第10話 ここからが本当の勝負だ!オレは魔王を倒す!!
魔王とトカゲが人差し指を合わせた瞬間、辺りをパッと包むくらいの眩しい閃光が走った。
思わず目を瞑って、次に瞼を開けた瞬間。
目の前にドラゴンが──昔、爺ちゃんから聞いた事がある巨大なトカゲの化け物がそこにいた。
「ガハハハハハハ! これが余の真の姿、その名もポテサラ!!」
眼前のドラゴンが高笑いしながらオレ達を悠々と見下ろす。前よりも体格も大きくなったみたいで、なんだか圧迫感もある。
しかも顔は角の生えたドクロのままで、もしも小さい事にあんなものを見ていたら絶対泣きじゃくっていただろうなあってくらいに、おどろおどろしい姿に変貌していた。
「ポ、ポテサラ……」
と、隣りのルルアが愕然とした表情で呟く。
ガクガクと両足を震わせながら。
「まさか、こんな切り札を隠していたなんて……。あのサラダとかいう魔族は、単なる従者じゃなかったって事……?」
「そういう事だ。サラダは余の片割れであり、従者然としていたのは周囲を欺くためにすぎぬ。いずれ貴様達のような強者が現れた場合、確実に逃さず始末するためにな」
「……そうやって、今まで魔王を倒しに来た人を抹殺していたんですね。うっかり逃がして魔王よりも力を付ける前に」
「ご名答。とはいえ、この姿を見せたのを人間に見せたのはこれでまだ3度目だがな」
へー。じゃあ今まで2回くらいは今の姿になった事があるのか。
昔は魔王並みに強いやつが二人もいたんだなあ。
「さて、小娘よ。改めて余の戦闘力を測ってみるがいい。そして絶望するといい、余とそこの男との差をその目でしかと見てな」
「………………っ」
体を震わせつつも、躊躇いがちにルルアはハカレターを手に持ち直し、魔王の戦闘力を測る。
すると、唐突にルルアの動きがピタッと止まった。
それからちょっとして、カタンというハカレターが落ちる音が静かに響いたあと、
「よ、42万──……」
ルルアが囁くような声で呟く。
ルルア自身、信じられないと言った顔相で。
「そんな……そんな事って……」
「ほう……42万だったか。まあまあといったところか」
魔王が笑いを噛み殺したような声音で言う。犬みたいに尻尾をフリフリしているので、けっこう嬉しかったらしい。
「おー。42万かー」
確かに、前の時よりも強くなった気がする。少なくともパンチひとつで倒せるような相手じゃないな、これは。
「って事はオレよりも4万は高いのか。合体ってすごいんだな、ポテマヨ」
「ポテサラだ」
なんて名前を訂正しつつ、魔王が少し不快そうに目を眇める。
「しかし、余のこの姿を見てもまだその余裕でいられるとは大したタマだ。よほど神経が図太いのか、現実を直視できていないのか」
いずれにせよ、と魔王が大きく首を引かせた。何かの予備動作みたいに。
「一度、余の力をその体で味あわせねばわからぬようだ。いいだろう、ならば喰らうがよい。余の最大攻撃魔法を!」
魔王がワニのような大口を開けて、スゥーと息を深く吸い込んだ。
そして──
「フュージョン
技名みたいなのと共に、魔王の口から発された巨大な赤い光線がオレに猛然と迫る。
これは逃げられそうにないなと思ったその時には、すでに目と鼻の距離まで来ていた。とっさに腕を組んで防御の体勢を取る。
直後、イノシシの突進よりも何十倍も強い衝撃がオレを襲い、そのまま後方の壁紙まで一気に吹っ飛ばされてしまった。
「ソ、ソラさあああああん!?」
「クハハハ! どうだ、我が『フュージョン破』の威力は。いや、もはや答える事もできぬか。あるいは今ので死んだか」
「そ、そんな……。ソ、ソラさん! 返事をしてください! ソラさん……っ!」
ルルアがこっちに走り寄りながら悲痛そうに叫ぶ声が聞こえる。
そんなルルアの泣きそうな声を聞きながら、オレは──
「おー。今のは痛かった。痛かったぞー」
瓦礫の粉塵が舞う中、オレは体に付いた砂埃を払いながら、壁の窪みから「よいしょ」と腰を上げた。
「ソ、ソラさん! 無事だったんですね……!」
「おー。今のはさすがにけっこう効いたけどなー。ってルルア、ひょっとして泣いているのか?」
「ななな、泣いてなんかいません! これは単に冷や汗が目の下を流れただけです!」
言って、その冷や汗とやらを指で拭うルルア。オレには泣いているように見えたんだけどなー。
「バカな……。あれを耐え抜いただと……?」
と、ルルアを話すオレを見て、魔王が驚いたような声音で身を引かせた。
「しかもまだ会話できるだけの余力があろうとは。だがしかし、ダメージそのものは残っているはず。ならば貴様が朽ちるまで何度も『フュージョン破』を連発すればよいだけの事」
「ま、まずいですよソラさん! いくら一発目を耐え切れたとはいえ、魔王の言うように今の魔法を何度も受けたら、いくらソラさんと言えどタダじゃすみません! ここはいったん退散した方が──」
「そうだなあ。今のままじゃあ、勝てないかもなあ」
言いながら、オレは上着を脱ぐ。
「だからここからは、本気を出す」
「えっ? それってどういう意味です……? というかどうして急に上着を──」
と、それ以上ルルアの問いは続く事はなかった。
その前に投げたオレの上着が、床にズドンとめり込むのを目の当たりにして絶句したからだ。
そうして唖然としているルルアの前で、次々にリストバンドや靴を脱いでいく。
そのたびに大きな音を立てながら床に沈む衣類を見て、ルルアは言葉を失ったように口をあんぐりと開けていた。
「ふぅ。こんな身軽になったのは久々だなあ。体が軽い軽い」
「ソ、ソラさん……? あんな重い物を身に付けながら生活していたんですか? 今までずっと?」
「おー。そうだぞー」
「いやでも、あれだけ重いものをいくつも身に付けていたら、ここみたいな頑丈なところはともかく、ソラさんが住んでいたような木造小屋では床が抜けてしまうはずでは……?」
「そこは気合いでなんとかしてるから大丈夫だぞー」
「もはやなんでもありですね、気合い……」
「気の持ちようとも言うしな」
「そういう意味じゃないと思いますよ、それ……」
「ふん。突然何をするのかと思えば……」
と。
ルルアとの会話を遮るように、魔王が不機嫌そうに鼻息を鳴らした。
「それなりの重量はあるようだが、衣類を脱いだだけで余よりも強くなれるとでも? くだらぬな。くだらなすぎて失笑すら漏れぬわ」
「じゃあルルア、試しにハカレターでオレを測ってみてくれ。たぶん変わってるはずだと思うぞー」
「あ、はい! わかりました!」
オレの言葉に我に返ったルルアが、慌てた足取りでハカレターを落とした場所まで戻る。
そうしてハカレターを手にしたあと、おそるおそると言った感じでオレを測ろうとして──
「────────」
ルルアの動きが、ハカレターでオレを覗いてしばらくしたのちに、ピタッと静止した。
「? どうした小娘。なぜ戦闘力を口にせぬのだ」
「え、ウソ。そんな、こんなのって……」
「ええい、早く口にしろ! やつの戦闘力は一体いくつだ!」
「ソ、ソラさんの戦闘力は──」
魔王に急かされ、ルルアが狼狽えながら戦闘力を注げる。
プルプルと震えた手でハカレターを持ちながら。
「あなたの戦闘力は、53万です……!!」
「ごじゅうさ……!?」
魔王が双眸を剥く。
今にも「そんなバカな」と言いたそうな面持ちで。
「そんなバカな……。たかだか重い衣服を脱いだだけで、戦闘力が10万以上も跳ね上がるなど……!」
あ。ほんとに言った。
「いや、あの……魔王に同調するわけじゃないですけれど、本当にどうして衣服を脱いだだけでこんな戦闘力が……?」
「それはたぶん、小さい頃から修行の一環で重い服を着せられたせいじゃないかなー」
「ち、小さい頃からですか?」
「おー。むしろ昔の方がキツかったぞ。昔は重い服だけじゃなくて、
「そ、それはずいぶんとハードですね……」
「み、認めぬぞ……余は認めぬ。そんなふざけた戦闘力など……!」
と。
魔王が声を震わせながら尻尾を床に叩き付けた。まるで駄々っ子みたいに。
「そのハカレターは壊れているのだ! でなければ53万なんて数字が出るはずもない!」
「い、いえ。私もそう思ってハカレターを確認してみましたが、どこも故障していません。私も信じられませんが、ハカレターが出した数字は紛れもないソラさんの今の戦闘力です」
「黙れ黙れ!」
魔王が尻尾を荒々しく振り回す。さっきまで座っていたデカくて豪快な椅子まで破壊しながら。
「ならば、再度証明してやろう! 余の『フュージョン破』でな!!」
瞬間。
大口を開けて発射された光線が、またしてもオレ目がけて直進してきた。
そのまっすぐ向かってくる光線を、オレは──
ペシっと、真横に振り払った。
直後、轟音と共に壁が粉々に壊れ、ポッカリ開いた大穴から潮風のカラカラした空気が入り込んできた。
見ると、ルルアも魔王も揃って目を点にしながら硬直していた。
知ってる。こういうのってボウゼンジシツって言うんだよな。
なんて思っていると、魔王が口をパクパクしながら声を発して、
「は、は、は、は、跳ね返した? 余の『フュージョン破』を……? ど、どうやって……!?」
「どうって、普通に
「いや、ソラさん。仮にも魔王の最大攻撃魔法をハエ叩きに例えるのはどうかと……」
ほんとにそれで跳ね返しちゃうソラさんも大概ですけれど、と苦笑するルルア。
おー。なんか知らんが笑えるくらいには元気が出てきたみたいだな。よかったよかった。
一方の魔王はというと、なんだか可哀想なくらいに動揺しまくっていた。具体的に言うと、両耳や尻尾をピクピクと小刻みに震わせて。
「おー。大丈夫かポテたま。なんか顔色が悪く見えるぞ。全身の緑色が黄緑に変わるくらいに」
「ポテマヨだ!!! あ、間違えちゃった。ポテサラだ!!!!!」
「ま、魔王が自分の名前を言い間違えてる……」
ついにルルアにまで突っ込まれていた。
さっきまですごく偉そうにしていたのに、すっかり魔王っぽくなくなっちまったなあ。なんでかな?
「そ、そうだ……! そこの少年よ、余の部下にならぬか? さすれば世界の半分をお前に譲ろう!」
「世界とか興味ないから別にいらないぞ」
「ならば何を欲する! お前の望むものならばすべて叶えてやろう……!」
「んー。じゃあとりあえず──」
腕をぐるぐる回しながら魔王に近付く。
そしてオレは言った。
「お前をここでぶっ飛ばす事かな。それがルルアと王様との約束だから」
「ま、待て待て待て待て! まだ話し合いの余地はある! 我々はわかりあえるはずだ!」
「騙されたらいけませんよソラさん! 魔族が我々人間を生かすはずがありません! 人間なんて虫ケラ以下としか思っていないんですから!」
「らしいぞ魔王。まあこれまで会ってきた魔族も同じような事を言ってたし、オレもお前の言葉は信じられそうにないなー。お前も人間をゴミみたいに扱ってる感じだったし」
「そ、それは、しかし……!」
「今度は良いやつに生まれ変われよ。オレも、もっともっと腕を上げて待ってるからな」
言いながら、オレは魔王目がけて跳躍した。
そして、右腕を大きく振り上げて──
「またな、魔王」
「ぶうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?!!」
勢いよく突き出した拳が魔王の顔面に直撃し、その巨体が投げ出されるように後ろの壁まで轟然と飛んでいく。
やがてそのまま壁をぶち抜いた魔王は、気付いた時には水平線の彼方まで消え去っていた。
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