ところかわって、またよもやま

優未ゆうみちゃん、今書いてるのってなあに?」

「それはねえ 先生にあげるお話しだよ!」

「……優未ちゃん、だもんね。……どんなお話し? ママにも読ませて?」

「だめー! 秘密にするの! 先生に今度みせるから」

「……そう、先生喜んでくれるといいね」

「うん!」



の言葉

 転校直前の優未ちゃんからこの小説を貰ったときには嬉しかったけど、中身を見たら首を捻ったし、恐ろしかったよ。狐につままれているのかと思った。藤崎美緒ふじさきみおなんて先生は。高峰えみもだ。これを優未ちゃんが、小学生が書いたってんだから…… りっとるんは私が作ったキャラクターだ。小説に書いてある通りの外見。これが「山原孝おれ」の象徴的存在だと小説のなかばにはあったが、終盤にはそれを一蹴いっしゅうしている。つまりどういうことなのか、全くわからない。

 ? 優未ちゃんはなぜ作中でを浮気者として殺したのか、まず「山原孝」は最初の部分、つまり美緒とりっとるんの対話だけの小説部分的にはいらないキャラクターだったはずだ。なぜ追加したのか? というか、小学生の書く文とは思えない。使われている単語が小学生のレベルと離れすぎている。優未ちゃんのか? 優未ちゃんはメッセンジャーとか? は推理小説が好きだったはずだし、優未ちゃんともよくなんかの相談をしていた。知らないか聞いてみようと思う。





「ねえ、さっき先生に渡した手紙はなんだったの?」

「あれはねえ、ラブレターなんだ、えへへ」

 私は小さな声で隣りの席の女の子に秘密を語った。聞いた女の子は一瞬ニヤニヤしたが、すぐにアンニュイな顔になって

「もうおわかれかあ」

 と呟いた。

「さびしいね」

 二人は同じ表情で窓辺の先の青空と白い雲を見つめている。窓側の席だからだろうか、爽やかな夏の風が窓の隙間から入ってくる。

かあ…… 遠いねえ」

 ひとりごちる。遠くの雲よりもっと遠くへ、私は旅立つのだ。

「……また会おうね」

「うん」

「忘れちゃだめだよ」

「うん」

「約束だからね」

「うん約束する、また会う、忘れない」

 二人の声はいつの間にか大きくなっていた。大粒の涙が机の上の色紙を濡らす。みんなの顔と教室が、私の瞳の中でぼやけていく。ふと女の子が私を抱きしめた。大丈夫、大丈夫、そんな言葉がきこえる。クラスメートのあたたかい声がきこえる。おまえこそ俺らのこと忘れんなよ、なんて聞こえる、うん。忘れるわけがない。だからみんなも忘れないで、とくに大好きな山原先生。

 私、吉田先生と相談して、私のこと絶対忘れられないようなラブレターを作ったんだ。ちょっと遠回しかもだけど、いやだからこそかな、先生は私のことを覚えてくれているはず、いや覚えてますように。

 祈るような気持ちで黒板の方を向くと、先生とりっとるんが私に微笑んでいた。

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なんかい事件 笠井 野里 @good-kura

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