第7話 魔王城での戦い!魔王軍はバラエティ豊か!!
なんやかんやあって。
オレとルルアは今、魔王城の中にいた。
「こ、今度こそ本当に死ぬかと思った……」
と、オレの横で地べたに手を付きながら、ルルアが震えた声で呟く。
まるで全力で走ったあとのような、そんな息も絶え絶えな感じで。
「覚悟はしていたつもりでしたが、石柱ぐ外壁にぶつかった瞬間、走馬灯が見えそうになりましたよ……」
「でも、どこもケガはしなかったろ? 無事に済んでよかったな」
「無事って言えるんですかね……? いや、確かにソラさんがとっさに身を挺して庇ってくれたおかげでケガひとつありませんでしたけれど、そのせいで埃まみれだわ寿命は縮んだわで、相対的に見たら無事とも言えないような……」
「あー、それはすまんかった。女の子は汚れるのを嫌がるって、爺ちゃんも言ってたような気がするし、もうちょっと気を遣うべきだったかも」
「……いえ。よくよく考えたら敵地に来ているわけですし、汚れなんて今さら気にしている場合じゃないですよね。こちらこそ些末な事でつまらない愚痴を言ってしまってすみませんでした」
言って、パンパンと肩や裾に付いた埃を手で払いながら、ルルアはゆっくり立ち上がった。
「あ、訊くまでもないかもしれませんが、ソラさんの方は大丈夫でしたか? 思いっきり背中から壁に当たっていましたが」
「おー。これくらいなら全然平気だぞ」
こんなの、爺ちゃんと稽古していた時に比べたら蚊に刺されたようなもんだ。
「それは何よりです。さて、ここからどうしましょうか……」
なんて話していると、どこからともなく地鳴らしのような足音が聞こえてきた。
その足元はあっという間にでかい音へと変わり、気が付いた時には人間じゃない二足歩行の変な生き物がオレ達の前に押し寄せてきた。
「おー。なんかいっぱい来たけど、なんだあれ?」
「魔族ですよ魔族! 騒ぎを聞いて駆け付けてきたんですよ!!」
「あー。めちゃくちゃ壁ぶっ壊しちゃったもんなー。やっぱ弁償かな?」
「そんな心配している場合ですかっ!」
「ほう。衝撃音を聞いて来てみれば、まさかの人間だったとはな」
と。
一番先頭にいた牛みたいなやつが、着ている鎧をカチャカチャ鳴らしながら前に出てきた。
「しかも壁を突き破ってくるとは。人間が来るのはもう何十年前になるかわからないくらいだが、さすがにこんな派手な登場は予想だにしなかったぞ。なあ、コガネよ」
「きひひ。とはいえ所詮は人間──魔王軍特攻隊長であるホッカイ様の手にかかれば、やつらなど羽虫を潰すかのごとく容易く葬れましょう」
今度はローブを着た骸骨が牛の魔族に並んで言葉を返した。骨にしか見えんけど、あいつも魔族って事か。
「あ、あれは『暴虐のホッカイ』に、『謀略のコガネ』……!」
「ん? 知ってるのか?」
「はい! どちらも厄介な敵です! ホッカイは一個小隊を一人で壊滅状態に陥りさせたほどの相手で、コガネはその残忍極まりない策略で多くの被害が出ています! 油断は禁物ですよソラさん!」
「おやおや。どうやらこちらに詳しい人間がいるようですねぇ、ホッカイ様」
「ふん。関係ないわ。どれだけこちらの事を知られていようと、俺様の手に掛かれば無意味も同義」
「仰る通りで。しかし
言いながら、骸骨の魔族が懐からルーペのような物を取り出した。
ていうか、あれって──
「あれはハカレター!? なんで魔族が!?」
「やっぱりそうか。いつ魔族にあげたんだ?」
「あげるものですか! おそらく戦場かどこかで盗まれたんだと思います! しかし、たとえ盗まれたとしても邪悪な魔力には反応しない仕様になっているはずなのに、どうして……!」
「きひひひひ! そんなもの、我らが使えるように改良すればいいだけの事! 我が研究班にかかれば造作もなかったわ!」
「そんな……!」
骸骨の魔族の言葉に、ルルアは愕然とした面もで後ずさった。
そういえばハカレターって、ルルアの父ちゃんが開発した魔導具なんだっけ? どれだけすごいのかはわからんけども、父ちゃんが苦労して作ったものをいともあっさり改良されたら、そりゃあショックもでかいよな。父ちゃんの事、すごく尊敬しているような感じだったし。
「どれ、まずはそこの
嘲笑混じりに言う骸骨の魔族に、ルルアは「くっ」と悔しそうに表情を歪めた。
戦闘力をバカにされた事よりも、実際にああやって魔族にハカレターを使われている事の方が悔しいんだろうな、きっと。
「さて、次は隣りの男じゃな。まあどうせ、こいつのカスみたいな戦闘力に違いない……ん!?」
「どうしたコガネ。急に妙な声を出して」
「そ、それがホッカイ様、こやつの戦闘力が正確に測れないです……。1000から5000、8000、9000と先ほどから数値の上昇が止まらな──戦闘力10万を超えた!? こやつめ、一体どれだけの戦闘力を……ひょえ!?」
と。
一体何が起きたのか、オレの戦闘力を測り終えるまでにハカレターが突然煙を出したあと、爆発音と共にバラバラになってしまった。
「なあルルア。あいつのハカレター、なんか壊れてしまったみたいだぞ。不良品だったのか?」
「いえ、そんなはずは……おそらく改良が元でハカレターに何かしらの負荷がかかって、高過ぎるソラさんの戦闘力を正確に測れなかったのではないかと」
「なんだ。じゃあ、あいつらが余計な事をしたせいって事か」
ジゴウジトクってやつだな。
なんてルルアと会話していると、骸骨の魔族が「役立たずめ!」と八つ当たりするようにハカレターの余った部品を床に叩き付けて、
「人間ごときが……! 魔族であるワシをバカにしおって……!」
「バカになんてしてないぞ。本当の事を言っただけだぞ」
「ソラさんそれ、フォローになってないかと……」
「おのれぇ! この上、まだこのワシをコケにしおるかぁ!」
「落ち着けコガネ」
と。
いきり立つ骸骨の魔族に、横にいた牛の魔族が腕を伸ばして制した。
「やつが油断ならない相手という事がわかっただけでも僥倖だ。要は全力で叩けばいいだけの事!」
そう力強く言って、牛の魔族がいきなり両腕をクロスさせた。
あの殺気からすると、何かの構えか?
「存分に喰らうがいい。我が最大にして最強の攻撃魔法を!!」
直後。
牛の魔族が大きく口を開けて──
「ナッ
突如として吐き出された、目も眩むくらいのでかい光線。
その光線は、勢いよくオレとルルアの元へと飛んできて──
オレはその光の直線を、平手で叩いて魔族達のところまで跳ね返した。
「バカな!? 俺様の『ナッ波』をあんな軽々と跳ね返すなど、ありえな──」
それ以上、言葉は続かなかった。
その前に光線の直撃を受けて、牛の魔族や骸骨の魔族どころか、後ろに控えていた魔族も巻き込んで吹き飛んでしまったのだ。
「「「「ぎゃあああああああああ!!??」」」」
「おー。なんか大変な事になってるなー」
「そんな他人事みたいに……。いや、別に敵なんでどうでもいいですけれど……」
目の前でたくさん倒れている魔族を見ながら、溜め息混じりに言うルルア。
最大とか最強とか言うから、もっと苦労するかと思ってたけど、案外簡単だったなー。
まあ、向こうは全滅しちゃったみたいだけど。
すごい爆発音と煙だったし、強力な攻撃だったのは間違いなかったみたいだ。ルルアに喰らっていたら、きっとただじゃ済まなかったなー。
「で、ルルア。魔王ってのはどこにいるんだ?」
「もう眼中無しですか……。えっと、たぶん最上階かと。どこかに階段があると思うので、そこから上るしかないですね」
「階段かー。でも上っている間に敵がわんさか攻めてくるんじゃないか?」
「そりゃ向こうも必死でしょうし、そこは仕方ありませんよ。まあ守ってもらう立場でしかない私が言うのも気が引けますが……」
「そこは別にいいんだけど、あんまり多いのも面倒だしなー」
とか言っている間にも、さっきの大きな爆発音を聞き付けたのか、前から後ろから続々と現れてきた。
「な!? 一体これは何事!?」
「ホッカイ様やコガネ様が倒れてる!? まさかあの人間達にやられたのか……!?」
「ホッカイ様とコガネ様を倒すなんて、かなりの強者だぞ! 絶対気を抜くな!」
「なに、我ら『
うん。やっぱ面倒くさいな。
「ルルア、ちょっと抱き付くぞ」
「きゃ! ソ、ソラさん? 一体何を……?」
「最短ルートで行く。しっかり掴まっておけ」
「待って待って待って!? この展開、なんだか覚えがあるというか、すごく嫌な予感が──」
と、ルルアが言い終わる前に。
オレはルルアを抱き寄せたまま、真上に向かって全力でジャンプして、天井を突き破った。
「ぎゃあああああああ!? ぎゃあああああああ!? ぎゃあああああああああ!?」
天井を次々に突き破るたびに、涙の混じった声で絶叫するルルア。ルルアは叫んでばっかだなあ。
とかなんとかやっている内に最上階に到着したみたいで、最後の天井を突き破った時には、頭の上に青空が広がっていた。
「おー。最上階に着いたみたいだなー」
「うふ……うふふ……金色の雲が見えます〜。あの緑色の星は一体なんでしょう〜?」
小脇に抱えたままのルルアが、白目になりながらよくわからない事を口走っていた。夢でも見てるのか?
「起きろルルア」
デコピンすると、ルルアは大袈裟に仰け反って「あいたー!」と額を押さえながら声を上げた。
「あれ? ここは……?」
「最上階だぞ」
「あ、そうだ。ソラさんが突然天井を突き破りながら真上に飛んで……っていきなり何するんですか!? どんだけ私の寿命を縮めれば気が済むんですかああああああ!」
「けど、そのおかげですぐ最上階に着けたぞ。敵とたくさん戦わずに済んだし」
「それはそうなんですけれど! そうなんですけれどおおおおおおお〜!」
「それより、ほら、なんか目の前にでかい扉があるけど、ここに魔王ってやつがいるんじゃないか?」
「あ、ほんとですね……」
すぐそばにある大扉を見上げながら、どこか呆然とした表情で呟くルルア。
「まさか本当にここまで来れちゃうなんて……」
「ん? 信じられないのか?」
「そりゃそうですよ。だって30年以上も前に一度だけ冒険者が潜入できただけで、それ以来だれも到達できた事がないんですから。それなのにこうして二人だけで来れるなんて、今でも夢を見ているかのような気分です」
「夢じゃないぞ。現実だぞ」
「そうですね」
ふふ、とルルアが可笑しそうに顔を綻ばせた。
ずっと緊張したり怖がっている表情ばかりだったから、笑えるくらい余裕が出てきたみたいでちょっと嬉しい。
「でも、本当の夢は魔王を倒す事ですから。ここからが本番です」
「おー。それは気を引き締めないとなー」
「ソラさんが言うと、なんか逆に気が抜けそうですけれどね」
そう苦笑したあと、ルルアはオレの手から離れて、改めて大扉と向き直った。
「では、さっそく行きましょうかソラさん」
「おー」
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