『栄光の弦楽猿合奏団』 最終回 その3


 猿族は、協議が人類より、はるかに早いのです。


 あまり、細かい表現やニュアンスや、相手の気持ち、を気にしないからです。


 しかし、ジーナ議長は、違いました。


 彼女は、非常に繊細な思考をしたのです。


 『残念です。しかし、議会には従いましょう。けれども、このまま、みすみす、先進技術を入手するチャンスを逃したくはないし、人類との和解は達成したい。なんとか、タルレジャ王国との連絡が取れる状態にしなくては。ぜひ、ヘレナ王女さまと話し合いたい。』


 議長は、側近のカーネリアスに言いました。


 『あの、わからずやのゴフリラーや、団長に知られずに、アマティさんに連絡が取れないでしょうか?』


 カーネリアスが答えました。


 『さて、上手く行くかどうかわからないけど、やってみましょう。』


 カーネリアスは、なんと、シポク副長に連絡をしたのでした。



    🙏🙏🙏


 

 猿族は、飛行機は嫌いでした。


 とくに、喧しいあの音、が嫌だったのです。

 

 だから、人類の飛行機を押収して持ってはいたのですが、あまり使いません。使わないと、使い方が上手くなりません。


      ☁️☁️☁️


 ジーナ議長は、カーネリアスに、郊外の広場で待つように言われました。


 ふたりは、空の中から、小さな乗り物が飛んでくるのを見たのです。


 それは、ヘレナ王女が飛ばした、高速重力制御飛行艇でした。


      🛩️


 アマティたちは、ジーナ議長を出迎えました。


 ヘレナ王女と、ルイーザ王女と、キズニ・タマニョ、コンサートマスターは、まだ、演奏を続けていたのです。


 ベートーヴェンさまのソナタ10曲もとうに終わり、いまは、モーツアルトさまのソナタになっておりました。


 K.303ハ長調のソナタが響いております。1778年2月に書かれた作品です。


 二楽章形式で、小振りですが、チャーミングです。


 議長は、アマティに案内されて、座席に座りました。


 議長さんには、いささかの、音楽の素養がありました。


 もちろん、議長さんも、こうした演奏は聴いたことがありません。


 『先ほどのベートーヴェンは、すごかったです。議長どの。惜しかったですね。しかし、モーツアルトは素敵ですよ。』


 『そうですか。でも、いま乗った乗り物は、すごかったです。まるで、重力を感じなかった。騒音もしない。まさに奇跡です。ますます、なんとかして、議会を動かさなくては。』


 『もう、決まったのでしょう。猿族は、決まったことは守る。』


 『そうです。しかし、修正はできる。』


 『修正?』


 音楽は、静かに終わり、拍手になりました。


 ヘレナ王女が頭を下げて舞台から降り、キズニ・タマニョさんに替わりました。


 『いまのが、ヘレナ王女さまだそうです。』


 『ほう、まあ、まずまず、人類としては美人ね。あのピアノ弾いてる人類は?』


 『妹の、ルイーザ王女さまだそうです。』


 『ほう? 似てるわね。』


 『双子らしいです。』


 『ふうん、人類の双子か。顔がすべすべで、かわゆいわね。不細工と言えば不細工。あ、失礼。』


 議長が立ち上がりました。


 ヘレナ王女が、横にやって来たのです。



 すると、キズニ・タマニョさんが、驚くべき曲を弾き始めました。


 ソナタホ短調K.304です。



      😭


 

    


 


 

 


 

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