『栄光の弦楽猿合奏団』 中
王室室内楽団のコンサート・マスターは、キズニ・タマニョという、南アメリカ大陸北部出身の女性でした。
北アメリカの一流オケで弾いていたが、例により、『おさるさん地球8月革命』で追われたのです。
世界中を逃げ回り、最後に、ついにこの島に流れ着いたのです。
その晩、コンマスも、たまたまなのではありますが、この極めて魅惑的な情景に遭遇していたのでした。
そうして、ふたりは、同じように、かの月の光に輝くキンシコウさんが演奏している岩だなから、ほんのちょっとだけ離れた岩影にたどり着いたのです。
そうして、互いに見合ったのでした。
J.S.バッハの『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ BWV(バッハ番号)1001~1006』は、1720年に書かれたとされます。
ソナタ3曲、パルティータ3曲の、6曲セットになっていいます。
パルティータは、『組曲』くらいの意味合いですが、緩急の組み合わせであるソナタに対して、舞曲を起源にもつ音楽の組み合わせみたいになっているのです。
パルティータ第2番には、最後に、非常に名高く深淵で長大な『シャコンヌ』があります。
言ってみれば、人類が書いた、究極の器楽音楽の代表作品であります。
つまり、これを、猿属がみごとに演奏することは、いや、弾きこなすだけではなく、その高い内容を表現できたとすれば、それは、つまり、彼らが人類の演奏芸術レヴェルに並んだということができますし、さらに、彼ら独自の、より優れたものを産み出せば、まさに人類を越えたとも言えるでしょう。
『むむむ。いい線、行ってるなあ。』
ヤマーシンは呟きました。
『まだ、教えたら、改良の余地はあるわ。』
と、キズニ・タマニョは答えたが、やや、悔しそうでありました。
実際に、最初は、緊張していたのか、多少危なっかしかったのですが、いまや、すっかり、安定して、さらに独自の境地さえ見いだしているようなのです。
月は、ますます、こうこうと輝きわたり、偉大な大バッハの音楽が、その夜を満たしていたのです。
演奏が終わったとき、ふたりは、拍手を惜しまなかったのです。
それだけの価値があったから。
美しい、キンシコウさんは、ちょっと照れたように、頭を下げました。
しかし、やや離れた場所に、異変に気付いて、王女さま姉妹が来ていたことには、だれも気がついていなかったのでした。
このふたりは、いわゆる、並みの人間ではないのです。
一種の、ミュータントであります。
人間にも、猿属にも、その気配はまったく、分からないのでした。
しかし、ふたりは、猿属の支配を覆そうなんて思ってはいなかったのです。
仲良くできれば、それが良いと思ってはいましたが、相手に仲良くする気がまったくないとなると、人間同士でも平和は難しいのに、嫌がる猿属にむりを言っても仕方がないので、ここに長らく引きこもっていたのです。
そのときです。
猿属の一団が、海側から現れたのです。
すごく、動きが早くて、ヤマーシンと、キズニ・タマニョは、あっという間に、取り囲まれてしまいました。
でも、さすが王女さま姉妹は、やはり、気付かれてはいないのです。
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