第6話 朝から落とされる爆弾、そりゃもうバーン!よ
「は?剣の指南役?」
俺、黒井勇斗が朝っぱらから母親に告げられたのは剣の指南役を頼まれたから行ってきて、との事だった。
いや意味分からんのだが。
当然ワケわかんないよ~状態なので聞くとどうやら今回この話を持ってきた水信という名家は戦国武将の家系らしくそこのお嬢様が丁度剣の基礎を終えたところらしい。
そこで発展をさせてやりたいので黒陰流を扱える俺に話が回ってきたのだとか。
「にしても水信ねえ……どっかで聞いたことあるような……」
う~んどこだっけなあ……なぁんか聞き覚えあるんだよなあ……。
俺がうんうん唸っているとミカがニコニコしながら俺をじっと見つめる。
「なんだよミカ」
「水信、水、ブルー、マジカル……?」
「……!!は!?水信ってもしかして
「多分ね、あそこの家は確か一人娘だったはずだよ」
「あら、もしかして?」
母さんがからかうように俺を見る。
間違いない、この明らかに青を主張しているこの名前は……
「マジカルブルーじゃねえかぁぁぁあああああああああ!!!」
「はあああああああああああああああああああああああああ…………」
俺はいつも通り一番に教室に着いて机に座ると一生分にもなりそうなため息を吐く。
いや、いくらなんでもタイミングおかしいだろ!ただでさえ桃江風花に正体がバレそうになって大変な思いをしたのに畳みかけてくるとか神とやらは畜生か!?
あ。神様ってミカか、変なこと言うと晩飯抜かれそうだから気をつけよ。
というか剣の指南役自体、正直やりたくない。魔法少女の問題抜きにしても断りたい。
その理由は俺がまだ免許皆伝を言い渡されてないからだ。
黒陰流は秘匿されていた流派……というわけではなく、父さんがいたころは普通に道場を開いていた。一応一子相伝の技なんかがあって、そういうのは俺しか教えられていないのだが基礎からある程度の応用までは道場で教えていた。
あまり敷居の高くない道場で中にはダイエットのために入ってきた人もいるくらいだった。まあ大体がそういう目的を忘れるくらいのめりこむからそういう人にも寛容だったていうのはある。
そんなこんなで剣に厳しい父さんがまだまだ若く未熟な俺に免許皆伝なんて言い渡す訳がなく勿論俺は弟子も取れない。だから今は道場を閉鎖している、教える人がいないからね。
道場を閉鎖するときはそれはもう惜しまれたもので道場を取り壊すわけではなくただ閉めておくだけなのに涙する人までいた。そんな状態でも俺は師を買って出ることが出来なかったんだ。だから期間がどれだけになるのか分からないが指南役を引き受けること自体がある意味弟子を取ることになるので抵抗があるのだ。
「一応指導の補助ならやっても良いらしいけどなんだかなあ……」
「指導の補助?勉強会でもするの?」
「いや勉強というより鍛れ……桃江!?」
「おはよー!ものすんごいため息吐いてたけど大丈夫?」
快活な笑顔と共に俺に挨拶するのは表では明るい少女、裏では夢魔を倒すマジカルピンクの桃江風花だ。
あ、危なかった……なんで俺がマジカルブルーの世話なんか…とか呟いてたら完全に終わってた………。
俺も桃江風花の思考が漏れる癖を笑えないな……マジで危なかった……。
「勇斗くん?お~い勇斗く~ん」
「な、なんだよ」
「いやぼうっとしてるから大丈夫かなって。寝不足?」
「……いや、ただスマホが無いからちょっと落ち着かないだけだ」
「あ~そういえば修理に出してるんだっけ?大変だね~」
ウソである。
俺は普段スマホを使っている時間はそんなに無いので真っ赤なウソだが若者っぽい理由なのでなんとか通ったようだ。
「でも意外だね。勇斗くんってあんまりスマホ使いそうにないのに」
「ギクッ……」
「ぎく?」
「あ、いや。あんまりスマホばっか見てるとぎっくり腰になりやすくなるからな。気を付けないとって」
「へ~そうなんだ!勇斗くん物知りだね!」
あっっぶね~………なんとか誤魔化せたぜ……
…ちなみにぎっくり腰になりやすくなるのは本当らしいよ?
「あ、そうだ勇斗くん。今週の金曜日から日曜日、何処か空いてるかな?」
「ん~あ、そうだな……日曜日なら」
「ホント!?」
「お、おう…」
「じゃあさじゃあさ!ウチに来てよ!お父さんがね、勇斗くんを呼んでくれないかって言ってたんだ!」
……楓さん、結構肩身狭いんですね。
俺は若干遠い目をしながら桃江風花の父、楓さんの心中を察するとすぐに分かったと首を縦に振った。
「そういえば勇斗くん、昨日の『クルリララッパ』の放送見た?」
「あ~見たぞあれさ……」
桃江風花がアニメの話を切り出し、俺もその話題に乗る。
俺たちは朝早く登校するのでアニメの話をするのはもっぱらこの時間帯だ。
俺は大体暇だが桃江風花は男女問わず人気な上に魔法少女の事もあって昼間や放課後はあまり時間がない。
なので決まってホームルームが始まる前に談笑するのが恒例となっていた。
俺達がそうして話していると何やら廊下が騒がしくなってくる。そろそろ生徒達が登校するタイミングではあるのだが、妙にざわざわしている。
「なんだか廊下が騒がしいね、なんだろ」
「なんだろな。この街って色々起こるからなぁ…」
夢魔のことだ。桃江風花も分かったのか苦笑いを浮かべているが騒ぎ方からしてどうやらそうではないらしい。
「夏穂様!今日もとても美しゅうございます!」
「今日も一段と輝いていらっしゃいます!」
女子生徒の黄色い声が耳に突き刺さる。
「あ~、夏穂ちゃんが来たんだ。納得」
………一応聞いておくか。
「夏穂って水信夏穂の事か?」
俺がそう聞くと桃江風花は珍しく少し驚いたようにこちらを見る。
「勇斗くん、意外に夏穂ちゃんのこと知ってたんだ」
「なんだよ、その言い方」
「あはは、ごめんごめん!だって勇斗くん、そういうの疎そうだから」
……はい、すいません。ついこの前、というか今朝知っただけです。
「でもあんなに騒がしくなるなんて知らなかったな。この時間帯に登校するのは珍しいんじゃないのか?」
「まぁそうだね。でも休み時間とかもこんな感じで騒がしくなるよ?」
…………あぁ~
「でもそっか、勇斗くんは休み時間大体一人で音楽聞いてるもんね」
やめろ…………言うな…………まだちょっと男友達がいないだけなんだ…………
がやがやとした廊下を眺めながら俺は早めに友達を作ろうと決心したのだった。
かあかあとカラスが夕日を背景に空を駆ける。
カラスは2羽仲良く飛んでいるが俺はオンリーワン下校である、悲しい。
心なしかカラスの鳴き声がボッチ状態の俺を笑うかのように聞こえる。
「アホー。アホー。」
「…………おいてめえ!明らかに今馬鹿にし」
カラスに文句を言おうとしたときだった。
爆音と共に家がある方向で大きな煙が立ち上る。
「な、なんだ!?家の方から…………。とりあえず行ってみないと!」
「はぁ…………はぁ…………」
10分ほど走り、自宅付近に到着してすぐに見えたのは近所にあったマンションから火の手が上がっている所だった。自宅の玄関を見ると家に残っていたミカが外に出て様子を伺っていた。
「ミ、ミカっ」
「あ、勇斗!おかえり!」
「ただいま…後ろでえっぐい火が立ち上っているのになんて明るい笑顔で出迎えてるんだよ……。それで一体何が起こったんだ?」
「放火魔だよ放火魔、なんでもマンションを燃やしたことを自称する男がマンションの最上階に人質を取っているらしいんだよ」
「うわ、タチ悪いなその放火魔……」
「だよねー。ただ、今芯間町のあちこちで夢魔が発生しているみたいでね?そのせいで消防が足止めを食らって来れてないみたいなんだよね。」
ミカの説明で気が付いたが、確かに消防車や消防隊員らしき人々が見当たらない。
「……てことは魔法少女も全員出払ってるのか」
「そうなるね、取り敢えず由紀子さんにはまだ帰らないように連絡しといたからそっちは大丈夫だよ」
母さんは無事か……少し安心した。
だが俺の安堵とは反対に火事はますます勢いを増すばかりで、10階建てのマンションだから背はそれなりに高いもののもう火の手は6階あたりまで来ている。
「それで?」
「ん?」
「勇斗はどうするの?」
ミカの吸い込まれそうな瞳が真っすぐこちらを見る。
恐らくミカは俺に危険を承知して人質を救助するのか、安全を取って傍観するのか、どちらにするのか聞きたいのだろう。
確かにこの前の戦闘を考えればブラックチェンジャーを使えば火の中を突破して人質を救助できるかもしれない。
だがブラックチェンジャーの力を以てしても火の勢いに負けたり、突破したところで人質を無事救出できるとも限らない。
「……今のボクではあのマンションの火を消したり、人質をテレポートさせて救出することはいろいろ制約があって出来ない……でもテレパシーで勇斗を人質のもとまでナビゲートすることはできるよ」
…ミカは救出に向かいたいなら最大限サポートすると言いたいのだろう、後はお前の考え次第だと。
俺はブラックチェンジャーを見る。
正直、前に散々な目にあったからあまり使いたくはない。今回は前回と違って大ごとだから面倒ごとに巻き込まれる可能性も大いにある。
「……変身なら自室から行うのをおすすめするよ。誰かに見られることもないからね」
「わかってるよ」
でも考えるよりも体は先に動いていた。
全速力で家の階段を駆け上がり、自分の部屋に入ると腰にぶら下げていたブラックチェンジャーを手に取った。
「……行くぞ」
俺はブラックチェンジャーを思いっり握りしめて割った。
───
『次回予告!!』
よう主人公の黒井勇斗だ!
なんだかとんでもないことに巻き込まれたけどマジでどうしよう、なんも考えてねぇや
そんなノーテンキな俺の前に強力な敵が立ちはだかる!なんだあのイカれ野郎は!!
次回!『カクレカクレ……ヒカクレ!』
をお楽しみに!
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