第4話 冬の女王


 冷たい風吹く冬が来た。

 今日もハルカがやって来る。

 もはやそれは日常になりつつあった。

 それがいけないことだと分かっていても。


「ねぇセツナ、セツナはいつまでそうしてるつもり?」


 答えは出せない、出せるわけがない。

 敵はいまだに外にいるし。

 世界はどこまでもわたしを迫害する。

 何より、わたしがわたしを許せない。


「ハルカはさ、だれかを■きになったことある?」

「? いまなんて」


 言えない。雪の下に積もり積もったこの想い。

 春が来て、芽吹くのを待っている。

 だけどずっとわたしの心には北風が吹いている。

 そう。


「わたしの心はずっと冬なんだ。盲目の冬」

「急に詩的じゃん」

「素敵でしょ」

「韻踏んでる?」


 互いに笑い合った。

 それだけでよかった。

 この距離感が心地よくて。

 手放したくなくて。

 でもいつまでもこうはいかなくて。

 私は思わず泣きそうになる。

 笑ったり泣いたり忙しい奴だと自分でも思う。

 ドア越しに背中を付ける。

 きっとハルカもそうしてると思うから。


「セツナ、手紙、読んだよ」

「……わたしは読んでない」

「そ」

「ん……」


 それだけ。

 手紙を読むだけでどれだけの苦労をかけただろう。

 だけど、それでも、わたしは、やっぱり。

 思わず声を出して泣きじゃくる。


「セツナ……」

「もう嫌だよ……学校の連中も、こんなわたしも、誰も彼も、わたしはただ」

 

 そう、ただ今、こうあるだけでいいのに。

 それが叶わない。

 冷たく突き放す世界に耐えられない。


「わたし、まともじゃないの、もう誰も■きって思えない」

「よく聞こえないよセツナ、もう一度言って」


 せつな、鼓動が高く胸打った。

 辛い、息を吸うのも苦しい。

 藻掻くように手を伸ばす。

 虚空を切る手はそのまま床についた。

 

「ただ……ただ……わたしは……」

「セツナ、苦しいならもう」

「ただ! わたしは!」

「セツナ!」


 ドアが開かれる。

 息を詰まらせたわたしを桃色の君が抱き留める。


「ごめん、全部知ってた。全部知ってて黙ってた」

「なに、それ」


 わたしは思わずハルカの背に手を伸ばすと抱き返す。

 抱き締め合う形になるわたし達。

 どうかこれが夢であったら。

 どれだけよかったでしょう。

 どうか今は神様。

 わたしをここで眠らせて。

 幸せな夢を見させて。


「ハルカ、きだよ」


 これがわたしの心。

 ひた隠しにしてきた。

 彼女への想い。

 隠した■が取れる事は最後までなかったと。

 悔やみ。

 妬み。

 悲しみ。

 自嘲して。

 わたしは彼女の腕の中で意識を手放した。


「私も、■してる」


 気のせいだったら、どれだけよかっただろう。

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