第3話 いざニンジの国へ!行き方は瞬間移動?
オレの返答を聞いて、ルルアがおったまげたと言わんばかりに凄い勢いで顔を上げた。
「そんで、ノリかっる!!!! え、本当にいいんですか? こんな事を頼んでおいてなんですが、とても危険な旅になると思いますよ?」
「でも、その魔王ってやつのせいでみんな困ってるんだろ? だったら協力するよ。オレならその魔王ってやつに勝てるかもしれないんだろ?」
「それはそうなんですが、あくまでも30年も前の話ですし、それにたとえ戦闘力が当時のままだったとしても、どれだけの配下を従えているか未知数です。しかもどんな汚い手を使ってくるかもわからないので、命の保障はできませんが……」
「んー。まあなんとかなるだろ」
「ら、楽観的ですね……」
「オレだって、だてに小さい頃かりこの山でずっと修行してないしな。強さには自信がある。それに……」
返事をしながら、オレはおもむろに腰を上げてルルアに手を差し伸べた。
「困っている人を見たら迷わず助けろって爺ちゃんに教えられたからな。だから、オレは全力でお前を助ける事にするよ」
「ソラさん……」
ウルウルとした瞳でオレを見つめるルルア。
その後、ルルアはオレの手を力強く握って勢いよく立ち上がった。
「ご協力、心から感謝します! これからよろしくお願いいたします」
「おー。こっちこそよろしくなー」
「さて、そうと決まったらさっそく準備しないといけませんね。ソラさん、今からニンジの国まで転移するので、今の内に荷造りなどをお願いします」
「ん? 別にこのままでもいいぞー」
「え? このままって……」
と、なんか困惑した顔でオレの姿を上から下までジロジロと見てくるルルア。
「あのー、道着だけっていうのはさすがに……。着替えくらいは用意した方がいいのでは?」
「道着は他にもあるけど、今は洗濯中だしなー。濡れたままで持っていくわけにもいかんし、まあ、もしもこれが破れたりしたら現地調達すれば大丈夫だろ。基本、ここじゃあ自給自足が当たり前の生活だったしなー」
「現地調達って。ニンジの国は都なので、クマやイノシシといった
「でもオレ、金なんて全然持ってないぞ。さっきも言ったけど、自給自足の生活だったからさー」
「さすがにそれくらいはこちらでお支払いしますよ。無茶を言っているのはこちらなわけですし」
「マジか。それはありがてぇ」
「いえいえ。むしろこれくらいでいいのなら好きなだけ言ってください。ソラさんには魔王を倒すという大丈夫な使命があるんですから」
そこまで言ったあと、ルルアは踵を返して、そのまま外に向かって歩き出した。
「ではさっそくニンジの国に行きましょう。暗くなる前に王への報告を済ませないといけませんから」
「おー。でもどうやってそこに行くんだ? 歩いていくのか?」
歩いて行ったら日が暮れるどころか一か月近く掛かっちゃいますよと苦笑しつつ、ルルアは戸を抜けて外に出たあと、唐突に懐をまさぐり始めた。
「えーっと、確かこのへんに……あったあった。ニンジの国にはこの魔導具を使って行きます」
じゃじゃーんとルルアが取り出したのは、一見すると小さなランタンのような物だった。
「それってランタンか? 麓の村へ下りた時に何度か見た事あるぞ」
「形状自体はランタンそのものですが、ただのランタンではありません。これは一瞬で空間を転移する事ができる『ヤードランタン』という名の魔導具です」
「おー。じゃあこの山にもその魔導具を使って来たってわけか」
「その通りです。他の荷物はうっかり落としてしまいましたが、これとハカレターだけは肌身離さず持ち歩いて本当によかった……。もしもこれまで無くしていたらと思うとゾッとしますよ……」
「でも、変な場所に転移してたよな?」
「た、たまたまです! まだ研究途中の魔導具なのでこれから改良していく予定なんです! 今後は寸分違わず転移できるようにしてみせますよ!」
「けど、それは改良前なんだろ? このまま使って大丈夫なのか?」
「……………………」
「……………………」
「た、たぶんきっとおそらく大丈夫ですよ! 実際ちょっとズレただけなんですから! 開発者の私が言うのもなんですけれど!」
「開発者だったのかー」
おっちょこちょいなやつとだとは思ってはいたけれど、かなり行き当たりばったりな面もあるらしい。
「しかしまあ、しょうがないかー。オレもできるならはやく帰りたいし」
何日も家を空けちゃうと埃かぶっちゃうし、それに保存食が傷んじゃうかもしれないしなー。
「そうでしょうそうでしょうとも! ではさっそく転移の準備に取りかかりますね!」
何か誤魔化すように早口で言ったあと、近くにあった木の棒を手にして地面に紋様のようなものを描き出すルルア。
「? さっきから何してんだ?」
「魔導印という特殊な模様を描いています。これを描いてからでないと『ヤードランタン』が発動しないんですよ」
言いながらも二人分は入れるくらいの大きさの模様を描いていく。
そして最後に小さな円のようなものを描いたあと、そこにあのランタンを置いた。
「これでオッケーっと。あとは、これに私の魔力を注いで……」
ルルアがランタンの頭に手をかざして、変な言葉を呟く。するとランタンの火が一人でに灯った。
「おー。手品みたい」
「そこは魔法みたいと言ってほしかったところなんですけれどね。魔導師としては」
それはともかく、と苦笑いで続けたあと、ルルアは「はい」とオレに手を差し出してきた。
「私と手を繋いでください。こうしないと、一緒に転移できないので」
「わかった。そのあとは?」
「あとはこの魔導印の中に入ってもらえるだけで大丈夫です」
了解、と言われた通りにルルアと手を繋いで紋様の中に入る。
「これで準備完了です。今すぐにでも転移できますけれど、忘れ物などはありませんか?」
「おー。こっちはいつでも大丈夫だぞー。さっそく頼むぜ、ルーラ!」
「いやあの、ここでその間違え方はやめてもらっていいです!? なんかこう、色々まずい気がするので!」
「あ、悪い。転移なんて初めての経験だからさー。テンションが上がるあまり言い間違えちまった」
「こほん。では気を取り直して……」
言って、ランタンの頭に人差し指と中指を当てながら瞼を閉じるルルア。
そして、気が付いた時には──
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