魔法少女の追加枠に選ばれた!?
@Brosrykt
第1話 シュポポー
春の陽気がまだ残る5月下旬。
随分と温かくなってそろそろ半袖を出さないと、と思いつつもついつい長袖のカッターシャツを着てしまった俺は、帰りの電車から降りて真っ直ぐ改札に向かう。
なんてことの無い日常、平和な日々。
前までだったならばそうだったが今は違っていた。
「で、ででででででんしゃーーーーしゅっぽぽー!!!」
ワケわからん雄叫びと共に電車のガワを被ったような化け物が現れ、ホームは一瞬にして阿鼻叫喚に包まれた。
「何故俺がァ!しゅっぽぽー!!!こんな世の中なんて!しゅっぽぽー!!!うぷ、吐き気が…しゅっぽぽー!!!」
三階建ての家ほどの大きさの化け物は暴れ始め、ホームの屋根を破壊しながら執拗に黄色い線付近を踏み荒らす。
ちょっと前の俺ならば驚いて慌てていただろうがもう日常茶飯事過ぎて逃げるか~くらいの気持ちにしかならない、いやこれは俺がおかしいのか。
奴らは「夢魔」。夢に悪魔の魔でゆうまと呼ぶ。
その性質と未確認生物「UMA」で掛けているらしい。何そのダジャレ…寒くない?
去年の9月位から現れ始め、人の多いところに現れては周りを破壊しまくる迷惑極まりない奴らだ。
どうやら夢魔は人が抱える強い想いが溜まると生まれるようで今日の電車みたいな夢魔はプラットホームでぶちギレる会社員、飛び込み自殺者、飲み会後にお戻しをされた人達の想いが詰まってるらしい。最後きったねぇなおい、そういえばなんか嫌な匂いするんだが。
まぁそれは良いとして夢魔が暴れたら逃げるが吉だ、これに対処する人達もちゃんといるし恐らくもうそろそろ『彼女ら』は来るだろう。
そう言うわけでさっさとに~げよ、とそう思っていた時だった。
「びぇぇぇぇぇん!!おがあざぁぁぁぁぁん!!」
プラットホームからはもうすっかり皆逃げ出したのだが女の子が一人残されていたらしい。
ちらっと後ろを見るとお母さんらしき人は必死に手を伸ばすも人混みに押されて流されていっている。
この場合彼女からすると人ゴミか?………俺のシャレも中々つまらないな。
「びぇぇぇぇぇん!!」
「心ちゃん!!」
………どうしよ、あんなの見せられたら流石に放って置くわけには………
はぁぁぁぁぁぁぁ………よし!覚悟決めた!助けてやるぜ、お嬢ちゃん!!
俺は改札の方から踵を返し、少女の方に向かって駆け出していく。
「しゅっぽぽー!!!プラットホームを走るなしゅぽー!!!」
あ、駅員さんの怨念らしきものもあるのね……いつもお疲れ様です。
でも今はそれを素直に聞くわけにはいかないんだ、と自分に言い訳をしてそのままプラットホームを駆け抜ける。
「しゅぽー!!!走るな!しゅっぽぽー!!!」
ぶちギレた電車の夢魔は俺に向かってパンチを繰り出してくる。
そのパンチが放たれる度にプラットホームの床がボッコボコになっていく……おっかね~!
だがこの夢魔はあまり速くない方なのか攻撃が直接当たることはなく、少女がいるところまでたどり着くと俺はその子を抱き上げる。
「お、お兄ちゃん誰……?」
「それは後で教えるから。今はお母さんのところに連れていくからしっかり掴まっといてくれよ?」
「う、うん……」
パニックとお母さんという言葉の安心とで混乱しながらも少女は俺をしっかり掴んで離さないようにする。
「お口チャックしときなよ!舌噛むぜ!!」
少女が可愛らしく手で口を抑えたのを確認すると俺は一気に駆け出し、改札の方に一直線に駆けていく。
「しゅっぽぽー!!!しゅっぽぽー!!!」
「捕まえられるもんなら捕まえてみな!」
少女を助けて気を良くしたのだろうか、俺はついつい電車の夢魔を煽ってしまう、俺はアホか?アホなのか?
「しゅっぽぽー!!!!!!」
やべ、余計刺激しちゃった。
怒りが頂点に達したのか電車の夢魔は額にある汽車のランプのようなものから光線を放つ。
「うぉぉぉぉお!!!」
俺はな情けない叫び声と共に光線を死ぬ気で避けてなんとか改札の方までたどり着く。
「心ちゃん!!」
「お母さん!!」
俺が少女を降ろすと一直線に母親のもとへ駆けていき、親子はひしっと抱き合う。うむ、尊き景色だ。
こっちは一件落着して、どうやら夢魔の方も『彼女ら』が来たお陰で事は済みそうだ。
「マジカルシャイィィィィン!!」
若い女の子の声が木霊するとラブリーな様相をしたビームが電車の夢魔に当たり、ラブリーな爆発を起こす。
そしてピンク色の長髪をなびかせたその女の子は夢魔に人差し指をビシっと向けた。
「マジカルピンク参上!もう貴方の好きにはさせないよ!!夢魔!!」
そう、この世界で夢魔を対処のは警察でも、自衛隊でも、軍隊でもない。
魔法少女、それが彼女らを形容するに相応しい言葉だった。
魔法少女、それは夢魔に対抗できる唯一の勢力。
彼女らの中身は普通の人間で、夢魔が現れたときに魔法少女となって人々の為に夢魔と戦うと言われている。
そんな魔法少女だが彼女の力は凄まじく、一方的な戦いが展開された。
マジカルピンクと言っていた少女はその可愛らしい姿に似合わないほど大量のラブリーな光線を放ちまくり、接近しては超強力なパンチであっという間に夢魔をダウンさせてしまった。
「これで終わり!!全身全霊全力全開!マジカルパァァァァァァァアンチッ!!!!」
そして恐ろしいほどの全から始まる熟語を連呼した彼女は特大のパンチをお見舞いし、夢魔は断末魔をあげながらハートの粒子となって消えた。最後までラブリーだな。
フィニッシュを見届けた俺含む一般市民達は歓声を挙げ、マジカルピンクを褒め称える。
マジカルピンクはくるりとこちらを振り向くとニコっと笑ってサムズアップをすると思いっきり大地を蹴って空に飛んでいってしまった。
相も変わらず凄まじい身体能力だな、と空を見上げながらボケッとしているとふと後ろから声を掛けられた。
「お兄ちゃん!助けてくれてありがと!!」
「娘を救って頂いて本当にありがとうございます」
俺を呼んでいたのはさっき助けた女の子とその母親だった。
「いやいやそんな、出来ることしただけっスよ。現に夢魔は魔法少女が倒しましたし」
ウソ、照れ隠しだ。ぶっちゃけ褒められて超嬉しいが表に出すのはちょっとどうかと思っていたので魔法少女を引き合いに出して照れ隠ししただけである。
「しかし、あのままでは娘は生きていませんでした。どうか感謝を受け取ってください」
「ありがとー!!」
女の子に感謝させっぱなしも良くないので母親の台詞を聞いた俺は受け取っておきますと言って笑い掛けた。
「何かお礼を……今は何も持ち合わせていないのですが…」
「大丈夫です大丈夫です。お気持ちだけ受け取っておきます。では!」
俺は最大限の爽やかな顔で手を振る。
俺はクールに去るぜ……!
「お兄ちゃんばいばぁーい!!」
「おう!!」
女の子も満面の笑みで手を振ってくれた。
クールに去っても感謝されたことが嬉しかったのか帰路の足取りは軽かった。
唐突な自己紹介だが、俺の名前は
ちょ~っと、いやほ~んの一部を除けば普通の高校生である。
父親は武家、母親は僧の家系だった上に父親は道場を営んでいたので俺も必然的に武術を極める運びとなった。
なんか色々やらされたけど物心ついてからず~っとやっているものは居合術である。
黒影流という中二病発症しそうな名前のウチの流派は居合がメインでその関係上、居合術をこれまでの人生で磨いてきた。
これが他とちょ~っと違う要素。
だいぶ違うだろって?まぁ俺もそう思ってたよ、中学までは。
なんなら周りの習い事とか部活とかとかけ離れすぎてて悩んだ時期もあったくらいだ。
でも今はそんなのどうでも良いくらい明らかに人とは違う特徴を俺は持っている。
自宅の玄関をガチャリと開ける。
普通の一軒家、そう、普通の。
まぁ縁側があるが。
玄関を開けると台所にいた美少年がこちらに気付きパタパタとやってきてこう言った。
「お帰り勇斗!晩御飯もう少しで出来るからね!」
「………ただいま、神様」
俺がそういうと美少年は照れ臭そうに肩をバシバシ叩いてくる。痛い……痛いよ……
「もうやめてよー!今はもうそんな力ないんだからー!」
やだなーと言いながら美少年は台所に戻っていく。
そう、俺は神様と同居している。
………聞こえたかい?俺は神様と同居している。
意味分かんないだろ?俺も分かんない。
「はぁ……手洗うか」
取りあえず手を洗ってうがいをした俺は鞄を片付けるべく、二階の自室に向かった。
神様と同居し始めたなのはほんの数ヵ月前、俺が高校生になったその日。
その時期からだ、夢魔と魔法少女が現れたのは。
まぁ当たり前だ、神様がこの家に来る要因が夢魔と魔法少女だからだ。
神様曰く、俺が高校に上がるまでの世界と今の世界は別の世界線同士だったらしい。
だけど神様がなんらかの手違いで世界線が合体してしまって今の世界線の方が前の世界線よりも優勢だったから夢魔やら魔法少女やらがいる世界になってしまった。
とは言っても前の世界線を知っているのは俺とその親族のみ。
世界線が合体すると本来は同一人物であれば優勢の世界線の自分の人格、記憶が強く反映されて違和感を感じないらしいが何故か俺と親族だけは例外だったらしい。
それを象徴するようにこちらの世界では夢魔や魔法少女は昔からいて、広く認知されている。俺からすれば数ヵ月前に唐突に知った出来事なんだけどね。
まぁ端的にいえば俺は転移者ってやつだ、前の世界線から別の世界線への。
そんでこの家に住んでる神様は管理不足の責任を負わされたことと俺たち転移家族(?)に巻き込んだことへの謝罪をするためにこの家で家事をしている。
当時は本当にびっくりした、色々世界が変になって混乱しているときに神様を名乗る美少年がやってきたものだから母さんも俺もてんてこ舞いだった。
色々諦めた母さんは快く神様を迎え、今では家事全般をこなす神様をものすごく可愛がっている。
ちなみに今父さんはいない。
離婚だとかそんなんじゃないけど俺が中三の時に「大妖怪の退治に行ってくる」と刀を持って家を出ていってしまってから帰ってきてない。当たり前だけど母さんはめっちゃ怒ってた。
まぁでも父さんはあまりお金を使わない人だったからお金には困っていないので貧乏と言うわけではない。
「勇斗~!ご飯できたよ~!」
「はいはーい、今行くー!」
神様の声が階段の下から聞こえてくる。
振り返りもこれくらいにして晩飯食べるか。
今日は何かな~?
「いやぁ~ミカくんのご飯は本当に美味しいわね~!」
「そう言って頂けるとこちらも作りがいがあります由紀子さん」
目の前で神様……ミカの食事に舌鼓を打っているのが俺の母、
薙刀の扱いが一流の武闘家だが普段はのほほんとしていてどちらかといえば大人しい人だ。
神様にミカと名前を付けたのはこの母であり神様も気に入ったため今はこの名前で通している。
「そういえば勇斗」
「何?」
「今日勇斗が通学に使ってる駅で夢魔出たんでしょ?確か…シュポポーだったかしら、大丈夫だったの?」
あの夢魔の名前それになったのか……適当だな。
ちなみに夢魔の名前は政府の機関が考えている。シュポポーで分かると思うが大体適当だ。
「大丈夫だったよ、マジカルピンクが飛んできてぶっ飛ばしたからよ」
俺がそういうと神さ……ミカは感心したように頷く。
「へぇ…彼女が。大型の夢魔なのにやるね」
「まぁ、トロかったからじゃないのか?」
「ふぅ~ん」
ミカは納得したのかしていないのかイマイチ分かりにくい声を出す。
そんなミカを尻目に夕飯を平らげた俺は食器を洗面台に持っていって水に浸けるとリビングから庭に出る。
「今日もタオルいる?」
「あ~まぁ暑いし頼む」
「りょうか~い」
ミカとそんな短いやり取りをすると俺は縁側で靴を履いて引戸を閉めた。
「ふっ……ふっ……」
短い息と共に木刀を振り抜く。
日課の鍛練だ。中学生までは隣に父さんがいて毎日毎日欠かすことなくこの素振りを行っていた。
父さんが家から出ていってその義務はなくなったものの習慣は中々治らないもので今もこうして続けている。
最近になってこの鍛練が必要になったのもあって俺は前にも増して鍛練に精を出していた。
「勇斗~もう一時間は振ってるよ?休憩したら?」
ガララと引戸を開けたミカが両手にスポーツドリンクとタオルを持ってそう声をかけてくる。
「……そうだな、少し休むよ」
俺がそう言って縁側に座るとミカがタオルを渡してくれる。
汗を拭い、スポーツドリンクを喉に流し込むとふぅと息を吐く。
「今日も使わなかったんだね、ブラックチェンジャー」
ミカはそう言って俺の腰のベルト帯に掛けてある黒い液体の入った小さな試験管を指差した。
「まぁ使うような場面でもなかったしな、実際魔法少女は来たし」
俺がそう言うとミカはうんうんと頷く。
「まぁコレはあの子達と違って君の自衛用に渡したものだからね、君がそう判断したなら問題ないよ」
そう、この試験管は何を隠そうこのミカから受け取ったものだ。
名前はブラックチェンジャー。
この試験管を手で割ると中の液体が肥大化して俺に纏わりつき、コスチュームになる。
要は昼間のマジカルピンクと同じ状態になることが出来るんだが……
「これ使うとスカートは袴になってるからまぁ良いとして上半身の格好が男向けにしてくれてるとはいえフリフリし過ぎなんだよなぁ…」
そう、元は魔法少女が使う物のようでマシになっているとはいえ男が使うのは少し躊躇うような衣装なんだ。
それに変身してもマジカルピンクなんかと比べてそこまで強くないらしいので命の危険を感じた時以外は使わないようにしている。
「たはは…あの衣装は確かに男の子には厳しいかもね……」
ミカもこの通り、それはそうかと頷いている。
俺は、まぁあることにはありがたいけどなと返すとスポーツドリンクを飲み干して立ち上がり、庭にある倉庫の扉を開けて中から1本の刀を取り出す。
そして同じく倉庫から藁を取り出すとそれを土の上に立てて俺は藁の目の前に立って目を閉じる。
数秒、いや数分かもしれない。
静かな時間がしばし流れ、呼吸が落ち着いたところでミカがパン!と手を叩く。
その音が聞こえた瞬間、俺は刀身と鞘を同時に動かして最短で抜刀し、切り上げる形で藁目掛けてその刃を振るう。
そして藁を刀身が過ぎ去った後に刀の切っ先をある程度の高さでピタリと止めると藁は左下から右上にかけて斬れて上半分がずずずと落ちていく。
「相も変わらず凄まじい速さだね~」
ミカはパチパチと拍手をするが毎日のことなのでスルーしておく。
俺がブラックチェンジャーを使わない理由はコレもある。
昔から鍛練を受けていたお陰で俺の身体能力は割と高い方だ。
だからまぁ、夢魔と出会っても戦おうとしなければ危険に陥る事がないので普段はブラックチェンジャーを使わない。魔法少女もすぐに来るしね。
「でもやっぱり勿体ないなぁ。これなら魔法少女の仲間入りって名目を我慢するだけでものすごい活躍出来そうなのに」
ミカが困り顔をしてそう言う。
いや、活躍するのは良いけどそれってあのコスチュームを大衆に晒すってことよ?
「別に目立ちたくて鍛練してるんじゃないんだから良いよ別に」
俺はミカにそう言うと汗を流すために風呂場に向かう。
その後は特に何をするでもなく、多少疲れた体に身を任せて自室で眠りについた。
───────
『次回予告!!』
やぁやぁ初めまして皆!主人公の黒井勇斗だぜ!
いやぁそれにしても魔法少女ってやつは空も飛んで何でもありなのか?
それにしても魔法少女って誰なんだろうな!え?同じクラス?なんなら隣の席!?
次回!第二話『クラスメートは魔法少女』
をお楽しみに!
ご都合展開だなぁ!作者ァ!!
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