よもやまなことば

・ある子どもの証言

「おはよー! りっとるんだよ!」

 教壇の上で挨拶をしたのは、りっとるんの紙お面をつけた美緒みお先生でした。教室は先生がまた変なことをやり始めたなと少しのワクワクと緊張が走ったけど、朝の会の間も先生はりっとるんのお面を取らないので、みんな怯えてしまいました。先生の話まで委員の人が進めると、先生が変なことを喋りはじめました。

「美緒先生は教師をやめちゃったので、これからはりっとるんが授業をします」

 りっとるんはそのまま一時間目の国語の授業をしたけれど、となりのクラスの担任の山原やまはら先生がなぜか止めにくると、美緒先生はりっとるんの声をやめて、少し怒った感じで山原先生の悪口を言いました。

――どんな悪口だった?

うーん。たしか「浮気者」とか「うそつき」とかです。とにかく泣きながら暴れてました、あんな先生は初めてみました。三組の稲垣いながき先生も来て、二人で先生を連れて行きました。皆でどうなるのか廊下に行って覗こうとしたら、吉田よしだ先生が出てきてみんなを叱って、教師のなかで自習をさせました。

二十分休みになっても先生が帰って来ないままでした。休み時間も残り五分ぐらいのときに吉田先生がまた教室に入ってきて

「美緒先生は体調不良で帰ったから、今日は俺が授業をする、校庭にいる男子にも帰ったら伝えておけよ」

 と言って忙しそうに出ていきました。

 結局二十分休みが終わっても今度は吉田先生が来なくて、その代わりに救急車とパトカーが集まってきました。で、体育館に集められて――(略)


・あるのコメント

 ×県何某市立北小学校で、が起きていた。痴情ちじょうのもつれ。藤崎美緒ふじさきみお山原孝やまはらたかし職場恋愛をしていたが、山原孝の浮気がばれて破局。しかもその浮気相手も同じ小学校の高峰たかみねえみ。職場というよりは修羅場。藤崎美緒は山原孝と別れてからは、山原と高峰を完全にとしていたらしい。しかし完全なものではない。授業でりっとるんと掛け合いのようなものを本格的にやり始めたのは、破局と同時期だ。りっとるんに多少の山原の面影があったのが、生徒に対するインタビュー(別紙に詳細あり)ではっきりしている。

 確かに、彼女は過労死ラインの残業を苦にしていたし、生徒との接し方、とくにいじめを受けていた子への対応に苦慮はしていたけど、結局、藤崎美緒は恋愛沙汰の末にを殺したんだ。

 ただ僕には一つわからないことがある、それはなぜ彼女が山原と高峰を完全に思い出したのか、なぜ彼女はりっとるんとともに授業をやめなかったのか……



のコメント

 この小説は、ある教師の退職に至るまでの心理を書いただけなんです。しかも明確に理由まで独白させている。これをどう痴情のもつれと読むのか、全くわからない。教員を続けたい自分の気持ちをりっとるんに置いただけで、そこに山原孝なんて男が入り込む隙はありません。「ある子どもの証言」と「ある知人のコメント」なんて下品ですよ、まずある知人ってだれなんですか? 知人というわりに下手な記事みたいな文体で他人行儀に話して、あれはなんなんですか、この小説にあの人物の描写は一切要らない。



・藤崎美緒のコメント

 あのりっとるんとあった日、私は退職届を出してすぐ北海道まで飛んで行ったんです。最初は函館はこだての夜景からかなあって思ってたんで、函館空港に降りました。五稜郭ごりょうかくとか行って見たんですけど――(略)

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