第4話 カタフの思い
こんにちは。私はナティーの店ロディール商会の従業員でカタフと申します。今の時期は、学園に入学する富豪や貴族様との取引で忙しい日々を送っています。
今日は、午後から大口の取引先をまわる手はずになっていますが、出掛ける予定時刻の少し前にリディーという兵士の娘が旦那様を訪ねて来ました。
(出かける時に…)と私はついつい大きなため息がでました。
私が働くロディール商会は富豪や貴族が取引先のお店です。最初は私も、貧民で下級兵士の娘であるリディーや兄のタルカはこの店の客としてふさわしくないと考え、旦那様に「お付き合いをする身分を選ぶべきだ」と意見しました。
しかし、旦那様は「どのような身分でもお客様はお客様だ。」と言ったのです。
(旦那様の優しさは美徳です。ですが…私は、旦那様のことが心配なのです。)
私はふと旦那様と出会った頃のことを思い出しました。その頃の旦那様は、行商人として様々な地域を回っておいででした。そして、国内の内戦で滅亡の町と呼ばれていたラナフに立ち寄ったさいに、人のいい旦那様は戦災孤児であった私を拾ってくれたのです。あれから、旦那様は行商人をやめてこの町に小さな輸入雑貨の店を始められました。
(それを現在の店にしたのですから、旦那様は商人として優秀な方です。)
以前なぜ旦那様は行商人をやめたのか聞いたさいに「家族ができたから、帰る家が必要でしょ?」と微笑みながらそうおっしゃってくださいました。
(家族を内戦でなくした私にとって、どれ程この言葉が救いとなったか…)
そして私はそのときに、旦那様に忠誠を近い一生を捧げると誓いました。今でもその意思は変わりません。
(そろそろ出かける時間ですね…旦那様にお声をかけなければ。)
笑いながら楽しそうに話す旦那様を見ながら、自分の考えが間違っていたことに気がつくことができました。
(はっ…旦那様もリディーたちとの会話が楽しかったのですね…。)
「旦那様、そろそろお出掛けのお時間です。」
私たちは出掛ける支度を整えて、馬車へと乗り込みました。
「いつもありがとうカタフ。」
「いえ、従業員として当然のことです。」
「従業員ではなく家族でしょう?」
「そうですね。」と私はその言葉についついほほを緩めました。
やはり旦那様に仕えてよかったと思う日々です。
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