『栄光の弦楽猿合奏団』 下の2


 『みなさん、動かないで。』


 王女さまの一人が言ったのです。


 双子の王女さまで、どちらがどちらかは、ヤマーシンにもわかりません。


 ひとりは、ヘレナさま、もうひとりは、ルイーザさまです。


 『こんな、軍隊か、警備隊、みたいなの、1度も見たことないなあ。』


 ヤマーシンは思いました。


 長くここに住んでいましたが、そもそも、軍隊みたいなものを、見たことはありませんでした。


 一応、王国なので、考えれば、そのほうが、不思議なのかもしれません。


 しかし、猿属に破れて、ここに、やっと逃げ延びた人類には、もはや、戦う術はない、と、みな、思ってはいたのですが、しかし、この島が見つからずにきたことも、不思議と言えば不思議でした。


 『みなさん。よく、いらっしゃいました。歓迎いたします。ちょっと荒っぽかったですが、念のためです。お許しを。』


 もうひとりの、王女さまが、言ったのです。


 『ここは、地球人類の最終地点です。わたくしたちは、ただ、人類を絶滅から守ろうとしていました。だから、猿さまたちが、ここを見つけられないような、かなり、なんと言いますか、ある種のメンタルな防御を施していました。ここは、もと、タルレジャ王国の小さな島です。わたしたちは、王国の王女でした。』


 『ああ。そうなんだ。その王国は知っている。小国だが、途方もない技術力を誇っていた。たしか、大津波で水没したと聴いたような。』


 ヤマーシンは思いました。


 『しかし、なんだか、年代が合わないな。水没したのは、少なくとも100年は前だと聴いたような。』


 アマティも、同じことを考えたのです。


 『さる、おかしいですね。あり得ない。時間が合わない。』


 しかし、彼らは、いまだに、怪しい軍隊に囲まれてはいました。


 『時間は、相対的なものです。あなたがたの100年は、ここの3ヶ月に過ぎません。みなさん、銃を下ろしなさい。』


 兵士たちは、持っていた光線銃を、腰の辺りまで下げました。


 『なんと!』


 ヤマーシンは、ぶっ飛びました。


 『あなたがたには、ここは、発見できないのです。あなたがたには、見えないからです。しかし、今回は、違います。みなさんは、武器を少ししか持ってきていませんし、積み荷の大部分は、楽器ですね。わたくしたちは、みなさんの世界が変わったと判断しました。』


 

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