第7話 そういう契約じゃない!

「で、どうするんだ?」

「サクラ、どうするって? 何を?」

「ソルト、お前は今何をしたのか理解しているのか?」

「あ~家族纏めて従属させちゃったこと?」

「まあ、それもだが……相手は龍だぞ。それを分かっているのか?」

「それを俺に言われてもなぁ~」

『すみません。私がちゃんと止めていれば……』

『ルーの責任じゃないから、気にしないで』

『でも……』

『それより、今の……この場をなんとかしないとね』

『はい。分かりました』

 ノアの両親であるシルヴァとブランカを思わず従属させたことで、サクラに咎められたソルトがルーと会話をしたことで、なんとか気を取り直す。


「サクラ、ソルトもわざとやった訳じゃないんだし、そのくらいにしておきなさい」

「エリス、そうは言うがな。ブランカはいいさ。年増とは言え、一応女なんだしな。でも、シルヴァはダメだろうが!」

「「「「「え?」」」」」

 サクラの発言にブランカがピクッとなり、他の皆はその内容に驚く。だが、一番驚いたのはソルトとシルヴァの二人だろう。ブランカが少し頬をピクピクとさせていたのはノアだけが気付いていた。

「えっと……サクラは何を言っているのかな?」

「何って、従属させたのはそういうことなんだろう?」

「だから、それはなの?」

「分からない奴だな~だから、『従属』させたのは『婚約』ってことだろうが!」

「え? そうなの? エリス、その辺はどうなの?」

 サクラに説明を求めたソルトだが、余計に訳が分からなくなったソルトがエリスに説明を求める。

「私だって、そんなことは知らないわよ。でも、『従属』させるのは『従魔』としての契約で、『婚約』にはならないと思うけど」

「そ、そんな訳ないだろ! 『従属』した、されたってことは一生面倒を見るって契約したのも同然なんだから、それは『婚約』と同義だろうが!」

「同義って言われてもね~それじゃ、ソルトはシルヴァさんとそういうことになるの?」

「え~それは勘弁だよ」

「俺もだ!」

 サクラが『婚約と同義』と言ったことでエリスが、ソルトとシルヴァの関係を認めるのかと聞くと当人達がそれはイヤだと認めない。

「それはそれで、特殊な層にはウケるんだけどね。私はソルトにはノーマルでいて欲しいかな」

「私もそうよ」

「ソルトさんは特殊なんですか?」

「私の父親と……その……するのか?」

 そして、それに呼応するようにレイが自分の意見を言うと、エリスがそれに同意し、リリスがソルトに意味不明な質問をして、ノアもまた、ソルトに確認する。


「ほら、サクラが変なこと言うから、皆が混乱しているよ」

「ぐっ……でもだな」

「お嬢さん、深く考えすぎよ。私達はソルト君と単に『従魔契約』を交わしただけだから。そりゃ、契約を結んだ同士でそういったことになった人達がいるのも確かだけどね」

 ブランカの説明にソルトとシルヴァがホッと胸をなで下ろす。しかし、それでも納得出来ないのかサクラがブランカに食い下がる。

「なら「だから、慌てないの」……しかし……」

 ブランカがサクラの目をジッと見つめる。


「要は何を言いたいのかというとね。『従魔契約』は『婚約』と同義ではないということ。それと、『従属』されているからといって、必ずしも契約者と一緒になる必要も、一緒にいる必要もないということよ」

「くっ……これでやっと伴侶が得られると思ったのに……」

「「「え?」」」

 サクラの発言に何人かが反応する。

「サクラ。一つ聞いていいかな?」

「レイか。なんだ?」

「サクラって、カスミとコスモのお母さんだよね?」

「ああ、そうだ」

「なら、カスミとコスモのお父さんは?」

「さあな。それがどうした?」

「それがどうしたって、サクラの旦那さんでしょ?」

「ん? 何を言ってるんだ? 私に夫がいたことなどないぞ」

「え? じゃあ、カスミとコスモは行きずりの関係で……あいたっ」

「レイ、しつこいわよ」

 レイがサクラに突っ込んだ質問を続けていたのにエリスが容赦なくレイの頭にゲンコツを落とす。


「だって、気になるじゃない。エリスは気にならないの?」

「気にはなるけど、聞いちゃいけないことだってあるでしょって言ってるの」

「あ~私のことなら、気にしなくてもいいぞ。それにカスミとコスモは私の姉の子だからな」

「「「「「はい?」」」」」

 サクラの言葉にカスミとコスモも皆と一緒に驚くが、ソルトだけは今更という顔をしていた。それに気付いたゴルドがそっと話しかける。

「ソルトは、最初から知っていたのか?」

「うん。まあ、鑑定したからね」

「そうか。なら、驚かないのも納得だな」

 そして、そんな二人の会話を聞いていたレイがまた騒ぐ。

「え~ソルトだけ知っているなんて、ズルい!」

「ズルくはないでしょ。それぞれの事情なんだし」

「もう、分かったわよ。それで、結局さっきの騒動は婚期を焦ったサクラの暴発ってことでよかったのかな?」

「まあ、色んな勘違いはあったけど、概ねその通りね」

 レイがこれまでのことを軽く纏めて、エリスがそれを肯定する。

 そして、『暴発』と言われたサクラが珍しく照れている。

 そして、母だと思っていたサクラが実は『叔母』だと告白されたカスミとコスモがしょげている。


「どうした? 何をしょげているんだ?」

「え? お母……ん~叔母さん?」

「ふっ、何を言ってるんだ。今まで通り『お母さん』でいいだろ。事実を知ったからと言って、今までの関係が変わる訳でもないからな」

「「……」」

「どうした?」

「いや、俺達のせいで、その母さんの婚期が遅れたのかと思うと……その……な?」

「うん、ごめんなさい」

「ごめんなさい!」

 サクラの呼び方に悩んでいたコスモに声を掛け、自分をなんとか落ち着かせようとしていたサクラが、今まで通りと言われたことでコスモも安心するが、サクラの婚期を遅らせたのが自分達だと思い、サクラに謝る。


 二人に謝られて、また少しだけ顔が紅潮するサクラだが、このままでは話が進まないと自ら話題を振ることにした。


「なあ、シルヴァとブランカの二人はこれから、どうするんだ?」

「そうだな、どうするかな」

 シルヴァはそう言って、ノアの方をチラリと様子を見る。ノアは、先程の騒動のことなど何もなかったかのようにソルトのことをジッと見ている。

「ふふふ、あなたも娘の恋の行方が気になるみたいね。そういうことだから、お邪魔じゃなければ私達もしばらくは一緒にいさせてもらってもいいかしら?」

 ブランカがそう言って皆を見渡すと、皆それぞれに頷き反対する者はいないようだ。

「それじゃ、しばらくの間はおねがいね」

「うん、よろしく。おば「おば?」……ブランカ?」

「うん、よろしくね」

 ソルトがよからぬ事を口にしようとしたところで、ブランカに咎められ言い直したことで、機嫌をよくしたブランカも挨拶を返す。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 魔族領のとある酒場にて、一人の魔族が酒を飲んでいた。

「さて、今頃はあの『魔の森』で魔物が大量発生しているころだろう。近くに街があったはずだが、生き残るのは無理だろうな。これも仕事なんでな。恨まないでくれよ」

 そう呟くとグラスに残っていた酒を一気に飲み干す。

「隣、よろしいですか?」

 話しかけてきた男には見覚えがあった。この魔族に以前、仕事を依頼した男だ。

「アンタか。残りの金を持ってきたのか。以外と律儀だな。中々現れないから、こっちから取りに行こうかと思っていたところだ」

 しかし、男はフルフルと首を横に振り、魔族の横のストールに腰を下ろす。

「残りどころか、失敗です。まだ、あの街は健在ですし『魔の森』の騒動も収まっています」

「は? 嘘だろ。そんな筈はないだろ。何かの間違いじゃないのか?」

「私も安くはない金銭を払ったのですから、期待していたんですがね。結果はお伝えした通りです。まあ、前払いした金銭は準備金も含まれていますので、返せとはいいませんがね……」

「何を言いたい?」

「そうですね。次の仕事を頼みたいと思うのですが……この位の金額で」

「随分と安いな」

 男が指を使って提示してきた金額に魔族が顔を顰める。

「まあ、前回の結果を踏まえて、前払いの金額としては妥当かと思いますよ。その分、成功した暁には、この倍どころか三倍、四倍の金額を用意するつもりですよ」

「はぁ~まずは失敗したことを私が確認してからだな。一週間以内に調べて来るから、残金を用意しておくんだな」

「いいでしょう。分かりましたよ。では、ご報告をお待ちしております」

 男がそう言って、ストールから降り立ち、酒場から出て行く。

「ふん! 私が失敗などするものか! おい、お替わりだ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る