第3話リディアの記憶ーサラの花びらと姉との約束ー
こんにちは。私は、ユーフティーナ領領主の妻リディアと申します。私は、領主であり夫のオルバーンを支えながら、次期領主候補であるイレーヌの教育を行うなど忙しい日々を送っています。今は、季節も温かくなり、窓の外には、サラの木がうすピンクの綺麗な花を咲かせています。
「もう、春ですね。」春には様々なことを思い出します。イレーヌが下町に初めて出掛けたのも春でしたし、イレーヌが城の図書館に通い始めたのも春でした。
(あの子には、もう少し覚悟を持って物事にあたってほしいものです。)
このイダート王国では、女性が領主となるのは希です。そのため、領主候補が女の子しかいない領地では、7歳から入学する学園で旦那となり次期領主となりえる殿方を探します。イレーヌにも、良縁が来ればと願う毎日です。
(そのためにも、イレーヌの教育をしっかりと行わなければ…。イレーヌはお姉さまににて頑固だから…。)と私は自分の部屋にある姉との思い出がつまった小さな宝石いれを手に取りました。
私には、10歳ほど年の離れた異母姉がいました。
第2夫人の私の母と第1夫人のサンティア様はあまり仲がよくありませんでしたが、姉のフリーネは私にとてもよくしてくれて、私はそんな姉が大好きでした。
(そういえば…いつも会うと微笑みながら頭を撫でて、お菓子をくれましたっけ…もうずいぶん前のことで…懐かしい。)
姉は私が10歳となり学園の中等部に進学する年になると、王の臣下になるため領地を離れました。
(あの頃は何も聞かされず、ただフリーネが領地を離れることが嫌で、いかないでほしいと泣きながらすがりついていましたね…)
「お姉さま、行っちゃ嫌だ…。」
「ごめんね…でも…もう決まったことだから…」
「お姉さまがいくならリディアも」
「お嬢様、わがままを言ってはなりません。」
「だって、もう会えないんでしょ?」
「いいえ、あなたが毎日神に願えば会うことができるわ。それまでいい子で待ってて…」と姉は泣きじゃくる私の頭を撫でながら、いつもの笑顔でお菓子をくれた。
しかし、その後母から姉が領主を離れた理由は、妹である私との権力争いを避けるためだったことを聞かされました。私は、自分のせいで大好きな姉が故郷である領地を離れたことや、王の臣下になったために結婚を諦めたんだということを知り自責のねんに刈られました。
(あの頃はずいぶんと思い悩んだものです。)
そして、私が現在の夫のオルバーンと出会い、婚約した年に王都からの手紙で、フリーネが病気で時間がないことを知りました。サンティア様はご高齢で床にふせっていたので、私はお父様と一緒にフリーネの見舞いに訪れました。
(結局、お姉さまはなかなか忙しいと里帰りもろくにしなかったから、会うことができなかったけど。)
「フリーネ、ごめんなさい。私があなたの人生を変えてしまったのです。私がいなければあなたは今も領地で、領主の妻として過ごしていたのに。」
「…いいのです。あなたのせいではありません。わたしが…選んだことですから。」
「でも…」
「それに…わたしは…好きな人との…約束を果たせて幸せでした。」と病気で呼吸もままならない中で姉は微笑みながらそう言ったのです。いつもの笑顔で…。
数日後、フリーネは天へと召されました。私は亡きフリーネの墓前で立派な領主夫人となることを近い、夫を支えながら精一杯努力をして来ました。
(フリーネ、私はあなたとの約束を果たせたでしょうか?)
風に舞い散るサラの花びらが、あなたと笑いあった楽しい日々を思い出させます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます