『栄光の弦楽猿合奏団』 最終の1


 猿母船には、ゴフリラー艦長が乗っていました。


 往年の名艦長さんで、人間嫌いで有名でした。

 

 しかし、話のわからぬ猿ではなく、わりに、理論派で、理屈が合えば、人間とも折り合う度量がありました。


 いま、部下に訓示を垂れていたのです。


 そこには、部下ではない、楽団長の、ポッパーさんが同席していました。


 このふたりは、いわゆる、犬猿の仲です。



 『よいか、人類の特徴を教えよう。


 ひとつ、なまいきである。ふたつ、金儲けに目がない。金と権力のためなら自分達の法律も易々と破る。みっつ。残酷だ。仲間も平気で殺す。よっつ、嘘つきである。いつつ、だから、平気で約束を破る。むっつ、仲間を大切にする。が、裏切り者は許さない。ななつ、自分達は慈悲深いと勘違いしている。やっつ、手先が器用だ。武器を作らせたら一流だ。ここのつ、しかし、猿の手には負えないほど、救いようがなく、ひたすら、おろかである。だから、けっして、武器を持たせてはならない。以上。』


 部下の船員や兵士たちは、じっと立ち尽くして聞いている。


 『あなたは、残酷ですな。』


 ポッパー楽団長が、からかうように言った。


 『きさま、ここは、わたしの領域である。口を出さないでほしい。』


 『そりゃ、失礼。』


 『いいか、人間を、あの島で捕獲したら、容赦なく責めて、すべて吐かせる。けっして、甘くするな。』


 『艦長、悪いが、もう、そうした時代は過ぎた。あなたも、猿軍から指示を受けているはずだ。捕獲ではない。保護だ。』


 『口を出すな。と、言った。あなたも、まあ、猿共和国の首脳たちもそうだが、心得違いはしないでいただきたい。ここの法は、わたしである。しかも、人類は、危険でなくなったわけではない。だれも、それを、証明できてはいないのだ。従って、慎重を期すのだ。後からでは、間に合わないのだから。』


 『間違えたら、あなたは、犯罪者になるかも。』


 『なに!』


 ふた猿は、向き合った。

 

 何時ものことであるから、部下たちも、多少は、呆れていた。


 時代は平和になっていたのだ。

 

 だから、艦長は、もう古い。


 みな、そう思うが、しかし、偉大な上官ではある。



       💂


 


 


 

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