第4話 エンディング


初めてアランとあった時のことは忘れもしません。雷に打たれたような衝撃を受けたのですが、この人なら魔王を倒せるかもしれない、と思うと同時に胸苦しくもなりました。恋に落ちてしまったのです。


当時のアランほどの腕前なら、人に命じて拉致させ、私の面前に引き出し、私の使用人になれと強要することさえ出来ました。私の欲望を満たすためだけにアランを生かしておくのです。


でも、アランは特別でした。彼の成功を願う気持ちと裏腹に、独占したいという気持ちの間で私は苦しみました。


このままではいけない。自分のことではなくアランのことを第一にとそのことだけを考えました。そうすると、恋愛するとか、抱き締めるとか、唇を奪うとか、身の程知らずだという気持ちになっていきました。


アランはまだ駆け出しでした。私は何か力になれないかと思いました。私の権力を使えば造作もないことです。ですが、それでは一線を踏み外しかねない。


私はダメな自分と別れる必要がありました。私の本当の名はエイミー・マクドーネルではありません。エイミーは私の邪心を消すために必要な名前だったのです。


本当の名はアイリーン・ゴールズワージ。この国の第三王女。


私は家族や友人から白い目で見られていました。変わり者扱いで、会話も用がある時だけの一言二言。仕事は毎日の繰り返し。ドレスの色や髪形、宝石の数。パーティーで声を掛けられた人の数。


こんな競争を誰のためにやっているのか。私は本当に必要な存在なのか。王族に属しているにもかかわらず、王国の役に立っいる実感が全くない。


私は人に誇れる才能はまるでありませんでした。他国に噂になるほどの美貌もない。政略結婚で平和をもらせる程の価値は私の顔にはなかったのです。


エイミー・マクドーネルになって私の人生は変わりました。記事を書き、売る。その収益がアランの懐に入る。情報は取り放題でした。ギルド、地方領主、王都の役人。


アランが敵を倒す度に成長するのも楽しかった。私も敵を倒さないまでもその場に行けるよう魔法の腕を磨く。毎日が違った。明日が楽しみになっていた。


次に何が起こるのか。私は夢中でした。アランと一緒に新しいイベントに挑むような気持ちでいれることが嬉しかった。


アランはあこがれの存在。アランが存在するだけで尊い。


魔王を倒し、役目を終えたとしても、アランはアラン。大丈夫。何も変わらない。私は王族諸侯が集まる謁見の間でそんなことを考えていました。


父の国王陛下は階段を十段ばかり上がった壇上の玉座に腰かけています。私たち王族は壇の下の左側、諸侯は壇の下右側に並んでいます。


バート・アディントンの顔があった。彼は功績がありましたが、貴族ではありません。それでもなんとか末席に加わることが出来たのでしょう。私からは遠いので分かりませんが、私の方を見ているような、見ていないような。


ラッパが鳴りました。アランがこの謁見の間に入って来る。


私は目を伏しました。アランのパーティーが赤いじゅうたんを進んでいる。じゅうたんは王座まで一直線に伸びていました。


アランがこっちに来る。そう思うと心臓の鼓動が激しくなり、息も苦しくなる。


どうしてもアイリーン・ゴールズワージではアランを見ることがかないませんでした。アランを独り占めにしたい欲求が抑えきれない。


一行は国王陛下の前にひざまずいたようです。父は、大義であったと一声をかけ、その功績をたたえ、褒美の話を致しました。


「そちにミラール地方の穀倉地帯を領地に、爵位は大公を与えよう」


「お言葉でございますが陛下。私はもうこの地には戻って来ません。実はというと今日は別れの挨拶にやってまいりました」


謁見の間がざわついた。


「私はここにいるインニェボリとエルフの国に旅立ちます。魔王がいない今となってはこの地は人の統(す)べる地となりましょう。全てのエルフは故郷に帰るそうです。私もインニェボリに付いていきます。そして、かの地にてインニェボリと結婚しようと思っております」


け、結婚っ!


私は心臓に杭を打たれたような衝撃を受けた。あとは何も覚えてなかった。


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