第2話 施設見物
「とりあえず、各部屋に入るのが先ね。鍵はこのケースにあるんだけど、部屋割りはどうしましょう?」
受付窓口が左側に設けられていたが、当然、無人。そこの手前がちょっとしたカウンターになっており、部屋のキーは、カウンターの上の箱にまとめて置いてある。
「それは僕に聞いてる?」
鈴木さんの言葉遣いから察したらしい、グループ内で最年長の
「見取り図によると……宿泊用の部屋は一階に十二、二階に四か。一部屋に二人までは入れるみたいだけど、数は充分足りてるから一人一部屋は当然として、ここはやっぱり、性別でフロアを分けるべきかな」
八人の内訳は男女それぞれ四人ずつ。二階を女性陣に使ってもらおうという意見だ。特に異論は出ない。
「じゃあ、各階で誰がどの部屋にするかはそれぞれで決めてもらって。男の方は選択肢が多いけど、ばらけると何かと面倒だから、なるべく固まるとするか」
「それでいいですね。決まったら、分かり易いよう、紙に書き出しておく」
言いながら、視線を巡らせた鈴木さん。
「
「お安い御用です」
妹の方、山本樹さんがすんなり引き受けた。姉の山本
「あとは……厨房の使い方を見ておかないといけないから、十五分後に厨房に集合。どこにあるかは見取り図で」
皆、最前の見取り図に再び目を向ける。凝った料理を作る訳ではないが、今夜からの食事は二交代制の当番で、四人ずつに分かれて臨むことが予め決められていた。男女二人ずつになるよう、増川、池尻、山本姉妹と鈴木、海田、波崎、僕という組み分けだ。先にやるのは僕らの組で、鈴木さんが入っているのがその理由。と言っても、天候が崩れない限り、初日の夜は中庭でバーベキューと決まっているので、気楽だ。
そういえば、食材費は皆で出し合ったものの、鈴木さんが大幅に追加した上で、全て買って選んで購入したと聞いている。期待が高まろうというもの。
「それじゃ、二時五分に集合ってことで」
増川先輩の声を機に、女性四人は階段へと向かった。
部屋は二人で使ったとしても充分に広く、快適に過ごせそうだった。テレビや電話機の類は置かれていないが、まあしょうがない。劇団の合宿にテレビがあっても邪魔になる、という考えだったんだろう。クローゼットのためのスペースが心持ち広く取ってある気がする。ウォークインできるタイプで、真ん中で仕切られていた。選ぶ段階で全室見て回ったんだけれども、玄関から一番奥に当たる部屋のクローゼットには前所有者関連と思われる私物がいくらか残っていた。具体的には、よれよれになった衣装や膨大なウィッグ、書き割り等。もちろん、誰もその部屋は選ばなかった。
壁には、さっき見た見取り図と同じ物の他にもう一枚、島を上空から見たと思しきイラストが額に入れて掲示されていた。やや漫画っぽい絵地図が正しいとして、島のほぼ中央には沼があるようだ。まさか火山湖ではあるまい。名称は
少し早かったが、部屋を出て鍵を掛けてから、厨房に行く。増川先輩や池尻先輩は既に来ていた。と思う間もなく、海田先輩も登場。海田先輩だけ上を着替えていた。今度は白地が多めの柄Tシャツだ。
「このあと、どうするんです?」
池尻先輩が増川先輩に聞く。この夏合宿(?)では細密なスケジュールを立ててはいない。せいぜい、食事や就寝及び起床時刻を大まかに決めてある程度。食事は準備が当番制だから時間を決める必要があるし、寝たり起きたりする時間ぐらい決めておかないとだらだら過ごしてしまう恐れがあるとの理由だ。
「試運転前に、何か飲みたいなあ」
増川先輩の返事を待たず、海田先輩が主張した。
「もちろん酒じゃなく、午後ティー的なやつ」
「三時のおやつには早いが、まあ、船で揺られて疲れてるのもいるかもしれないし、それでいいだろ。幸い、食料は持ち帰らなければならないほどありそうだ」
顎を振った先を見ると、大きな冷蔵庫の手前に、ぱんぱんに膨らんだ手提げ袋が五つ六つあった。袋の口から覗いている物は、根菜類とレトルト、それにお菓子が確認できた。冷蔵庫に仕舞いきれなかったのか、仕舞う必要なしと判断したのか知らないが、結構な量だ。
そうこうする内に鈴木さんを始めとする女性陣も相次いでやって来た。みんな多少なりとも身だしなみを整え直したように見える。
厨房の使い方をざっと見て回り、水やガスが通じているのを確認し、食材が不足なく届いていることのチェックも済み、食器や調理器具の場所も大体把握できたところで、海田先輩の意見が入れられた。ティータイムである。
コンロがあるが、今は暑さ対策が優先。誰もがペットボトル飲料を選んだ。お菓子の方は適当に選んで開封し、器に出さずにそのまま手を伸ばす。
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