第2話

 ボク達の暮らすルブラム大陸の魔術の歴史は長い。

 エルフ族は有史以前から魔術を使っていたっていう歴史書もあるしヒューマンがエルフから魔術に関する技術を手に入れたのももう千年以上前だ。

 魔術に携わる人たちははるか昔から今に至るまで途方もない時間をその研鑽と発展に費やしてきた。


 その偉大な成果の一つがここ、オクスルーマ魔術学院だ。

 生徒数や魔術学校としてのランクこそそれなりだが、魔術学校制度の導入直後に設立されたもっとも古い学校の一つ。

 過去には魔術史に名を残す偉人を輩出したこともあり、魔術の更なる発展に寄与してきた。

 そんな栄えある学び舎に入学し――見事に落ちこぼれているのがボクだ……。


 獣人族。このルブラムにはほとんどいない種族で聴覚や嗅覚に優れ身体能力も高く獣のような耳と尻尾、頑丈な手足や爪が特徴。

 ……あと、魔術が苦手。エルフやヒューマンはもちろんドワーフと比べても魔力の感知や制御が不得意な種族。それがボク達獣人族だ。

 父さんも母さんも、爺ちゃんや爺ちゃんの村のみんなも、普通の獣人の人達は種族的に魔術が不得手なことなど特に気にしておらず魔術は得意な種族に任せればいい、くらいの感覚だけど魔術師になりたいボクからしたら大大大問題だった。


 ルブラムで魔術師になるためには魔術学校に入り魔術の腕を磨きながら必要な課程を修了しなければならず、3年前魔術師を目指し始めた12歳のボクにはそもそも入学試験を合格するのがもう高いハードルだった。

 なにしろ試験科目の中に魔力の制御・錬成の実技試験があるのだ。


 母さんたちの伝手で昔魔術師をしていたというヒューマンの女の人に師事し必死で魔力制御の訓練に励んだ。

 実技を少しでもフォローするために座学だって寝る間を惜しんで取り組んだ。伸ばしていた赤毛の髪も手入れに時間がかかるので短めにカットした。

 入学試験に臨むころには座学での無理が祟ったのか、弟たちと比べようもないくらいに視力が落ちてしまっていたけど魔術師になるためと思えば後悔は無かった。


 それでも入試本番の日には今まで経験したことが無いほどの緊張に押しつぶされそうになりながら、精一杯の魔力錬成をした。したんだと思う。正直その辺りは本当に無我夢中だったからあんまり覚えていない……。


 数日後、不安で不安で食事も満足に喉を通らずにいたボクの元に学院から合格通知が届いたとき、これで魔術師になれるよ!!って母さんに抱きつき飛び跳ねて喜んだのはよく覚えている。


 そして期待に胸を躍らせながら始まった学園生活がキラキラしていたのは、実技が始まるまでの短い時間だけだった。


 とにかく魔術が成功しないのだ。魔術学校のカリキュラムで最初に習うファイアボールでボクはいきなり、そして盛大に躓いた。

 先生に教わった通り伸ばした手の先に魔力球を練り、掌からの感覚を頼りに魔力の出力と密閉に注意しながら火の属性に調整……しようとするが魔力球はボクの意に反して何も起こさず散っていってしまう。もしくは一気に激しく燃え上がり爆発する。


 ボクが魔力球を火球を変えるのに苦戦し続けている間も日々は無情に進み、はじめは同じように火球を作ることができなかったクラスメイトも一人、また一人と火球を作り、撃ち出し、目標を見事に焼けるようになっていく。


 初回の実技からおよそ2週間、第1回の実技考査の今日――ファイアボールを的に当てるどころかその火球すら満足に作れず、みじめに顔を煤で汚すのは最早ボクひとりだった。


 ……なんでこうなるの!?

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