『栄光の弦楽猿合奏団』

やましん(テンパー)

『栄光の弦楽猿合奏団』 上


 日本ざるのアマティが、チンパンジーのストラディバリウスに語り掛けました。


 『人間の姿を見たというのは、この、島かい?』


 『ああ、そうだ。間違いない。』


 『なんとしても、発見しなくては。そうして、身柄を確保する。』


 『ああ。そうだな。人類は、逃げ回って、ついに、いまやめったには見当たらなくなったが、こんな辺境にかくれていたか。何匹いるやらわからないがな。』


 『多いほど良いぞ。』


 『うんだ。上陸班を編成しよう。』


 『やはり、囮が必要だ。おびき寄せなくては。だれに、任せるか?』


 『そらあ。やはり、グァルネリさんしかない。』


 『そだな。ソロでも、目立つ。』


 『うんだ。』


 

 キンシコウのグァルネリさんは、美しいうえに、猿属、最高のヴァイオリンの名手でもあった。


 彼女は、島の中に、丁度良い岩だなを見つけ、そこで、その夜、満月の下で、バッハの無伴奏パルティータを、全曲ひいた。


 

        🌝


 ヤマーシンは、村からは、ちょっと離れた小屋に、ひとりで住んでいました。


 村に行くには、秘密のトンネルを抜ければ良いが、いまや、地球の覇者となった、猿属の追撃をかわすために、村は周囲からも上空からも見えない位置にあったのです。


 住人は、350人ほど。


 しかし、人付き合いができないヤマーシンは、王女さまの許しを得て、この絶海の島の村とは反対側に、ひとりで暮らしていました。


 もはや、高齢であり、むかし、たまたま、危難から助けた王女さまと仲良しなことから、おおめにみられていたのです。


 また、ヤマーシンは、かつては、田舎の小さなオーケストラの指揮者をしていたことも、優れた音楽家である王女さまと仲良しになった理由でもありました。


 なんで、申し訳程度に、村で音楽教室を開いたり、王室室内楽団の指揮などもしていたが、王女さまの後ろ楯はやはり強力です。


 夜には、太陽発電で蓄電した古いレコードプレイヤーを動かし、ヘッドフォンで、むかしのレコードを聴くだけの毎日。


 食料などは、王女さまから届けられていたし、たまには、村の食堂に行くこともあります。


 その晩、ヤマーシンは、レコードを止めているのに、闇の中から、バッハが聞こえてきたのに、仰天しました。


 『むむ。ばっはさんには違いないが、なんだか、ちと、違うような気もするがな。リズムの取り方が、やや、面妖なような。しかし、悪くはない。かなり良い音だ。王女さまには太刀打ちできないが、うちのコンマスに次ぐくらいの音だ。さすがに、昔の シゲティさんとは行かないが、だれが弾いている?』


 ヤマーシンは、恐る恐る、月夜の海岸近くにまで降りていきました。


 そうして、見たのです!


 輝くような、その気高い姿を。


 『おさるさんだ。あれは、キンシコウさんか?地球の支配者。しかし、みたことないような、美しい姿だ。』


 昔よりも、猿属は大きく、立派になっていました。


 というか、人間は、衰退してしまった。


 いま、バッハをまっとうに弾ける人は、王女さま姉妹と、コンマスくらいでしょう。


 たしかに、このおさるさんは、まだその、レベルにはちょっと達していないが、それは、単に歴史が短いからです。


 すぐに、人類を追い越すだろうと思えます。


 しかし、なぜ、猿属が、バッハを弾くのか。


 あれほど、人類を迫害したのに。



       🎻🎶

         


 


 


 

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