第10話 香油と蒸留水

「ハァ、ハァ…やったー、やったよハマカさん!」


「ハァ、ハァ…リディーちょっと休ませてくれ。」


私たちはナティーの店からハマカの店まで全力疾走してきたので息も絶え絶えだ。




「…っ?何かあったの?ナティーさんのこと?」


心配そうに見つめるハマカに私たちはナティーの店であった出来事を話した。


「それでね、ナティーさんが加工品ならなんとかって言ったから香油とかどうかなって…」


「そんなもん作る設備は私の農場にはないよ!」とラニーは明らかに嫌そうな顔をした。




(うっ、態度からもわかるこいつらなに言ってんだって顔…)




「…でも、できるかできないかじゃくて、リディーちゃんは香油の作り方を知っているの?」


「…知らない。」(今から調べようと…)


「えっ、お前、知っててあの条件を出したんじゃないのか?」とタルカは鳩が豆鉄砲くらったようなびっくりした顔をしている。




(…そりゃぁ、そんな顔にもなるよ…。)




「条件?」


「試供品ができたら持っていきますって…。」


「えっ、そんなことをいったのかい!そんなこと言って出来ていなかったからこちらの信用問題になる…どうしてくれるんだい?」とラニーは不安からか大声をあげた。




「落ち着いて、叔母さん。リディーちゃん、相談したのはこちらだけど…試供品作りが出来るかどうかの確認すべきだったはね。…でもそうね…」といいながらハマカさんは独り言をぶつぶつと呟きながら考え事を始めた。




(ハァ…ハマカさんの言う通りだ。)




基本的に私は思い付いたら即行動タイプの人間だ。前世でもそれで色々な失敗をした。


(領主を目指すなんていったくせに、確認作業もできないなんて!)




「ごめんなさい。私…ナティーさんに謝ってくる…。」


「…ちょっと待って、リディーちゃん…これはチャンスかも」とぶつぶつ独り言を呟きながら、考え込んでいたハマカは何か思い付いたような顔をした。


「…?」


私はタルカと顔を見合わせた。




「香油じゃなくて…蒸留水なら簡単に出来るわ!」


「蒸留水?」とタルカと私が首をひねる。


「私が以前王都の学園の薬師科に在籍していた時に講義で簡単な香油の作り方と蒸留水の作り方を習ったの。」


「えっ、ハマカさんは香油の作り方を知っているんですか?」


「ええ、本格的なものは蒸留のための釜がいるけど…植物をつけるだけの簡単なものなら私たちでも出来るわ。だけど…」


「だけど?」


「つけて完成品が出来るまでに日数が結構かかるの。それに、瓶につけるから量産も難しいわ。」


「そうなんですね…。」と私はうなだれた。




(やっぱり難しいんだ…。)


「でも、家にあるもので蒸留水なら簡単に作れるし何より化粧水とか色々な用途に使えるからオイルよりもいいと思う。」


「そうなんですね!」


「ええ、だから一度作ってみてナティーさんに事情を話して見てもらいましょう。」




それから、私たちは蒸留水作りに必要な材料や道具の説明をうけて、3日後の午前中にハマカさんの家で試供品を作る約束をした。




「では、3日後にまたここで。」


「ええ、気をつけてね。タルカ君、リディーちゃん。」


「リディーは僕が守りますから。」




(まぁ…護衛としてね!美男子にこう言われたからってけしてときめいてはないから!って私は誰に訂正しているんだろう。)




「あら、頼もしいこと。」


私たちは、別れの挨拶をしてハマカさんの店をあとにした。




「それよりいいのか?」


「何が?ナティーさんのこと?」


(…ナティーさんには説明必要だよね…どう伝えるか考えないと…。)


「それもあるけど…3日後のこと。」


「…?」


「奥様に見つかったら、マナーの勉強だって城を出れなくなるだろう。」


(そうだった。お母様のことすっかり忘れた…。どうしよう。)



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