第4話

 昨日に引き続き今日もグランドにやってきたボクらだったが、何度挑戦してみても――グレース風に言うと相変わらずいい爆発って感じ……。

 むしろ魔力球の霧散がなくなった分、今日は爆発祭りだ。グレースめ、ずっと笑ってる!


 掌の感覚に集中って言われてもなぁ。


「ねぇグレース、ボクに一回お手本見せてくれないかな」

「んん?じゃあ今度キングサイズのアイス、トリプルで奢りな」

「イジワル!ケチ!エメちゃんに頼むからいいよ!!」

「ぶふ!冗談だって!クロ子はピュアだなぁ」


 なんとなくで学院に入れちゃう実技の優等生様のジョークなんて、必死で入学した末に絶賛落ちこぼれ中の獣人にはわかんないよ!

 ヘラヘラしながらもグレースはボクの横に並ぶと魔力を集め始めてくれた。ボクのためにわざとゆっくりめで。……グレースのくせに。


 だからボクは変化していく魔力球の匂いをちゃんと嗅いでみたくて、ちょっと危ないけど火球に変わりつつある魔力にすっと鼻を近付けた。


「ッ!?おい!」「クロちゃん!?」

 慌てた様子で上にあげた魔力を拡散させるグレースとびっくりして駆け寄ってくるエメちゃん。


「なんで!?あぶないよ!」


 優しいエメちゃんに叱られてしまった……。グレースも笑わずこっちを睨む。


「いや、グレースはボクと違って失敗しないし、近くで匂いを確かめたいなって……」


 気圧されつつ言い訳すると、何故か二人は揃って変なものを見るような目でこっちを見てきたし、グレースはボクの視線に気づくと手先を庇いながらサッとボクから離れた。

 今のなんだかすごいひどくない?!


だが、復帰が早かったのもグレースだった。

「鼻……。ひょっとしてクロ子、あたしの匂いじゃなくて魔力の……?」


 質問の意図が見えない。


「グレースの匂いってなに?!ボクそんなの嗅がないよ!せっかくグレースがゆっくり火球を作ってくれてたからそれを無駄にしたくなかったの!」


 エメちゃんもなんだかハッとした顔をしている。


「クロちゃん、インフルーミン先生のところに行こうか」


 ボクは二人に特訓を中断させられ、よくわからないまま教員室まで連行された。


 事務作業を中断して二人の話に耳を傾けてくれたインフルーミン先生はとても驚いた様子だったけれど、「わかりました、ではキャネンダムさんに私から説明しますね」と穏やかな声でボクの体質のことを教えてくれた。


 曰く、人は本来種族にかかわらず視覚と触覚の2つを通じて魔力を知覚している。

 ただ、近くにある魔力の機微を繊細に感じられるのは触覚で、火球を作るときに掌の感覚が重要なのもそういうことらしい。

 ここからが問題なんだけど、ボクは獣人の中でも特にその感覚が鈍くて、代わりに何故か嗅覚でも魔力を感じられるような極めて特殊な体質なんだって。

 話を聞く限りボクの鼻は普通の人の触覚並みに繊細かも、なんて先生は付け加えてくれたがこれは困った。


 いくら嗅覚が繊細でもいつ爆発するかもしれない自分の魔力球になんて危なくてとても顔を近付けられたもんじゃないし、先ほどの様子ではエメちゃんやグレースに協力をお願いしても首を縦には振ってくれないだろう。

 考えた末にボクはモンラディク先生に助力を乞うことにした。先生のしてくれた二人羽織状態なら近くでも安全に、じっくりと匂いを感じられるかもしれない。


 インフルーミン先生にお礼を言って教員室を後にしたボクらはその足でグランドへ向かい魔球部の指導をしていたモンラディク先生を訪ねた。


 先生に少し時間をもらい事の経緯を説明すると、やはり凄く驚いていたが昨日のことについては腑に落ちた様子。

 ボクが助力のお願いをすると先生は少し神妙な顔をしたが、魔学部が実験の際に使う目の保護バイザーを借りてくることを条件に明日いっぱい時間を取って訓練を手伝ってくれることとなった。


 再試まであと2日。もし、明日も上手くいかなかったら……。

 不安が尻尾に出ていたのかもしれない。横にいたエメちゃんがボクの手を優しく掴んでくれたので視線を上げると彼女は「明日も応援しに行くね」って笑いかけてくれた。

 隣のグレースも何か悪いものでも食べたのか、いつもと違う優しい笑顔をボクに向けてくれている。


 明日も頑張ろう!

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