第3話
放課後、自分の身に降りかかっている不条理を嘆きつつ実技教員室へ向かい、挨拶とともに中へ入れば応接スペースにお昼前に顔を合わせていたモンラディク先生の姿を確認できた。
そして何故か座学のインフルーミン先生もいて「キャネンダムさん、こっちにどうぞー」と椅子を指してくれる。
本来実技教員室にいるはずのない先生がいるという何とも言えない違和感。そして二人の女教師と一人の生徒という数的不利に気圧され、これは想像より良くなさそうな感じかな……と弱る心に負けぬよう、ぐっと覚悟を決めながらボクは椅子に座った。
「キャネンダム、再試は週末の放課後に第2グランドで行う」
正直今のところまったく再試をパスできる気がしないけど、やるしかない。
こんなところで足踏みしていたらずっと憧れてた魔術師になんてなれない。
「そこで今日から再試までの4日間、放課後は第2グランドの一角を使用できるようにしておいた。そこで自主練習をするといい。私もグランドで魔球部の顧問をしているから折に触れて顔を出そう。練習をしていて疑問に思うことがあったらなんでも聞きに来てくれ」
「っ…!ありがとうございます!」
ボクは授業が終わったら河原にでも行ってひとりで練習をしなければならないと思っていたからモンラディク先生の厚意は本当に身に沁みた。
思わず左右に大きく振っていた尻尾を見て微笑む先生たちに気づき、ボクは後ろ手で尻尾を掴み照れ笑いする。
「それから何か体質的なことで相談があるならインフルーミン先生も力をお貸ししてくださるそうだ」
「はい、キャネンダムさんたちには魔術理論を教えていますが、実は種族間での魔術機能の違いなんかも研究しているんです。困ったことがあったら遠慮せずに教員室にも来てくださいね」
「はい!インフルーミン先生もありがとうございます!ボク、今からグランドで特訓してきますね!」
挨拶もそこそこに更衣室へと向かう足取りは行きと違って軽かった。
服を着替えグランドに着くと魔球部員が声を張り忙しなく活動をしている傍ら、第2グランドの一角には無人のコーナーが出来上がっていた。
その端にはファイアボール用の標的もある。
心の中で改めて先生へと感謝しつつボクの特訓コーナーへと足早に進んでいると不意に後ろから声が飛んできた。
「クロちゃーん、おーい!」
エメちゃんだ!あとついでにグレースっぽい何か。見れば二人とも実技服を着ていてこちらに向かってくる。
「エメちゃん!……とグレース。二人も実技服でどうしたの?もしかしてグレースなんかやらかしたぁ?」
「進行形でやらかしてるのはクロ子だろぉ?おもしろそうだから見に来てやったんだよ、ひひ」
んぐぅっ!お昼の仕返しで投げたつもりの言葉がブーメランとなって見事に返ってきた!
「モンラディク先生にクロちゃんのこと聞きに行ったら自習のこと教えてくれたし、放課後にクロちゃんがいないとなんだか寂しいから二人で来ちゃった!なにか手伝えることあったら言ってね!」
「わぁ!ありがと!」
なんだか今日はお礼を言ってばっかりだね!ボクは恵まれてるなぁ。よし、今日はいけそうな気がしてきた!
………
……
…
気がしただけだったよ……。
途中でモンラディク先生も顔を出してくれて、後ろにぴったり寄り添ってもらう二人羽織のような形で練習したときはいきなり放出まで成功した!
したのだけど、その後一人で再チャレンジしてみると魔力はまた派手に爆発した。
それでも先生のおかげで錬成した魔力球が霧散してしまうことはなくなったが爆発は一向におさまらない。
一度掌で感覚を掴めば放出まで再現できるはずなのだが、と先生は大いに首を傾げつつ、その日は魔球部の活動日でもあった先生は「ついていてやれずすまない」と謝りながらそちらへ戻っていった。
その後、日が暮れて寮の夕食ギリギリの時間になるまで練習を続けてもボクはいつも通りのザマだった。
いつしか空腹に耐え切れず鳴ったボクのお腹の音を聞いてひとしきり笑ったグレースの号令で今日はお開きとなる。
でもまだあと3日あるから!
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