第1話 オレの名はソラ!最強の武闘家!!
昔、
そしてこうも言っていた。「困っている人や助けを求めている人を見かけたら迷わず助けなさい。それはお前の心の恵みになる」と。
そんなわけで、爺ちゃんの言いつけを守って、いかにも山中で遭難していたっぽい人を迷いなく助けたわけなんだけど──
「ぜはぁ! ぜはぁ! ぜぇぜぇぜぇ……っ!」
遭難した人、めちゃくちゃ息切れしてた。
というか、今にも呼吸が止まりそうだった。
「おーい、大丈夫かー? よかったら背負ってやろうかー?」
「い、いえ、見ず知らずの男性にそこまでしてもらうわけにもいかないので……ぜひゅーぜひゅー!」
と、相変わらず息も絶え絶えに答える遭難者、もとい白髪の女の子。
見た目はオレと大して変わらない年齢(たぶん15歳くらい?)な感じだけど、こんな山奥に女子ひとりで来るなんて、ずいぶんと無茶するなあ。しかも明らかに山に不慣れな感じだし。
「なあ、あんた。こんな山奥に何しに来たんだ? 変なローブ被ってるし、裾も無駄に長くて歩きづらそうだし、それ以前に軽装だし、色々と山に入るには無謀過ぎる格好だと思うぞ」
「こ、こんなはずじゃなかったんです……。予定では目的地近くの山中まで飛ぶつもりだったのですが、目標が外れてこんな辺鄙な所に……!」
言っている意味はわからんけど、どうやら遭難しかけていたのは間違いないらしい。
「まあ、こんなところにいつまでもいるわけにもいかないし、とりあえずオレのいる小屋まで案内するつもりでいるけど、あんたもそれでいいか?」
「そ、そうですね。本当はすぐにでも会いたい人がいるのですが、なぜかここではハカレターもおかしくなって使えませんし、ひとまずあなたに付いて行く方向で……」
「吐かれた? 気分でも悪いのか?」
「いやそういう意味じゃなく……うっ。苦し過ぎて本当に気持ち悪くなってきました……」
「しょうがねぇなあ。ほら、やっぱり背負ってやるから、遠慮なくオレにおぶされ」
「うぅ……面目ありません」
「いいっていいって。情けは人の為ならずってな。困った時はお互い様だ」
なんて爺ちゃんが昔よく言っていた言葉をそのまま口にしつつ、よろよろとおぶさってきた白髪の子を難なく背負う。
うお、思っていたよりめちゃくちゃ軽いな。正直同い年くらいの女の子と接するのは初めてなので基準はわからんけど、もっと重いもんかと思ってた。まるで木の葉でも背負っているかのような気分だ。
「んじゃ、さっそく行くとするか。もうじき昼飯時だから、ここからかっ飛ばして行くぞー」
「え? いやでも、私を背負ったままでこの傾斜の険しい山を登るのは大変じゃあ……ってぎゃあああああああああああああああ!?」
「し、死ぬかと思った……」
あれから、十五分ちょっとくらいで無事オレんチに辿り着いたあと。
白髪の女の子は何故か真っ青な顔色で床に両手を付いていた。
「大袈裟だなあ。あれくらい普通だろ?」
「全然普通じゃないですからっ! さながら全力で走る馬にでも乗っているかのごとく猛スピードで山中を進んでいったんですよ!? いつ滑落するかとか木々に衝突するかとは色々命の危険を感じる瞬間があり過ぎて、肝が冷えたどころじゃありませんでした!!」
「えー? でもちゃんとあんたを支えながら駆けていったから落ちる心配なんて全然なかったはずだぞ? それに木だってちゃんとよけてたし」
「そうでしたけど! そういう問題でもなくて!」
「まあまあ。ひとまず水でも飲んで落ち着け」
言って、水の入った竹筒を渡す。
「あ、これはご丁寧にどうも……」
受け取ると、白髪の女の子はよっぽど喉が乾いていたのか、そのまま一気に飲み干してしまった。
「はあ〜。生き返る〜。あ、これ、ありがとうございました」
「おー。しかし、いい飲みっぷりだったなな」
空になった竹筒を受け取って流し場に置いたあと、オレも女の子の前に腰を下ろした。
「は〜、ほんと助かりました。一応山に登るための飲み物とか小道具とかもカバンに入れて準備していたのですが、途中で落としてしまい……」
「あー。だから会った時、何も持ってなかったのか。やたら軽装だし見慣れない格好してたから、最初はヤバい奴かと思ってちょっと警戒してしまったぞ」
「うぅ……本当はこんなはずじゃなかったんです。予定では目標地点の近くまで転移して、そこから日が暮れるまでに目的の人物を探すはずだったのに……」
ここまで話を聞くに、どうやらそそかっしいというか、かなりおっちょこちょいな子のようだ。
「じゃあ良かったな。日が暮れる前にオレに見つかって。でなかったから、あのまま遭難してくたばってたか、下手したらその辺にいた獣に襲われてたぞ」
オレがそう言うと、白髪の女の子は「ひえっ」と小さく悲鳴を上げてさらに顔を青褪めた。そこまで考えていなかったらしい。
「ほ、ほんとに命拾いしました……。いざとなれば帰る方法もあるにはあったのですが、あんな平地でもないところでは
「なんかさっきから聞き慣れない言葉ばかり出てくるけど、結局あんた、どこから来たんだ? 少なくとも山の麓にある村から来た奴じゃないだろ? どう見ても山に慣れてないっぽいし」
「あ、はい。そういえばまだ名乗っていませんでしたね」
言って、いったん竹筒を床に置いたあと、白髪の女の子は居住まいを正してこう続けた。
「私の名前はルルア……ここから山を越えた遠方にある王都から来た、ニンジの国の魔導師です」
「ニンジの国……魔導師……」
その言葉に、オレは思わず首を捻った。
「うーん。悪いけど、どれも聞いた事ねぇなあ」
「聞いた事ないって、一応この山もニンジの国の領内なんですが……まして魔導師を知らないなんて、よほど人と隔離した生活を送りでもしない限りはそんな事ありえないはずなんですけれど……」
「実際、人里には全然下りないしなあ。三ヶ月に一度くらいに山で取れた山菜とか獣肉を物々交換しに行く程度だし」
「なるほど。あまり人と接する機会がない生活を送っているんですね。それもこんな山奥ともなると、世間に疎くなるのも無理はありませんか……」
「ああ。だからルーラの言っている事はちょっとオレにはわかりづらいな」
「ルーラじゃなくてルルアです……」
「おっと、悪い悪い。名前を覚えるのは昔から苦手だからうっかり間違えちまった」
「いえいえ。ところで、あなたのお名前は?」
あー。そういやオレもまだ自分の名前を言ってなかったっけ。
「オレはソラ。小さい頃からずっと爺ちゃんと一緒にこの山で修行している武闘家だ」
「武闘家……」
そうオレの言葉を繰り返したあと、ルルアは今になって気付いたとばかりに「あっ」と小さく声をこぼした。
「だから、そんな道着のような格好を……」
「これか? クマの毛皮から作ったもんだけど、よく出来てるだろ? 意外と丈夫で物持ちもいいんだ、これが」
なにせ、小っちゃい頃に着ていた道着を雑巾にして今も使ってるけど、まだまだ現役だしな。
今着ているやつもだんだんキツくなってきたからそろそろ新しくした方がいいかもしれんが、少なくとも今の道着を雑巾にする予定は当分先になるような気がする。
「今の話を聞いて腑に落ちました。私を抱えて山の中をぐいぐい進めたのも、幼い頃からこの険しい山で修行していたおかげだったんですね。どうりで、私以上に軽装だっだったわけです」
「ここはオレにとって庭みたいなもんだしなー。麓の連中みたいに山用の装備は必要ねぇんだ」
「確かに、いかにも鍛えている感じと言いますか、どこにもいる黒髪の少年といった顔とは裏腹に筋肉がすごいと言いますか……。その辺にいる兵士や冒険者よりもなんだか強そうです」
「強いかどうかはわからんが、クマやイノシシくらいだったら簡単に倒せるぞー」
「いやそれ、十分に強い方だと思うんですが……」
そこまで言って、ルルアは唐突に首を傾げた。
「……あれ? 観測機が感知した強大な力の持ち主って、ひょっとしてソラさん? いえでも、そのわりには魔王と倒せるような雰囲気には見えないと言いますか……」
またなんかルルアがよくわからない事をぶつぶつ呟き始めた。
ルルアはよくわからない事を言うのが好きなやつなのかもなー。
「あ、そういえばソラさん。さっきお爺さんがいると言っていましたよね? そのお爺さんはとてもお強いんですか?」
「おう、強いぞー。なんせオレの師匠だからなー」
「ほんとですか!? じゃあその人かもしれません!」
「? 何がだ?」
「実は私、ここにいる強大な力の持ち主を訪ねてきたんです。とある任務を果たすために」
「任務? それで爺ちゃんの力を借りに来たのか?」
はい、と真剣な顔で頷きルルア。
「そっかー。でもわざわざこんな山奥まで来てもらって悪いけど、それは無理だ」
「な、なぜですか? もしや、とても気難しい方だったり……?」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
どう説明したもんかと頬を掻きつつ頭を悩ます。ぶっちゃけ、今のルルアに本当の事を言っていいかどうかわからなかったからだ。
なんか知らないけれど、爺ちゃんに期待してここまで来たみたいだし。
でもやっぱりここは正直に話し方がいいか。隠したところでどうにもならないしな。
「ごめん。ちょっと言いづらいんだけどさー」
と前置きしつつ、オレは言葉を紡いだ。
「実は爺ちゃん、二年前に死んじゃってるんだわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます