第3話 秋の夕暮れ


 酷暑が終わり、紅葉が咲く。

 そんな季節も変わりなくわたしの部屋は稼働する。

 推しの配信者の動画を見ながらぼけーっとする日々。

 するとドアがノックされる。

 

「セーツナ」

 

 後ろに■マークでも付いてそうな声音。

 背筋がぴくんと跳ねる。

 ハルカの声。

 もうすっかりわたしは彼女の■だ。

 

「今日はね、テストを持ってきました」

「て……?」

「うん、心理テスト」

「あー……」


 そういえばそういうのが好きな子だったと思い出す。

 中学生の時の思い出。

 懐かしい■心よ。

 

「昨日見た夢、教えて」

「夢診断じゃん」

「まあまあ」


 心理テストですらなかった。

 渋々わたしは夢の内容を語り聞かせる。


「わたしは何処か遠くの蜃気楼を目指してた、だけど、あまりにも遠くて届かなくて、諦めかけてた。だけど後ろから馬車が来て――」

 

 そこで口を止める。

 

「どしたの?」

「あ、いや」


 その馬車に乗っていたのがハルカだったなんて言えなかったからだ。

 此処の所、よくハルカの夢を見る。

 ずっと見ている。

 ■焦がれている。

 いつか、打ち明けてみたい。

 純粋な想いを、■を取り払ったわたしの気持ち悪い心の内を。

 あなたに吐き出してみたい。

 

――あなたが欲しいと言ってみたい。

 

 やめろ。

 そこまで想ってもうダメだった。

 思わず嘔吐する。

 胃液が喉を焼く。


「セツナ!?」


 吐瀉物で床がぐちゃぐちゃになる。

 大して胃にものを入れてなくて良かった。

 

「セツナ! 開けて! セツナ!」


 本当は自分で開けられるくせに、私から開かせるのを待っている。

 狡い人だ。

 そんなところが■きなんだけど。

 やっぱり伝えられそうにない。

 少し想うだけで胸が苦しくなる。

 あなたを想うだけで鼓動が激しくなる。

 背筋は跳ねて、痙攣する。

 明らかな異常事態。

 わたしは意識を手放した。

 暗転する意識の中、ドアがそっとひらく音がした。


 目を覚ますと、そこには綺麗に掃除された部屋と一枚の手紙。

 わたしはそれをそっと机の引き出しに読まずに閉まった。

 そう、これでいい。

 読んでしまったらきっと。

 わたしはあなたに依存してしまうから。

 そっと突き放す。

 自分の為だと言い聞かせる。


 時刻は秋の夕暮れ。

 寂しい夕陽がカーテンの隙間から覗いた。

 わたしはもう一度、手紙に手を伸ばすと。

 それをもう一回やめて。

 机に向かった。

 

「黒やぎさんからお手紙……白やぎさんは読ますに食べた……」


 内容も知らない手紙の返事を書いて。

 ドアの下の隙間からそっと向こうへ送った。

 ハルカか両親が気づくだろう。

 そう願って。

 ああ、本当にまともじゃない。

 だけど、これがわたしの――

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