第5話 途方に暮れる
気が付けば自分の部屋にいました。画家に描かせたアランの肖像画と額に入れたエイミーの記事が壁に並んでいます。
アランの彫刻は部屋の角に一体づつで、計四体。天井にはアランのパーティーの文様が描かれた旗を張りました。
壁や床、天井はアランの防具のカラ―、ブルーで統一しています。カーテンもベッドの敷布も掛布ももちろんブルー。
部屋の中央には一昔前にアランが使っていた防具を飾りました。それは入札に出されたのが面白くなかったので、十倍以上の値を付けてセリにかける間も与えずに購入した物です。ちり一つも付けたくなかったので、ガラスのケースも作らせました。
アランがインニェボリと結婚するって聞いたら皆はどう思うだろうな、と私はその防具をぼんやり眺め、考えていた。私が記事にしなければ誰も分からない。そんな考えも頭によぎる。止めてしまおうか。
もし、結婚すると知ったら、許す派、グレー派、速攻担降り派と皆は分かれるのでしょう。
長い間、バーティーで一緒に戦っていたインニェボリならクズバレにはならないでしょうが、私はどうしようか。最後まで責任を持って記事にしなくてはならないという気持ちが今はちょっと強いか。
問題は私に全くやる気がおきないこと。
全てはアランに喜んでもらえるためにやっていたんです。アランが何かのきっかけで私の記事を読んでくれるんじゃないか。何かの足しに収益を使ってくれているんじゃないか。
でも、今のアランには私が必要ではありません。もう、私には出来ることがないのです。記事を書いたとて無意味です。
心配なのが、推しごとで知り合ったお友達。皆、アランのパーティーがどうなるのか知りたいでしょう。私にはその責務があることは分かっています。ですが、そもそもエイミー・マクドーネルはいない人です。私がエイミー・マクドーネルをやめてしまえば済むことです。
お友達にはちょっとかわいそうかもしれませんが、情報が入らなければ皆、勝手にいいように想像するでしょう。その方が彼女たちのためかもしれません。
もう一つ、心配があります。アランが旅立つと聞いて父は内心喜んだ、と私は思ってます。アランは政敵になりえる人物です。居なくなったら父は有ること無いこと国民に速攻吹き込むでしょう。それを止めさせるのは私には無理です。王族側の人間だから何もできない。
ドアがノックされた。なんだろう。今は人に合う気分ではない。私は返事しなかった。
「俺ですよ。バート。バート・アディントンです」
ああ、アースリーの辺境騎士ね。って、まさか! あいつ、私の方を見ていた。
「入れてくれなかったら、言いますよ。あなたがエイミーだって」
あああああ、謁見の間のあの時、やっぱ私を見てたんだ。私は思わず頭を抱えてた。
「変だと思ってたんだ。君のマジックアローが特別なのは『血の宝珠』のおかげ。その力で殿下の先祖は邪教崇拝者が治めていたこの国を救った。ゴールズワージには『血の宝珠』が受け継がれている」
大丈夫。ほっとけば帰って行く。
けど、そうはなりませんでした。ドアをドンドン叩き始める。辺境の騎士だけあって品位がない。ドアを開けなければずっとドアを叩くのでしょう。もしかしてドアを蹴破って入って来るかもしれない。
ため息が出てた。私は諦めて、バートを部屋に入れた。
バートは部屋に入って来るなり、壁の額を見て、部屋を回り始めました。うう、とか、ああ、とか、指で記事を追ったり、手を叩いて笑ったりしている。
「俺らは魔王城の最も近くで王国を守っていたんだ。いつ終わるとも限らない戦いの中でね」
そう言うとバートは、私に近付いて来ました。
「俺はお礼が言いたいんだ。絶対に勇者が来る。近いうちに魔王をやっつけてくれる。殿下の記事がどれほど俺らを勇気付けてくれたか」
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