第6話 魔王城へ一直線!巨大イカはアラレで倒せ?
「ぎょえやあああああああああああああああああ!?」
王様との謁見が終わってから、しばらくして。
オレとルルアは今、海の上にいた。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! 死んじゃいます本当に死んじゃいますからこれええええええええええええ!!」
ていうか。
海の上というよりは、石柱の上に立っていた。
「無理無理無理ぃ! 怖いぃぃぃ! 足を滑らせたら海に真っ逆さまじゃないですかぁぁぁぁぁ!!」
「大丈夫大丈夫。今みたいにオレにずっとしがみ付いていたら」
「そういう問題じゃないですぅぅぅぅぅ!!」
難しい問題だなあ。
「そもそも、もっと良い方法はなかったんですか!? 全力で投げた石柱の上に飛び乗って魔王城まで行くなんてぇ!」
「でも、こっちの方が早いぞ?」
「そうかもしれませんけれど、それにしたって無茶苦茶すぎますぅぅぅぅぅ!」
無茶苦茶かなあ? オレ的には良い方法だと思ったんだけどなあ。
そんなこんなあって、今の状況を改めて説明すると。
ルルアがさっき言った通り、オレは王様に頼んで石柱を一本貰った(割った)あとに、それを魔王城目掛けてぶん投げて、それからすぐさまルルアを連れて石柱の上に飛び乗ったのだ。
理由はついさっきも言ったけど、その方が早いと思ったから。
「だいたい、そこまで急ぐ必要性あります!? 明日、魔王軍が一斉に攻めてくるとからならまだしも、今のところそんな話は来てませんし、こんな何も準備しないまま魔王城に行かなくてもよかったじゃないですかぁ! まして私達二人だけで行くなんて無謀すぎますよ〜!」
「けどさ、それってもしかしたら死ぬ人が出るかもしれんって事だろ? 知らん人でも人が死ぬのはイヤだし、オレ一人でなんとかなるなら、そっちの方がいいかなって。もしも途中で迷ったりしたらまずいから、ルルアだけは連れてきたけどさ」
「……私を連れていく事自体はいいんですけれど。もとより、そのつもりだったので。ただ、一言相談くらいはしてほしかったですよ……魔王城の方向を聞いたらすぐだったんですもん」
「あー。それはすまん。そこまで考えてなかった」
さっさと魔王を倒して、とっとと帰る事しか考えてなかった。
ニンジの国に着いてから思い出したんだけど、うっかり戸を開けっぱなしにしたままここまで来ちゃったんだよなあ。
かなりの山奥だから盗人が来る心配はないと思うけど、サルとかクマとかが入ってくる可能性はあるからなー。家の中を荒らされたりしたらすごく困る。
「それ以前に、ですよ? もしも魔王城まで飛んで行く途中に高い山があったりしたらどうするつもりだったんですか? 絶対そこで行き詰まりになってましたよね?」
「その時はいったん石柱から降りて、それから山を登って適当な大木を倒したあとに、またその上に乗って行くつもりだったぞ」
「どのみち無茶な事に付き合わされていたってわけですね……」
命がいくつあっても足りません、と深い溜め息と共に愚痴をこぼすルルア。
「そこまで心配せんでも、ルルアはちゃんとオレが守るから大丈夫だぞー。ケガひとつさせるつもりはないから安心しとけ」
「そ、それはどうも……」
「ん? なんかお前、ちょっとだけ顔が赤くなってないか? どうかしたか?」
「こ、こっち見なくていいですから! どうもしてません!」
ところで! と相変わらず怒ったような口調でルルアが続ける。
「ソラさん、さっきからどうやって喋っているんですか? 私はソラさんの背の後ろにいるので、多少は平気ですけれど、普通は風圧で口も動かせないはずですよ? まして、こんな猛スピードで海の上を飛んでいるのに」
「んー。気合かなあ。気合があればなんでもできるしな」
「すごいな気合……」
なんて話しながら海の上を飛んで、かれこれ3、40分くらいは経ったかな。
まだだいぶ離れているけど、肉眼で豆粒サイズくらいの城のようなものが見えてきた。
「おー。あれが魔王城かー。けっこうでかそうだな」
今はまだ豆粒程度だけど、めちゃくちゃ離れた位置から見てもあのサイズという事は、もしかしたらルルアの国で見た城よりもでかいかもしれん。
「ん? ていうかあれ、なんか浮いてないか?」
「ええ。洋上にあるとは言いましたが、海の上に浮かんでいるわけではなく、海の上の空に浮いた状態で城があるんです」
「へー。で、あれってどうやって浮かしてんだ?」
「おそらく魔法の類いではないかと。魔族は魔法を使える者もいますから」
「すげぇな魔法」
気合よりもなんでもできるかもしれん。
「あれ? でも船で来たやつらはどうやってあそこに行くつもりだったんだ? 船からジャンプでもするつもりだったのか?」
「まさか。ソラさんならできちゃいそうですけれど、普通の人間はジャンプなんてしても全然魔王城には届きませんよ」
「じゃあ、どうやって?」
「魔王城の真下に転移用の陣があるんです。それさえ起動できれば私達でも魔王城に潜入する事自体は可能です」
その起動がまた難しかったりするんですがと苦笑しつつ、ルルアは説明を続ける。
「しかし私が懸念しているのはそこではありません。重要なのは私達が『
「なんだそれ?」
「『海王圏』……魔王城周辺の海を指すと同時に、魔王城における絶対防衛ラインの事でもあります。ここら一帯には特殊な結界のようなものが張られていて、侵入者が来るとすぐに魔王城にまで伝わる仕様になっているんです」
「でも、そのわりにはだれも来ないぞ?」
「おそらく、船ではなくこうして空を飛んでいるおかげかと。魔族には空を飛べる者は存在しないので。ただ……」
その先は聞けなかった。
突然海の中から、青い瞳の巨大なイカが現れたからだ。
距離自体はまだあるのですぐにどうこうってわけでもないけど、それでもめちゃくちゃデカいのだけはわかる。
麓の村で一度だけ見た事あるけど、その時のイカよりも何十倍もデカいな。うちの家よりも一回り以上は大きいかもしれん。
「おー。なんだあれ?」
「あ、あれはブルーショウグン!」
と、接近しつつある巨大なイカに慄いた表情で言うルルア。
「ブルーショウグン? あのイカの事か?」
「はい! 魔王城周辺の海を守っている魔族の内のひとりで、この海を支配している厄介な敵です! 『海王圏』という名も、あれを恐ろしさを忘れないために付けられたほどなんです! ブルーショウグンのせいで、これまでどれだけの船を沈められた事か……っ」
「ほー。でもなんでオレ達に気付いたんだろうな。空にいたら結界ってやつの力は働かないはずだろ?」
「ブルーショウグンは異様に気配を感じ取るのが上手いんです。今までもどうにか魔族達の猛攻を振り切りつつ、密かに魔王城へ潜入しようとした事もあったのですが、ことごとくブルーショウグンに防がられてしまい……」
なるほど。気配を読める相手ってわけか。
「けど、そこまで心配する必要もなくないか? だってこっちは空にいるわけだし。たぶんあいつが脚を伸ばしても届かんと思うぞ?」
「ブルーショウグンの脚は通常のイカよりも何倍も長いんです! もしかしたら、こちらまで届くかもしれません! そうなったら吸盤に引っ付かれて逃げ道が無くなっちゃいますよ!」
「マジかー。それは困るな」
川では何度も泳いだ事はあるけど、海は一度もないしなー。というか海を見たのもこれが初めてだし。
まあ、それでもなんとかできる自信はあるけど、オルルアはさすがにヤバいかもしれないな。もしも海まで引きずり込まれでもしたら、オレが助けるまでに息が続くかどうかもわからんし。
という事は、あれだな。センテヒッショウしかないなー。
などと考えている内に、ほんとにイカがオレ達に向けて勢いよく数本の脚を伸ばしてきた。水飛沫を上げながら。
「き、来ましたよソラさんっ!」
「おー。任せとけ」
なんて応えつつ、オレは足元の石柱を少しだけ手掴みで砕いて。
それを石つぶてみたいな感じで、巨大イカ目掛けてぶん投げた。
すると、巨大イカは石柱の破片が直撃すると共に
「おー。海が黒くなってるー。イカの血って黒いんだなあ」
「いえ、たぶんあれはイカ墨……じゃなくて! なんですかあれ!? あっさりブルーショウグンを倒しちゃったんですけれど!?」
「おー。さすがに空から腕は届かんから、適当なやつでも投げて攻撃すれば何とかなるかなって思ってな。で、石柱くらいしか周りになかったから、それをちょっと砕いて投げ付けてみたらどうかなって。名付けてアラレ攻撃だ」
「割とそのまんまのネーミングですね……」
それ以前にハチャメチャ過ぎます、となんでか呆れた口調でルルアに言われてしまった。なんかダメだったのかな?
とかなんとか言っている間にも、魔王城に近付きつつあった。
おー。こうして近くから見るとやっぱりでかいな。割と高めに石柱を投げたつもりだったのに、それでも魔王城の中央くらいの一度にしか行けそうにない。あとは自力で上るしかないかー。
「……あのー、ソラさん」
と。
オレが魔王城を見上げていると、背中にいるルルアが恐る恐るといった感じで声を掛けてきた。
「私、今さらながら重大な事実に気付いてしまったんですが……」
「ん? なんだ?」
「私達、このまま行くと魔王城の外壁に思いっきり衝突してしまうと思うんですけれど、このあとはどうされるおつもりなんでしょうか?」
「………………」
「………………」
「あ」
「いや『あ』ってなんですか『あ』って! まさかのノープラン!?」
「あーまあ、なんとかなるだろ。いけるいける」
「どちらかというと『逝ける逝ける』の間違いなのでは!? いやああああ! こんな所で死にたくなんてないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「ルルアは心配症だなあ」
まあでも、オレはともかくルルアにケガをさせるわけにはいかんし、ここはオレがクッションになって少しでも衝撃を柔らげてやらないとな。
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