第6話 辺境伯のお願い


バートの、その言葉にちょっとだけど、私の気分が晴れた。自然に笑顔になっているのが自分でも分かる。


「俺に何かできることはないか」


バートは私が落ち込んでいるのを分かっている。アースリーでも励まされました。でも、こればっかりはどうにもなりません。私は首を横に振りました。


「じゃぁ、俺からお願いがあるんだけど、殿下」


はぁ? この人、なんなの。ちょっと心を許せばズケズケと。


「魔族が暴れまわったおかげでこの王国は孤児ばかりになってしまった。その孤児を殿下に引き取ってもらいたいんだ。殿下が教育してアースリーに送ってほしい。アースリーは魔王城が近くて人が住んでなかっただろ。耕せばそれは自分の物になるし、商売すれば何の争いもなく商権が手に入る。早い者勝ちってわけさ」


「だから、なんで私が」


「なんでって」


バートは声を上げて笑った。


「あなたしか出来ないのです、殿下。あなたは王族なのですよ」


バートはひざまずいた。そして、立ち上がる。


「俺も微力ながら全力で殿下を応援させて頂きます。俺はこの度、陛下に辺境伯の地位を授かりました。もちろん、ここに来るのも了解を得ています。こういうのもなんだが、殿下はあまり陛下に慕われてないようだ。殿下の部屋に行くのを俺みたいなやからに御許しになられたのだからなぁ」


言われなくても、分かってる。


「どうですか。やってくれますか。孤児院はレイフィールド学園と名付けましょう。後世にアラン殿の名が残りましょう」


アランの名。


「それともう一つ。これはエイミー・マクドーネルに頼みたい。アラン殿の活躍をちゃんと本にして頂きたい。記事はほとんど手に入れています。ですが、全部ではない。しかも、俺が勝手に本のようにしている始末。どうでしょう。エイミーはやってくれるでしょうか」







アランがいなくなって3年。私の推しごとはまだ終わってないようでした。孤児院のレイフィールド学園は立派に社会貢献してた。


当初、陛下は反対致しました。私に出来っこないと。無理もない。私自身、ほんとに出来るのかと半信半疑だった。


それでもやらしてくれたのは、ある意味謀略なのでしょう。私にやらせれば必ず失敗する。結果、アランの名をおとしめる。


くやしい気持ちもあったわ。陛下の目論見通り、アランの顔も潰したくなかった。それ以上に、親を失った子供たちを見ると私も頑張らなくては、という気持になった。そして、頑張ればなんとかなるもんだといつしか思うようになっていた。


他の貴族たちも初めは私を影でバカにしていましたわ。彼らはいまだ冒険者のなれの果て達に手を焼いているのでしょうが、治安が急速に良くなっていくのを目の当たりにして、特に地方領主たちは私に協力的になっていた。


子供が教育も受けずに、将来の仕事もないという現実に向かいあった時、正しい道を歩むでしょうか。


バートは正しかった。何人もの若者が夢を胸にいだき、バートのアースリーに向けて旅立って行きました。バートはというと、しょっちゅう私の顔を見に来る。


私を殿下と呼んでみたり、君と呼んでみたりもする。エイミー・マクドーネルと私は彼の頭の中でいっしょくたになっている。いちいち指摘はしませんでした。私はバートの好きにさせている。


エイミー・マクドーネルと言えば、最後の一行だけを残し、アランの物語の完成を待っている。私はバートの前で最後の一行入れたいと思っている。そして、バートはもうすぐ私のところにやってくる。


エイミー・マクドーネルとは、それでお別れとなる。アランの推しごとはアイリーン・ゴールズワージに引き継がれることになるでしょう。


エイミーのおかげで私は随分と助けられた。生きてて良かったと思えるようにさえなっていた。


13年間。私はそんな長い年月を共に暮らしてた。いや、本当の私はエイミーだったのかもしれない。正直、寂しさはぬぐえない。


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