爺ちゃんは、もうこの世にはいないわけなんだけども。

 それはそれとして、ニンジの国がオレの正体を隠したがったのは、世界中で取り合いになる事を危惧しての事だったと、2週間前にこの山に来たルルアが言っていた。

 オレみたいな強過ぎるやつは、場合によっては戦争の種にもなりうるとかなんとか。

 詳しい事はよくわからんけども、あっちはあっちで気苦労が絶えなさそうだ。

 で、そのルルアはというと、魔王を倒してくれたお礼にと、色々な食べ物とか山生活に便利そうな道具を置いていったあと、またニンジの国に戻っていった。

 なんでも、また魔導具の研究に没頭するんだって、嬉しそうに語っていた。

 きっと今頃、ニンジの国で好きな研究をしながら働いているのだと思う。

 一方オレはというと、相変わらず山で狩猟や山菜を取りながら修行に励んでいた。

 以前よりも、もっと重しを付けた服を着て。

 またいつ魔王みたいな強いやつと戦う事になるかわからないからな。だから今の内にもっともっと強くならないと。

「けど、しばらくルルアと会う事はないだろうなあ」

 ルルアは魔導師の中でも開発部門とかいうところにいて、責任のある立場にいるとか言ってたし。

 しかもオレと一緒に魔王を倒した功績もあって、前より重要な立ち位置になったとかも話していたような気がする。

 ルルアとの旅……と言っていいかどうかわからないくらい一緒に行動していた期間は短かったけど、それでもルルアといた時間はそれなりに楽しかったし、会えないとなると、ちと寂しい気もする。

「まあでも、逆に言えばそれだけ世界が平和だって事だし、むしろ喜ばないとな、うん」

 なんて独り言を呟きながら、山菜を取りに山の中を巡っていた時だった。



 突然目の前の地面に見た事がある模様が浮かび出して、白い煙と共に女の子が忽然と現れた。



「ゲホゲホ! あれ、ここどこ!? そんな、今度こそソラさんの家に座標を合わせたはずなのに……!」

「おー。ルルアじゃないか。急にどうした、こんなところで」

 また何か失敗してここに転移しちゃったんだろうなあって思ってけど、あえてそれは口に出さず、代わりに質問してみると、

「ソ、ソラさん!? ちょうどよかった! た、大変な事が起きちゃったんですよ!」

 あわあわしながら言葉を発するルルアに、「大変な事ってなんだ?」と訊ねる。

「そ、それが、魔王ポテサラを倒してしまったのがきっかけで、大魔王ポテチという魔族が長い眠りから復活してしまって、しかもその大魔王が世界に戦線布告してきたんです! それからはもう、世界中が大混乱になっちゃいまして……」

「そりゃ大変だな。で、その大魔王ってのは魔王よりも強いのか?」

「はい。ハカレターで計測してみたところ、53万もあったという報告が上がっています……!」

「おー。オレと同じくらいかー」

「ええ。なので大魔王を倒せるとしたら、ソラさん以外にいないんです。またこんな事をあなたに頼むのは気が引けるのですが……」

 言って、ルルアは深々と頭を下げた。



「お願いします! 大魔王を倒すのに、ソラさんの力をもう一度貸してください!!」

「いいぞー!」

「決断はっや!!!!」



 驚いたようにルルアが顔を上げた。

 そんな前に最初に会ったと同じやり取りに、どちらからともなく「ぷっ」と噴き出す。

「さすがはソラさん。期待通りの反応です」

「おー。困っている人がいたら一も二もなく助けろってのが爺ちゃんの教えだからなー。オレでよければ協力ですぞー」

「ありがとうございます! 頼りにしてます!」

「おー。任せとけ」

 ヤードランタンを取り出すルルアに、オレは胸を張って答える。

「ちゃちゃっと倒して、ちゃちゃっと帰るぞ」

「あ、またすぐ帰るつもりなんですね……。まあ倒してもらえるなら別に構わないですけれど」

「おー。じゃあさっそく行くかー」

「ええ、行きましょう。大魔王を倒しに!」



 新しい冒険が、今また始まろうとしていた──。


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あなたの戦闘力は53万です〜田舎の山奥でひっそり暮らしていた武闘家の少年は、魔王軍を相手に無双するそうです〜 戯 一樹 @1603

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