第4話 桃江風花という少女
「……と……うと……ゆうと…!」
「んあ……あとごふん……」
「勇斗!!もうお昼だよ!!」
「ほあっ!?学校!!!!」
ミカの透き通る声が耳に突き刺ささり俺、黒井勇斗きる。
バッと電子時計を見ると6月2日土曜日12時30分とディスプレイ表示されていた。
「学校……はないのか……」
「おはよう勇斗。今日はお寝坊さんだね」
俺のベッドに腰を掛けているミカが俺を見てクスクス笑う。
「しょ、しょうがねぇだろ…」
「そうだね、昨日夜の11時に帰ってきたもんね……ふふ」
そう、夢魔を倒した後魔法少女と遭遇した俺は逃げるためにかなりの距離をジャンプで移動した。
するとそちら方面に行ったことのない俺は見事道に迷い、スマホのマップを見ようにも何故かスマホが使えなくなっていたのだ。
帰宅した頃には直ったのだが。
ミカ曰く激しい戦闘を行っていたからスマホが壊れたのではないかと言っていた。
なので今日修理に出しに行く予定にしている。
まぁそんなこんなで俺は昨日連絡も無しに夜遅くに帰り、当たり前だが心配した母さんにこってり叱られ夜の2時に寝た。
そりゃあ起きるのも遅くなる。
「取りあえず起きねぇと……いてて……」
「大丈夫?怪我でもした?奇跡起こして治そうか?」
「なんだその奇跡って」
「う~ん魔法みたいなものかな、世界の法則を少しいじくって病をなんでも治したり欠損した体の部位を治したり出来るよ!神様として活動していた頃は時を止めたり出来たんだけどね、今はそれくらいしか出来ないんだ」
「いや十分凄すぎるだろそれ……でも怪我とかじゃないから多分、これ筋肉痛だと思う」
この筋が痛い感じは間違いなく筋肉痛だ。
久しぶりに運動した後によくこの感覚になるから間違いない。
「あ~魔法少女の力は使用者の身体能力を基礎にして強化するからね。慣れてないうちはそうなるかも」
つまり桁違いの力を与えられると言うより桁違いの倍率で身体能力が高くなるってことなのか
「なるほどな……さっきからすっげぇ腹が減ってるのもそのせいなのか?」
「いや……それは朝どころかお昼まで何も食べてないからじゃないかな」
「………」
ぐぅぅ…と俺の腹が鳴る。
ミカは俺の腹を注視した後もう一度こちらを見るとにっこりと笑った。
「お昼ごはん、出来てるよ」
「……ありがとう」
…相変わらずあざといな。
だがミカは美〝少年〞である。
俺はベッドから降りて昼飯を食うために階段を下りた。
「ありがとうございました~」
俺は元々スクランブル交差点があった芯間町の中心地、芯間ストリートの電気屋に来ていた。
ここは多くのお店が集まっていて賑やかな反面夢魔の出現が一番多いスポットだ。
スマホが壊れているのかどうか分からないが一先ず修理に出した俺は電気屋から退店するとぐっと背筋を伸ばした。
「ん~っはぁ~。しばらくはスマホ使えないけど特に出掛ける予定もないから大丈夫だろ。さてと、折角だしどこか寄って帰るか~」
月初めだから小遣いもあるし少しブラブラして帰ろうと歩道を歩いていると背後からあれ?という声が聞こえる。
「勇斗君?やっぱりそうだ!偶然だね!」
「げっ……桃江……」
「むっ、げって何!そんなに会いたくない相手だったかな?」
声を掛けてきたのは桃江風花だった。
いやまぁ確かに会いたくない相手ではあるんだけど桃江風花が嫌いな訳ではないのでここは一先ず訂正する。
「げっ……こう……そう、月光って言おうとしたんだよ、うん」
「え?そうなの?ならしょうがないか!」
桃江風花が満面の笑みでうんうんと頷く。
自分から言っておいてなんだがそれで良いのか桃江風花。
「なら話は早いね!ねぇ!勇斗君って今暇かな?」
「まぁ、暇だけど…」
「ホント!?じゃあじゃあさ!ちょっとお出掛けに付き合ってよ!」
「は?どこに───」
「そうと決まればしゅっぱーつ!!」
「おい待て桃江!俺はまだ付き合うとは───」
俺の抵抗も虚しく腕を引っ張られた俺はそのまま桃江風花に連行された。
『だから私は……諦めない……!』
『な、なんだこの力は……!ジェネレーションパワーが高まっているのか……!いや、違う!これは……!』
『この力はボクたちの、人間の想いの力!!君が侮った正義の力だ!』
『『いっけえええええええええええ!!プリンセスフラァァァァァァァシュッ!!!!!!』』
『ぐぅわぁぁぁぁぁあああ!!!!』
「うお……すげえ作画」
「プリンセス☆プリンセスかっこいいなあ……!!」
俺たちは映画館で今流行りの【魔法お姫様 プリンセス☆プリンセス】というアニメの映画を見ていた。
この世界での魔法少女は警察や自衛隊などと同じような認識になっているので前の世界では少女や大きなお友達がメインで見ていた魔法少女アニメが大衆受けするジャンルとなっている。
隣に座っている桃江風花も例に漏れず魔法少女ものが大好きである。アニメ好きでもあるから映画にのめり込んでいる。
俺はというと魔法少女ものが好きかと言われるとあまり見ないジャンルなのでイマイチよく分かってなかったのだが作画や声優さんの声の凄みに圧倒されて気が付けば物語はラストスパートに入っていた。
『地球の平和は私たちが守る!』
『だって正義の味方だからね!』
きらっきらの衣装に身を包んだ二人の美少女が決めポーズをすると映画館内が拍手に包まれ、スクリーンはエンドロールを映し出す。
「ふう、良い映画だったなあ」
俺がそう言って立ち上がろうとすると桃江風花がガシッと腕を掴んでくる。
俺が桃江風花の顔をふっと見ると桃江風花はにっこりと微笑んでこう言った。
「エンドロールもちゃんと見ましょうね?」
……マジすか
「いや~!皆可愛かったなぁ…!私もあんな風にバチーンって悪いやつをやっつけたいよ!」
桃江風花が背伸びをしながらそう言う。
いやあなた夢魔倒してるでしょうに
「勇斗君!どうだった?楽しかった?」
「ん?あぁ、楽しかった。ああいうアニメは見ないけど作画が凄かったしストーリーもしっかりしてて楽しめたよ」
「本当!?良かったぁ!勇斗君にはちゃんと見せたかったんだよねぇ、この映画!アニメ好きの仲間だし、イイモノはやっぱり共有しないとね!」
桃江風花が言う通り俺たちはアニメ好きとしてよく共に行動する……いや桃江風花がこっちに来る感じ。
桃江風花という人間は帰りに女友達とカフェによっておしゃべりしてゲーセンのプリクラで写真撮ってウェイウェイ言いながら帰るようなタイプのJKなのだが根っからのアニメオタクで、しかもどんなジャンルも広く深く見るという究極のアニメオタクだ。
ただつるんでいるメンツがメンツなのであまり共有することが出来ず、悶々としていたところ彼女のお母さんである花さんに連れられて俺が桃江家にお邪魔した際、俺の知っているアニメのDVDを見て話題にしたことがあった。
そこからはもう物凄い剣幕でそのアニメのクイズを出されて全問正解するやいなやアニメ好きの同志として仲良くしようということになってしまったんだ。
「確かに良い映画だった。桃江の勧めるアニメは良いものばかりだな」
「……ッ。えへへ!そうでしょ!」
桃江風花が照れたように笑う。
夢魔がいなければ何の変哲もない、ただ明るい普通の女の子。純粋で、真っ直ぐで、明るくて……そんな桃江風花の仲良くしたいという想いを、ただ自分が面倒事に巻き込まれたくないからという理由で受け取らない自分の事を、少しだけ胸が痛くなった。
夕日が町をオレンジ色に染めて、カラスがかぁかぁと鳴き始める。
私は勇斗君にまたねと言って別れると通りを歩きながら今日一日の事を思い出していた。
彼はいつも無愛想…というか突き放すように私と接するけれど割とこうやって遊んでくれる。
遊んでくれる時は全然無愛想なんかじゃないしむしろ一緒に楽しんでくれる。
私はそうして彼と一緒に遊べる時間が好きだった。まだ会ってから半年も経っていないけどこの時間が心地よくて大好きになった。
本当はもっともっと一緒に色んなアニメを見たり、映画を見たり、イベントなんか行ったりして私の好きなものを共有したい。
でも
『緊急連絡、マジカルピンク、至急芯間駅南口の方へ向かえ、繰り返す、至急芯間駅南口の方へ──』
「了解。あーあー、もうちょい余韻に浸っていたかったのに~。ぶ~~!」
そう上手くはいかない。今日だって本当はいつマジカルピンクの私として呼ばれるか分かったものではなかった。だから、最後まで一緒に映画を見られたのだってかなりラッキーだったんだ。
でも助けないといけない人がいる。
私達にしか助けられない人がいる。
だから私は楽しい時間の余韻を捨てると一直線に現場へと向かった。
────
『次回予告!!』
おーっす、主人公の勇斗だぜ。
なんか俺が見ていない内に苦労してんだなー流石は魔法少女!
そういや今回はデート回にしようと画策したらしいが作者があまりにもそっち方面苦手すぎて曖昧な文になったらしいな!恋人くらい作れよ!
次回!!『魔法少女たちの組織』
をお楽しみに!
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