第3話 約束ごと

 帰り道。この時間の終わりが迫っている。


 もう、柊莉と今日一緒にいられる時間はあまり残っていない。言わなければこのまま何もなく終わってしまう。告白することはちゃんと決めいたはずで、でも伝えるのは怖くて、まだ一言も踏み出せないでいる。


 それなのに、家は私たちに向かって一歩一歩近づいている。今日楽しかったねだとか、花火綺麗だったねだとか。そんな話しかできなくなる。


 もっと言いたいことがあるのに。


 柊莉が好きだと伝えたいのに。


 気がつくと、もう柊莉といつも別れる道に来ていている。


 柊莉が、また、来週学校でね、と手を振っている。私とは反対の方向を向き、帰っていく。


 「ちょっと待って!」


 思わず声が出る。


 「どうしたの?」


 彼女がびっくりしてこっちを向く。


「えっとね、えっと…」


 ここまできたら言うしかない。


 でも、怖い。

 でも、この気持ちを抑える方がもっと苦しいと思うから。


 「私ね、柊莉が好き」


 やっと言えて泣きそうになる。でも、この思いは多分、実らない。


 「柊莉が友達って意味じゃないよ。恋人になりたいって意味の好きなの」


 泣きそうになる目を堪えて、逃げ出したくなる気持ちを抑える。

 それでも涙は溢れてきて、足は勝手に家の方向へ向かい出す。


 「ちょっと待って」


 柊莉が私の手を掴む。お祭りの時と同じように、優しく暖かい手が私の手を包む。

 

 柊莉の顔をまともに見られずに下を向く。これから振られることを考えるとまともに顔が見られない。


 「えっと…告白してくれてありがとう、でも、私は詩織のこと友達として好きだよ!?」


 答えはわかっていたはずで、こうなることはわかっていたはずで。


 それでも今握られている手を離したくなくて、でも振り解かないと傷つきそうで。


 「離して」


 私は一生懸命、柊莉の手から離れようとする。


 しかし、柊莉はそれを許そうとはしない。それよりも私を包み込むように背中から抱きしめる。


 「離さない」


 きっちり捕まえられて、逃げられそうにない。どれだけ強く引っ張っても逃れられない。


 「ずっと友達だって約束したじゃん!」


 「…約束破ってごめん」


 「短冊にずっと一緒にいようねって書いたじゃん!」


 「…うん、一緒にいたい気持ちは本当だよ、でも、友達としてじゃない」


 「女の子同士って好きになっちゃいけないんだよ、だめだよこんなの…」


 拒絶されてはいなさそうで、彼女は涙を浮かべながら、私をさらに抱きしめる。泣きたいのはこっちのはずなのに。でも、どことなく心細そうで、彼女の腕に手を置く。


 「私は柊莉が好きだよ、人を好きになるのに性別なんて関係ないと思う」


 「なんでいまさらそんなこと言うの?なんで?なんで・・・」

 

 「私は柊莉が好き、女の人が好きな私をどう思うかわからないけど、告白の事少しだけでもいいから考えてみてよ」


 「…うん、考える」


 少し時間がたって柊莉が答える。柊莉の目から涙が溢れて止まらない。彼女の方を向き、柊莉をそっと抱きしめる。


 もしかしたら柊莉には昔、恋愛ごとで何かあったのかもしれない。でもそんなことはどうでもよくて。今は私のことだけ考えていてほしい。私で頭をいっぱいにしてほしい。


 「明日さ、デートに行こうよ」


 告白したせいか、心は穏やかで、自然とその言葉を口にする。柊莉は小さく頷き、肯定の合図が送られる。


 「約束だよ」


 彼女との関係を定義づけていたこの言葉を口にする。今度はこの言葉で私が彼女を振り向かせて見せる。


 月明かりの下、私たちはもう一度、約束を交わした。

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