第2話 推し様の安否
青い澄み切った空をフェニックスが飛んでいました。私たちなら誰でも分かります。あれはエルフのインニェボリの召喚獣です。
辺境の城アースリーの上空を大きく旋回しています。輝く火の粉がふわふわと舞い降り、騎士や兵士、そして、私たちに降りそそいでいます。皆、みるみるうちに傷が
フェニックスは噴水の広場に舞い降りました。出迎えたのは辺境の騎士団長バート・アディントンです。そのバートの前にオーブを置くとフェニックスは飛び立って行きました。
オーブが輝きました。光が放たれ、宙に人の姿が映し出されます。聖女マリーです。アランのパーティーでは主に回復を担当しています。聖女だけあって、しなやかで、母性的な体つきの女性です。
「おおお」
場内からどよめきとも歓声ともとれる声が聞こえました。男性に聖女マリーのファンは多いのです。聖女マリーが言いました。
「魔王を倒すことが出来ました。皆さまのご支援のたまものだと思っております。まずは御礼申し上げます」
場内で歓声が上がりました。両手を天に突きだしたり、飛び上がったり、それぞれがそれぞれの喜びを表現してた。私たち二百人はというと、拝むように胸の前で手を握り、聖女マリーの映像に食い入っていました。
「幸いにも、パーティーの者たちは全員無事です。御心配おかけしました」
ほっとしたのと嬉しいので、急に涙があふれ出しました。次々と頬を伝っていく。正直、魔王なんてどうでもよかったのです。
「生きているだけで尊い」
他の人たちも、私のように
「ですが、魔王と戦ったのです。皆が無傷と言う訳ではなく、特に戦士ザラトリスは重傷と言っていいでしょう。早急に適切な処置が必要です」
城内から悲鳴が聞こえた。キャサリンはザラトリス推しだったのです。
「ここでは十分な回復は見込めないので私たちは一旦、エキナセナ神殿に飛びます。アースリーにおられる皆様にこんな形で御挨拶となったこと、深くお詫び申し上げます。もしよければ五日後、王都ファセビスタでお会い出来たらと存じます」
宙に投影された聖女マリーの姿が消えました。オーブもキラキラと光って光の塵となっていく。
キャサリンは膝を落とし、泣き崩れていました。さぞかしエキナセナ神殿に行きたいのでしょう。でも、私たちはルーラが使えない。ルーラはラディアのダンジョン最深部に行った者のみが使える魔法です。
私たちにその機会がなかったわけじゃありません。あの時、私たちはダンジョンの入り口に待機し、アランたちを見守っていたのです。
ダンジョンに入るのはその後でもよかった。私たちはアランたちのダンジョンクリアに喜びすぎて、帰って宿で祝杯を上げました。
おそらくキャサリンはそのことを後悔している。入口近くまで来て、なぜダンジョンに挑戦しなかったと。
「エイミー・マクドーネル」
私を呼ぶ声がしました。呼んだのは辺境の騎士団長バート・アディントンです。
戦いの最中、勝手に城壁を上ったのがいけなかったのかしら。私は仲間たちをかき分け、バートのもとに向かいました。
「話がある。一緒に来てくれないか」
辺境の騎士団長バート・アディントンにいざなわれるまま、私は歩を進めました。しかしなぜ、この人は私の名を知っているんだろう。色んな事が頭をよぎる。私はバートの執務室に入りました。
「おかけなさい」
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