第8話 双子の魔族登場!連携技にご用心!!



 そんなあれこれで、大扉を開いて(というよりオレの力でぶち破って)みると、とてつもなく大きい空間が──それこそニンジの国の王様と会った時の部屋よりも何倍も感じるくらいの空間が目の前に広がっていた。

 辺りを見回してみると、どこにも窓のようなものはなく、そのせいもあってか、天井がやたら暗くてどこまであるのかわからない。中は薄暗い通路がずっと奥まで広がっていて、その両端に石灯籠がずらっと並んで続いていた。

「おー。この灯籠、オレが近付いただけで勝手に火が付いたぞ。どうなってんだこりゃ?」

「魔法でしょうね。それも侵入者を知らせるための」

「じゃあ、魔王もこっちに気付いてるって事か?」

「そう考えていいと思います」

 もっとも大扉を破った時点で嫌でも気付いているでしょうけれどね、と付け加えつつ、ルルアは奥へと進む。

「しかしこの通路、どこまで続いているんでしょう。一応灯籠はありますけれど、ずっと先の方は真っ暗なままなので見えづらい──」



「この道がどこまで続いているかって?」

「それはもちろん、あなた達の死での道までに決まっているじゃない」



 と。

 暗闇の方から、唐突に二人組の男がオレ達の前に現れた。

 一人は細マッチョの優男で、もう一人はなぜか顔を真っ白に塗っている華奢な男だった。

 そんな二人に共通しているのは、両方とも見た目は人間っぽいけど頭に角が生えていて、そして肌にピッタリ貼り付いているような布にあちこち穴を開けた服を恥ずかしげもなく晒していた。

「ボクの名はポタージュ。ジャガ様の側近さ」

「アタシの名はビシソワーズ。同じくジャガ様の側近よ」

 変な格好の二人組が体をくねらせながらそれぞれ名乗りを上げる。側近って事は、かなり偉いって事か?

「ルルア、あいつらの事は知ってるか?」

「いえ、初めて見ます……。おそらく普段は魔王のそばから離れないようにしているのでしょう」

「魔王って、さっき言ってたジャギってやつか?」

 ジャガですよ、とルルアは突っ込みつつ、

「たぶんそうでしょうね。私も魔王の名前は初めて聞きましたが……」

「それはそうだろうね。人間風情が知っていいお名前じゃないのだから」

「そしてそのお名前は、あなた達の胸に秘められたまま、だれにも知られずに終わる事になるわ。死という形でね」

 顔を強張らせるルルアに、変な二人組が変なポーズを取りながら言葉を返す。忙しいやつらだ。

「用心してくださいソラさん。あのポタージュという魔族は15万、ビシソワーズという魔族は14万とソラさんの戦闘力よりも下回っていますが、魔王の側近という事はかなりの実力者のはずです。情報も全然ないため、どんな手を使うのかも予想が付きません」

「おー、わかった。ていうか、一体いつの間に戦闘力なんて測ってたんだ?」

「あの二人がクネクネとおかしなポーズを取っていた間に」

「抜け目ないなー」

「それはともかく、二人の怪しい動きには注意してください。二人組で出てきたという事は、何かしらの連携で来る可能性が高いです!」

「なかなかいい読みをするお嬢さんだね」

「でもそれがわかったところで、アタシ達の攻撃を防ぐのは不可能よ!」

 と、ルルアが警告した瞬間、顔の白い魔族が手から糸のようなものを出現させて、それを通路中のあちこちに張り巡らせ始めた。

「アタシのマシリいとは鋼より硬く、クモの糸

のようにしなやか……アタシ達魔族はともかく、人間がちょっとでも触れようものなら、血が噴き出る事になるわよ」

「そして──」

 その糸にひょいひょいと軽々と乗っかりながら、細マッチョの魔族がオレ達を見下ろしながら言葉を続ける。

「ボクのこの両手にはミドリ酸という強力な毒が付いている。触れただけで皮膚がドロドロに溶ける強力な毒だ。果たして君達に──」

「アタシ達の華麗かつ俊敏な攻撃を躱せるかしら!」

 顔の白い魔族が指をいじるたびに張りめぐらされた糸が波のように動き、細マッチョの音がバッタみたいに糸の中を飛び回る。

 おー。確かに早いな。今まで会ってきた魔族の中で一番早いかもしれん。魔族なんてちょっとしか会った事ないけど。

「あはははは! どうやら目で追うのがやっとのようだね!」

「喰らいなさい! アタシ達の最強連携技を──!!」

 締めに入ろうとしたのか、顔の白い魔族が糸を操って、細マッチョの魔族をオレのところまで勢いよく飛ばしてきた。

 そうして、猛然と両手を構えながら迫ってきた細マッチョに対し──



 オレは普通に顔面を殴って、ついでに顔の白い魔族のいるところまでブッ飛ばしてやった。



「がぁ!?」「しらぁ!?」

 と、変な悲鳴を上げながら床を転がる二人組。殴り飛ばしたやつはもちろん、それに巻き込まれる形で衝突された白い魔族もほとんど受け身が取れなかったようで、二人してすぐには起き上がれそうにない様子だった。

 その後、ちょっと間を空けてから──

「くうっ……。まさかボク達の技が全然効かないどころか、拳ひとつでボク達にこれだけのダメージを与えるなんて……」

「それもこんな人間ごときに……屈辱だわ……」

 と、よろめきながらゆっくり立ち上がった。

「ビシソワーズ、ここはもうあれを使うしかない。最後の手段だけど、このまま生き恥を晒すくらいなら、ここで……!」

「ポタージュ、アタシも同意見よ。悔しいけれど、もうあいつらと戦える状態じゃないし、このまま無様にやられるくらいなら道連れにしてやるわ……!」

 そう言うと、細マッチョと顔の白い魔族は脈絡なく手を繋ぎ始めた。

「あいつら、なんかまた変な事をやるみたいだぞ」

「ええ。しかも何やら不穏な事を言ってますね……ソラさん、ひとまず十分に警戒して──」



「「もう遅い!!」」



 と。

 ルルアが注意を促す前に、細マッチョの魔族と顔の白い魔族が同時にこっちへ猛ダッシュしてきた。

「喰らえ!」

「アタシ達の秘奥義!」

てん!!」「さん!」

 なんて。

 いちいち技名みたいなものを叫びながら肉薄してくる二人組に対し──



 オレは、即座に魔族の二人を天井目がけて蹴り飛ばしてやった。



「ちゃ!?」「おぅず!?」

 と。

 おかしな悲鳴を上げながら、天井をぶち破って空高く舞い上がっていく二人組。

 それからまもなく、一瞬閃光が走ったと思ったら、その後に突然起きた爆発と共に、魔族二人はそのまま跡形もなく消え去ってしまった。

「おー。綺麗な花火だなあ」

「いや言っている場合ですか!」

「あ、そうだな。いくら敵って言っても相手も今日まで必死に生きてきたやつだもんな。せめて空の上で安らかに眠ってくれるように祈ってやらないと……」

「いやいやそういう問題でもなくて! もっと驚きましょうよ! 私達、危うく自爆に巻き込まれるところだったんですよ!? まあソラにしてみれば、この程度の危険なんてどうって事ないんでしょうけれど!」



「──ほう。あの二人を倒したか」



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