第2話 クラスメートは魔法少女
ジリリ…ジリリ…と控え目に鳴る若干壊れた目覚ましを止めた俺はパチパチと2、3回まばたきすると体を起こして欠伸を1つ漏らした。
カーテンを開けるとまだ外はうっすら明るい程度で太陽は上りきっていない。
まぁそりゃあそうか、まだ朝の5時だもん。
自室のある2階から1階に降り、洗面所で顔をぱしゃぱしゃ洗うとハネた髪を多少解いてなんとなく形にする。
顔をきっちり拭いてその足のままリビングに行くとミカがもうリビングのソファで寛いでいた。
「やぁおはよう勇斗。今日も早いね」
「そういうお前はそもそも寝てないだろうよ」
「アハハ~神は寝ないからね~」
ミカ曰く神は寝ないどころか休憩も必要ないらしい。
でもあまりにも暇すぎる時は意識を切って眠ったような状態になるらしいけど疲れが取れたりするわけでもない、というかそもそも疲れないらしい。
神とやらは凄いなと漠然と思いながら冷蔵庫の500mlのスポーツドリンクを取り出すと半分まで飲み干し、ふぅと息を吐く。
「朝といえど今日は特に暑いらしいから倒れないようにね」
「分かってる。ちょろっとだけだから大丈夫だ」
俺はミカにそう返すと靴を履いて玄関の扉を開ける。
「んじゃ、いってきます」
「ん、いってらっしゃい」
慣れたようなやり取りで俺は玄関から出ていく。
………一応念押しするがミカは美『少年』だ。決して美『少女』ではない。
「はっ…はっはっ…はっ…はっはっ…」
一定のリズムと共に息を吐いて息を吸う。
世の中に大勢いるランニングが苦手な人達は多分、こうした呼吸が出来てないのだろう。
ランニングというやつは呼吸さえキッチリしてしまえば過度に辛くなることはない。
汗は鬱陶しいけどそれもまぁ乙なもんだ。
時間にして20分、今の時点で大体4キロ半走っている。多分まぁまぁ速い、ちょっとした自慢だ。
ここからは折り返しなので急にキツくなる。
折り返しと分かった途端に疲れがどっと来て歩きたくなるのだが、ここを我慢出来るかどうかが割と鍵だ。
そうして気合いを入れて走っていると正面から犬を連れた女性が見えてくる。
女性は俺を見つけるとニコリと笑い、声を掛けてくる。
「おはよう、勇斗君。今日もランニング?精がでるね」
「おはようございます。
俺は柔和な笑みを浮かべるふわふわした雰囲気の女性…
ハナコは尻尾を振ってワフワフとすり寄ってくる。可愛いやつめ。
ちなみにハナコはメスだ。そして花さんはお子さんがいらっしゃって子どもが2人の姉妹なのでパッパは当然家に男1人だ。
なのでこの前花さんにお昼ごはんでも食べないかと誘われて着いていった時は夫の
まさか庭でキャッチボールまでするなんてな……楽しそうだったから良いけど。
花さんとここまで仲が良いのはそんなに大した理由ではない。母さんのパート仲間が花さんなのとランニングで良く出会うから仲良くなっただけの話だ。
というかとある事情によりそれが無かったら恐らく俺は花さんと仲良くなろうとは思わない。
ようは単純に仲が良いというわけで特別な出会いだったとか親戚であるとか、そういうものではないと言うことだ。
俺は一通りハナコを撫で終え、手を離す。
ハナコは悲しそうに俺の手を見つめる、可愛いやつめ。
花さんに別れを告げ、再び走り出した俺は立ち話で十分休憩出来たのかさっきよりいくらか軽快に走っていく。案外、少し休むのも良いのかもしれない。
日が段々昇っていく、今日も1日が始まったのだと実感し汗をかいて気持ちがスッキリしているのかなんだか良いことが起こりそうな気分になる。
家に戻って制服に着替え、ミカの作った目玉焼きを食べて大体の用意を済ませると高校へ向かう。
創作にありがちな徒歩登校だ。
リアルでは高校が歩いていける距離にあるというのは中々ないので大体は自転車か電車なのだが俺はたまたま高校が徒歩の範囲内だった。昨日は別の理由で電車に乗っていたので夢魔のシュポポーに出会ったんだ。
自転車でも良いけど路地を走るとき結構気を付けないといけないからあんまり好きじゃないんだ、自転車。
ラノベみたいに特に幼馴染みなどいるわけではなく、ましてや朝迎えに来てくれる相手も迎えに行く相手もいないので一人で学校に向かう。
正門に立っていた生徒指導の先生に挨拶をして高校に入ると三階の教室に一直線に向かう。
まず席に着くと鞄から教科書類を取り出して机の中に入れると水筒を出して一口飲む。
エアコンがごうごうと鳴る音を聞きながらスマホを開いて朝のネットニュースを見る。
すると昨日の晩と同じ魔法少女が夢魔のシュポポーを倒したというニュースと今朝6時頃に夢魔が発見され、こちらは警察と自衛隊によって処理されたとのニュースだ。
どちらもこの街のニュースだ……なにせ芯間町は日本で一番夢魔が現れる街だからだ。
芯間町は昔の東京で言う渋谷だ。
この言い方に疑問を抱くだろう、この言葉の通り現在日本に東京都は存在しない。
これも世界線が違う影響だ。夢魔は人が多い所に発生する都合上、人が多い都市部に大量発生した。
そしてその被害を最も多く受けた東京の街並みは無惨なまでに破壊され、都そのものが機能しなくなってしまった。
これを受けた政府は一先ず首都を古来、都として機能していた奈良に国の重要機関を移し、北の統制を行うために青森にも簡易的な国の機関を置いた。
ちなみに京都ではなく奈良が選ばれた理由は都に縁があり、かつ人口がそこまで多くないかららしい。奈良県民は怒っても良いと俺は思った。というか怒りな?奈良県民ってちょっと温和過ぎると言うか受け入れすぎだと思うんだけどそう感じるのは俺だけなな?
そして東京都は解体。東京の人々は日本中に散らばり、今では東京があったここら周辺の人口は東京都であった頃の1/100になったとも言われている。
しかし夢魔は人々が日本中に散らばった後でも東京の地に生まれ続け、特に渋谷があったこの芯間町では被害の拡大が問題となっていた。
そんな時、魔法少女達が現れた。この芯間町を中心として日本各地に魔法少女は確認され夢魔を倒す英雄として持て囃された。
そしてそんな魔法少女が初めて確認されたここ芯間町は聖地として認定され、夢魔対策本部もそれにあやかってこの芯間町にある。
お陰でいくつかある元東京の町の中で芯間町の人口が増え、俺的には散らばった意味なくね?とも思うがやはり守ってもらえる存在の近くにいたいのだろう。
「はぁ……こりゃ帰りもまた遭遇するかもなぁ」
まぁしかし魔法少女がいるとはいえこうも毎日夢魔と出会うような生活をしていればため息も出る。
最悪ブラックチェンジャーがあるしどうにかならないこともないがあんなの出会わない方が圧倒的に良い。
そんなこんなで考えているとバタバタとこの教室に向かう足音が聞こえる。
……自慢じゃないが鍛練の過程で相手の気配を探るということを父親に教え込まれたせいで知っている人であれば足音を聞けば大体誰か分かる。
分かるので俺はなるべくスマホに熱中するふりをして今向かってきている存在を考えないようにする。
「おっはよーございまーす!!!あれ!?勇斗君しかいないんだね!おはよう!!勇斗君!!」
「……今日も元気だな…
「うん!!元気だよ!!そういえば今日もお母さんが勇斗君に会ったって言ってたけどまた一人で走ってたの!?!?」
このやかましい挨拶とやかましい話し方の少女は
茶髪に桃のメッシュが入っていて可愛らしくアホ毛がある。目もパッチリで鼻筋が通っていて体も出るとこ出るって感じで同世代と比べると引き締まった体をしている彼女は所謂美少女というやつだ。
その引き締まった見た目の通り桃江風花は運動が得意で意外に勉強もそこそこできる。
そしてもう先程の会話から丸分かりだが今朝のランニングで出会ったふわふわ系お母さんの花さんと息子が欲しそうな女子家庭に一人男の楓さんの間に産まれた子どもこそがこの桃江風花である。
「そうだけど?なんだよ、一人で走ってちゃダメかよ」
「ダ、ダメじゃないよ!ちょっと気になったから聞いただけだよ!」
桃江風花は俺が怒ったと思ったのか慌てたようにそう言った。
怒ったように思ってもらえると助かるからそのように発言したので当然といえば当然だ。
周囲の人間から見れば一般生徒がマドンナ的存在の風花を突き放しているようでなんだこのイキリ男子と思われることだろう。
だがこれには理由があるんだ……かなり重大な理由が……。
「そ、そういえば昨日は大丈夫だった?」
「何が?」
「ほ、ほら。昨日の夢魔だよ!勇斗君の乗ってる電車が襲撃されたでしょ?大丈夫だったかな~って」
桃江風花の言葉に俺は怪訝な目を向ける。
「なんで俺があの電車に乗ってたって知ってんだよ。昨日はたまたま乗ってただけで普段は徒歩登校だぞ。お前も知ってるだろ?」
「あっ………そ、それはその、わ、私も同じ電車に乗ってて、たまたま見かけたんだよ!」
あっ、じゃねぇよ。
そしてお分かりの通りこの同じ電車に乗っていたと言うのは真っ赤な嘘である。
何故分かるかって?それは…
「あ、あっぶな~い……私が魔法少女だってバレるところだった……」
この桃江風花は魔法少女だからである。
風花さんや。独り言で自分が魔法少女って言うの、やめた方がいいよ。
─────
『次回予告!!』
やぁ皆!桃江風花でぇ~す!
ふっふっふ…やはりピンク髪キャラはヒロインレースに颯爽と現れるものなんですよ……!
え?ママの方が可愛いって!?な、な、な、なんだってぇぇぇ!!
それより勇斗君は何やら面倒な事に巻き込まれるみたい?主人公だもんね!!
次回!!『あ!やだ、ものすんごいめんどくさい!!』をお楽しみに!
これは私が早速活躍しそう!
……え?しないの?
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