第二話 ものの傀師~迅兵(じんべえ)
「“ご主人”と呼ばせて下さい。あっし(私)は、腹を括りました! 宜しくお願いします!」
“虎鉄”(こてつ)殿は、茶屋の長椅子に腰掛け腕組みをしながら、あっし(私)の突然の申し出に困惑しておりました。
「いやいや、困るって。 金もね~、記憶もね〜、犬なんて養えれね〜よ!」
「心配ご無用。“ものの傀”狩りを、生業にすればよいのです。」
「“ものの傀”が、“ものの傀”狩りって、不謹慎だろ!」
「あぁ~、このご時世なのに、なんとお人好し。倫理や正義など、生きる為には無用。先程も“侠”(きゃん)を、真っ二つにしたではありませぬか!」
あぁ~、この方とは、不毛の会話しか出来ぬのか…、いや、我慢、上手く利用しあの方の仇を取るまでは…。
「では、“オハギ”どうすればいい?」
のってきました。しめしめで御座います。先ずは、“ものの傀”狩りを隠れ蓑(みの)に、仇の情報収集で御座います。
「そうですね~。犬型の戦闘用“ものの傀”が野生化した“侠”(きゃん)の様な奴らが、他にもウジャウジャおりまする。“茶屋のおなごさん”、他にも皆、困っているのでは?」
「はい。周りの国々が戦を始めたようで、最近あんな輩(やから)が流れてくるようになりました。」
「ほぅほぅ。この辺の集落を巡れば、一文の足しでもなりましょう。して“茶屋のおなごさん”、“色白で小柄な姫”を連れた、“黒い面頬(めんぽう:顔の防具)の男”を見かけませんでしたか?」
「いいえ。存じ上げません。」
「何で“オハギ”が、姫様なんて探してるんだ?」
“虎鉄”(こてつ)殿、妙に細かいところが気になるのですな〜。説明するのも面倒なので、適当にあしらいましょう。
「えっ! あっ! いゃ〜その…、“ものの傀の姫”を捕らえれば、“ものの傀”も減って、討伐料ももらえて、一石二鳥かと…。」
「あぁ〜、なるほど〜!」
ご主人と呼ばせてもらった手前、何と知識の浅い返事なのでしょうか…。
そんな時、とても激しい衝撃と爆音と共に、ご主人様が吹き飛んでしまわれた!
『ドカーンっ!!』「うぎゃー!」
「何事!」
あっし(私)は、耳、しっぽ、全身の毛を逆立て、周囲を警戒しました。
「俺様の大切な、犬を切り身にした奴ぁ〜誰かと思いきゃ、こんなポンコツた〜ぁ、残念でならね〜な!」
硝煙の香り、周囲が白煙に包まれ目も鼻もききません。
声のする方を凝らし見つめると、さっきの“侠”(きゃん)が二匹、その奥に大筒を抱えた大男が仁王立ちしておりました。
「こんな平凡な所に、獰猛な“ものの傀”がいるのがおかしいと思いました。どちら様が存じ上げませんが、さては“ものの傀師”ですね!」
「へへへ。利口な犬だ。喋るった〜滑稽、滑稽。てめ〜の主人は、伸びちまって情けね〜な。」
硝煙の香りが散って、景色が晴れ上がると、七尺はありましょうか…とても人とは思えぬ大男の姿が現れました。
顔の周りをを覆う半首(はっぷり:顔の防具)、全身を覆う黒いマント、そして手足は鋼鉄のカラクリでは御座いませんか。
「犬ども、やっちまえ!」『 ピーッ』
大男は指笛で“侠”(きゃん)に合図をすると、あっし(私)と茶屋のおなごにそれぞれ飛びかかってきました。
六尺(1.8m)はあろう巨大が牙を見せ俊敏に迫って来ます。
絶対絶命、そう思った時で御座います。
『ズバンッ!』
剣先の軌道が、まるで三日月の月光の様に輝いた途端、“侠”(きゃん)の首だけが茶屋のおなごの下へ飛んでいきました。
おなごにとっては、首だけだろうが関係ありません、叫ぶことも忘れ気絶してしまいました。
もう一匹の“侠”(きゃん)はと申しますと、完全に怖気づき、耳がたれ、座り込んでしまっております。
「んなバカな! 大筒の直撃なんだぞ! 無傷じゃねーか!」
大男の叫び声の通り、無傷の“虎鉄”(こてつ)殿が、刀を鞘に収めておりました。
「“ご主人”!」
あっし(私)は思わず、“虎鉄”(こてつ)殿の、いえ、“ご主人”の事を叫んでしまいました。
「おい! 大男! 突然、無礼ではないか! 先ずは、名を名乗れ!」
えっ!? そこ? 大筒で撃たれているのに、名乗ればよろしかったのですか? 何とお人好しなご主人なのでしょうか。
「へへへっ、おもしれー奴じゃねーか。俺様の名は、“ものの傀師、迅兵(じんべえ)”。今日のところは、一旦引いてやろう。次会う時は、その刀いただく。」
えっ!? ご丁寧に、名乗って次の目的まで言うの!?
生き残った“侠”(きゃん)を脇に抱え、迅兵(じんべえ)は大慌てでその場からスタスタと去っていきます。
なぜでしょうか七尺はあろう大男が、急に小さく見えました。
「うむ。いさぎの良い奴。私の名を名乗れなかったのは残念だ。」
いやっ! そこ!? なんともまあ〜、一周回ってご立派で御座います。
“茶屋のおなご”を介抱し、二度目のオハギにありつく“ご主人”でありました。
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