訳あってペンネームで推しごとするヲタクの恋のススメ方

悟房 勢

第1話 ラスボス戦観戦


空いっぱいに渦巻く雷雲に放電が始まった。溜まりに溜まった電気エネルギーが強烈な閃光を放つ。次の瞬間、雷雲のいたるところから無数のいかづちが地上に向けて落とされた。


もう、すでに始まっている。もしかして、最終局面かもしれない。


城壁の内からでは天を見上げるばかりで何もわからない。ここまで来て何も見られないなら死んだほうがましです。


私は城壁を駆け上がりました。小型の悪魔グレムリンがいなごの大群のごとくこっちに向かって押し寄せていた。


「誰が上がってきていいと言った、女! 邪魔だ! すぐ消えろ!」


辺境の城アースリーを守る兵士でした。ズラリと並んで臨戦態勢に入ってた。


ここに居続けるにはこの人たちに私の力を見せつける以外ありません。私はマジックアローを放ちました。それも、さみだれバージョンです。


遠く、二十体ほど撃ち落としました。兵士が驚いているのをいいことに城壁の下の皆に呼びかけました。


「上がって来て。モンスターがやって来る。力を貸して」


皆、城壁を上がって来ました。二百人近くが城壁を守る兵士と一緒に並ぶ。そして、それぞれがグレムリンの大群に向けて魔法を放ちました。悪魔たちは次から次へと落ちて行く。


でも、数にものをいわせるグレムリンたちは動じていません。突っ込んで来て、城に飛来する。


兵士たちは弓や剣を使い戦っていました。私たちもそれぞれの能力を使いグレムリンを落としていきます。


轟音とともに城が揺れました。城壁から覗くと遠く向こうから城に向かって地割れが走ってるのが見て取れた。かろうじて、地割れは城には届いていません。空を見上げれば遠く上空に城が浮いている。


あれが、魔王城。


そして、輝く光が一つ。その光に対峙するかのように魔王城が人型へと変形していき、砂塵を飛ばして地上に立つ。


あの光。……勇者アラン・レイフィールド。


城壁では兵士が騒いでた。ゴーレムが城壁をよじ登ってる。地割れからも次々とゴーレムが姿を現していた。


私はマジックアローを放つ。私のは他と違いました。一矢当てるごとに敵の防御力を二段階下げる。それだけではありません。弱体化に上限はなく、当てた分だけ敵の防御力を下げることが出来ました。


城壁の巡視路に顔を出したゴーレムに、私はマジックアローを三本当てました。こいつにはこれで十分。


「キャサリン!」


キャサリンは大柄な女性です。戦闘では常に自分にバイキルトを掛けています。両手で握ったこぶしを高々と振り上げるとゴーレムの脳天にそれを振り下ろしました。ゴーレムは粉砕され、ばらばらになって城壁を落ちて行く。


遠く向こう、空に輝く光は魔王城の周りを激しく飛び回っていました。魔王城は炎の玉を放ったり、体にある尖った岩を放ったりしています。


城の方は何体ものゴーレムが城壁をよじ登ってた。グレムリンも蠅のように五月蠅うるさく飛んでいる。私はゴーレムに向けて、次々にマジックアローを放つ。


魔王城はというと、その足元に大きな魔法陣が現れていました。それが輝いたかと思うと魔法の壁が魔王城を囲む。魔王城は崩れ落ちていきました。残ったのは宙に浮く、炎をまとった魔王だけ。


私たち二百人は息を飲んでその光景を魅入ってた。勇者アラン・レイフィールと魔王が決着とつけようとしていたのです。


そして、勝負は一瞬にして終わりました。光と炎が宙ですれ違ったと思うと炎がくうを落ちて行く。やがてそれが地表にぶつかると大きな衝撃音とともに衝撃波が地上を襲いました。


突風にあおられたゴーレムは砂になり、五月蠅く飛んでいたグレムリンは灰になって、風に消えて行きました。


「勝った。アランが、勝った」


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