第九話 風来の鎌鼬 心月 その二

 『パーンッ』『パーンッ』


 乾いた音に、目が覚めました。“ご主人”と“団子”は、まだスースー寝ております。

 少し離れた所からでしょうか…、鉄砲の様な音がこだましてきたような気がしたのですが…。

 とりあえず、朝なので“ご主人”の頭を甘噛し起こします。


 「うぅ〜、“オハギ”よ、俺は琵琶ではないぞ…。!? 俺の琵琶が無い!!」


 朝から、食べ物の事で騒がしい“ご主人”です。確かに…、“団子”が集めてくれた食べ物が、一つも残っておりません。その辺の“ものの傀”にでも、食べられたのでしょうか…。


 “団子”は、いっこうに起きません。仕方がないので、“ご主人”の首周りに器用に巻き付け、峠に向かい歩きました。


 「うぅ〜。実のところ、“団子”は獣臭く、毛がゴワゴワしておるのだ〜。」


 「それは、お気の毒に。捨て置きますか?」


 「“オハギ”は、“団子”の事となると、氷のように冷たいの〜。」


 あっし(私)は、“ご主人”の顔も見ずに峠の方を見て話しました。

 (!?)峠の先に、煙が上がっております!

 何か胸騒ぎがしました。あっし(私)と“ご主人”は、急いで見通しの良い峠まで駆け上がります。


 何ということでしょう…。“霞の国”の関所がある村が、燃えております。

 ムクリと“団子”も起きました。


 「“団子”よ。あそこまで、何れ程だ?」


 寝起きでタジタジですが、目の前の光景と“ご主人”の引き締まった声に、必死で答えようとする“団子”。


 「ん〜。いっ、急ぎ走れば、お日様が上り切る前には…。」


 その言葉を合図に、あっし(私)等は、峠を駆け下ります。


 『パーンッ』


 また銃声が、関所のある村から聞こえてきました。


 「“ご主人”、鉄砲の音です。お気をつけて!」


 関所の門番は、絶命しておりました。鉄砲で胸を撃たれた後に、首をかっ切る入念さ。


 「何て、ひで〜事するだ〜。」


 念仏をかけてやる暇はありません、村人が心配です。


 『パーンッ、パーンッ、パパパーンッ』


 村の方で、乱撃が始まりました…。

 その時です!


 『ブオーン!』


 巨大なつむじ風が巻き起こり、兵士達が舞い上げられました。


 「あの技は…。」


 息も切れぎれに村の入口にたどり着くと、竹槍を持った村人と思われる男が首をかっ切られ絶命しております。

 先に進むと、先程のつむじ風でズタズタに裂かれた兵士達が倒れておりました。

 その側で、菅笠に藍色の合羽、そして手に釜をもった“心月”が、息を切らして立っておりました。


 積み上げられた木桶の物影から、兵士が“心月”に鉄砲を向け狙いを定めております。

 “心月”からは、死角にいるようで見えていないようです。


 「危ない!!」

 『ズゴーン』

 「グヘっ」


 あっし(私)の声が届くか否かの間に、“ご主人”が刀を大きく振り、放たれた衝撃波が、木桶ごと侍を吹き飛ばしました。

 “心月”の作るつむじ風ほどではありませんが、見様見真似で放った技が、兵士を吹き飛ばした事に、“心月”も驚きを隠せないでいます。


 「今度は…、そなた等が助太刀か…。かたじけない。ハァハァ。」


 「よいよ。村で無事な者はおらぬのか…? それに…この者達はいったい?」


 「落ち着くのは…、まだでござる。ハァハァ。」


 倒された兵士達が、むくりむくりと立ち上がってきました。

 全く生気が感じられず、フラフラと刀を構え、白目をむいたまま襲ってきます。


 「何だ、こいつらは?」


 『ズバッ』


 斬りつけるも、また立ち上がってきて、フラフラ襲ってきます。


 「こ奴らは…、死んでも襲ってくる…。ハァハァ。」


 『ズバッ』


 「“心月”殿。どういう事だ?」


 「“ご主人”! おそらく、山道で出くわした屍と同じ呪いで動いております!」


 「“呪い”? どうすればいい?」


 「“呪い”を断つか、前回同様バラバラにしてしまえばよろしいかと。」


 ぞろぞろ、屍の兵士が立ち上がってきます。

 “心月”殿は、息切れがおさまりません、もう体力が残っておらぬのでしょう。あの、つむじ風の大技も出せるか否か…。

 “ご主人”の剣技は、一撃必殺。しかし、多勢に無勢…。

 どうしたものでしょう…。


 家の物影に、“団子”の大きなおしりと尻尾がビクビク隠れていたので、噛みついてやりました!


 「ぬ〜ん!! 痛いのだ〜(涙)」


 「何を、しておるのです!」


 「ぬ〜ぅ。おら…何も役に立たね〜だ。」


 「あんぽんたん! 大鬼に化けて、屍の兵士をつかみ、“ご主人”達の前に集めるのです!!」


 「ぬ〜ぅ。(涙)」


 『ガブッ!!』(尻に噛みついてやりました!)


 「分かっただ〜。」(ボフンッ)


 その横で“ご主人”は、屍の兵士を斬り倒しますが、ムクムク立ち上がりきりがありません。“心月”は、とうとう膝をついてしまいました。


 「んな〜っ!!」


 “団子”の大鬼は大声をあげながら、屍の兵士達を掴み、次々に一箇所に集めていきます。


 「“心月”殿、今です!!」


 「うむ!」


 “心月”は、渾身の一撃を放ちました!

 巨大で激しい旋風が、舞い上がります。

 辺りには、黒い雨…いえ…血の雨が降りました。まさに、“ものの傀”のなせる技です…。

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