第八話 風来の鎌鼬 心月 その一

 「お侍さん…。ここから先は、“霞の国”…。何があっても知りませんよ…。」


 覇気のない関所の番人に、“ご主人”は呼び止められました。


 「そんなに危険なのですかい?」


 酒を飲み博打を打つ有り様、何が彼らをスレさしたのでありましょうか。


 「“霞の国”…。厳しい自然と古の“ものの傀”の国…。おまけに国中戦の真っ只中、向かう者はいれど…、来る者はいない…。」


 なるほど…。税を取れる者もおらず、まともな仕事もないのでしょうな…。


 「色々と、“ものの傀”には、慣れております。」


 「“ものの傀”の国に、戦を仕掛ける国がおると言っておる。この先の峠でも、こないだ戦があったばかりだ…。そなたらの身を案じたがゆえだ、やめておけ…。」


 あっけらかんとした“ご主人”に、関所の番人がムキになりました。


 「何故、争っておる?」


 「さあ…。お上の考える事など…。」


 「ご忠告、感謝する。」


 酒浸りのくせして、不吉なことを言う番人でございました。

 あっし(私)等は、関所を後にし、木々が生い茂る峠に足を進めます。


 「ルン、ルン、ル〜ン♪」


 狸型の“ものの傀”、“団子”の丸くフサフサした尻尾が、あっし(私)の眼の前で鼻歌にのせてフリフリ動きます。


 「“団子”さん。そなたは、こんなに鬱蒼とした森で、よく呑気にしておられますね。」


 「んだ〜。おら〜、“霞の国”で育っただ〜。」


 里帰りといったところでしょうか…。“霞の国”は、あっし(私)も土地勘がないゆえ役にはたちそうです。


 「“団子”さんは、“霞の国”の事が詳しそうですな。“ものの傀”の噂も、色々と…!? ギャー!?」


 “団子”の頭が、髑髏(しゃれこうべ)になっておりました。


 「むふふふ。そこで、拾っただ〜。」


 💢(怒) あっし(私)は、プイっと“団子”から目を背け、さっさと歩き進みました。


 「ハハハ。“オハギ”、そんなにムスッとするな。それにしても…。」


 森の木々には、矢が刺さり、ちらほら討ち死んだ侍が転がっております。


 「いってい何なんで争っておるのかの〜。」


 「“中の国”の“将軍”様のお侍さんだ〜。国々を自分の物にしようとしているだ〜。」


 〜“オハギ”の語り〜


 “中の国”…、この世界の真ん中に有る国。

 十二ノ黄昏と呼ばれた戦(いくさ)の後、荒廃した世界を復興し世界を治める“天帝”さまがおられる都のある国です。

 諸国の呼び名は、“天帝”様の命により様々な領主や武家の長によって統治されるので、コロコロ変わりますが、大まかな土地の呼び名を、その地の由来に沿って“霞の国”や“中の国”と呼称しております。

 “将軍”様とは、武家の最上位の長の事です。


 〜〜〜


 あっし(私)は、“団子”に対抗して知識を話し、得意げに“団子

”を睨みつけてやりました。

 とうの“団子”は、ぽけ〜っとしておりますが…。


 「“オハギ”物知りじゃね〜か。俺と一緒で、記憶喪失とは、思えね〜な。ハハハ。」


 (“中の国”の者が、あっし(私)の昔の“ご主人”の仇で、今の“ご主人”を利用しているなど…、口が裂けても言えませぬな…。)

 とりあえず“ご主人”にも、あっし(私)のドヤ顔を見せて差し上げましょう…眼の前に髑髏(しゃれこうべ)!?


 「ギャーって。いやいや…。二度も同じ手は、通じませぬよ…。」


 「“オハギ”! 何をしておる、逃げろ!」


 「ほへ?」


 辺りに散らばる討ち死にした屍が、むくりむくりと立ち上がってきておりました。


 「ギャー!」


 思わず“団子”に抱きついてしまいましたところ…。“団子”の髑髏(しゃれこうべ)と、目が合いました。


 『ギャー!』


 あっし(私)と“団子”は、思わず叫びました。

 先程の髑髏(しゃれこうべ)が、むくりと立ち上がり、あっし(私)と“団子”に朽ちた刀を振り回し襲いかかってきます。


 『ズバンッ』


 “ご主人”の斬撃に、屍は砕け散りました。

 しかし、次から次へと屍が迫って来ます。


 『ズバンッ、ズバンッ』


 “ご主人”は、次々に屍を打ち払いますが、キリがありません。しまいには、打ち払った屍の一部まで、またむくりと立ち上がり、襲ってきます。

 とうとう、屍の群れに取り囲まれました…。

 屍たちが雪崩のように襲いかかってきます。

 絶対絶命かと思った、その時、激しいつむじ風が巻き起こりました。


 『ブオォーン』


 激しい旋風と共に、屍達がきり飛ばされてゆきます。

 ボトボトと屍の残骸が降りそそぎ、塵がやんだ先に人影が見えます。


 菅笠(すげがさ)に藍色の合羽(かっぱ)、両手には鎌…いや…両手が鎌です。よくよく見ると菅笠からうかがえる顔は、鼬(イタチ)です。

 ただならぬ雰囲気のある、その者に“ご主人”が声をかけました。


 「助太刀、申し訳ない。凄い技だな。」


 「礼には、およばぬ。」


 「俺は、“虎鉄”と申す。そなたの名は?」


 「“心月”でござる。」


 鼬(イタチ)の“ものの傀”は、“心月”と名のり、つむじ風と共にスッといなくなってしまわれた。


 「あっ…。行ってしまった…。そっけない奴だ…。」


 “ご主人”は、まだ話足りない様子。“団子”が、ボソリとあの者の事を話しました。


 「風来の鎌鼬“心月”だ〜。おらも、始めて出会っただ〜。その姿を見たときには、既に切り刻ませていると恐れられていただ〜。敵じゃなくて、よかっただょ〜。」


 フンッ。“霞の国”の事に関しては、“団子”に頼らざるおえませぬな。


 風来の鎌鼬“心月”…。

 次会う時は、敵でないことを祈りたいものです…。

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