第8話 やって来たのは招かれざる客

「ねえ、もういいんでしょ。龍の親子がソルトの従魔になったってことで。だから、ご飯にしてよ。お腹減っちゃった」

「レイ、そんな単純なことでもないんだけどね」

「大変なのはソルトだけで、私から見たら、それくらいの単純なことなの。いいから、ご飯にしよう」

 レイに言われ既に日が暮れかかっているのに気付き、ソルトが竈と料理をするためのテーブルを作り、食材を無限倉庫から取り出すと後はエリスとリリスに任せる。


「じゃあ、出来るまで俺は家を用意するか」

 そう言ってソルトが家を建てていく。そしてそれをシルヴァ達が物珍しそうに見ている

「ねえ、当然、私達の家もあるのよね」

「うん、あるよ。はい」

 ブランカの問いに答えるようにソルトが一軒の家を用意する。

「へぇ~いいわね。でも、他のと一緒か~」

「ふふふ、いいじゃないか。なあ、ブ、ブランカよ。久々に人間の姿になったんだし、その久々にどうだ?」

「あなた! こんなところで何を言うのよ、もう……後で……ね」

「ダメだからね」

 妙なことを言い出したシルヴァとブランカの二人にソルトがダメだとハッキリ告げる。

「「え?」」

「『え』じゃないよ。当たり前でしょ。他の人もいるのに何を考えているのかな」

「いいじゃないか。静かにするから」

「そうよ、少しくらいいいじゃない」

「ダメ! 絶対にダメ! 少しの間くらいガマンしなさい!」

「「え~そんなぁ~」」

 中々ウンと言わない二人に呆れながらもノアに一緒にこの家で寝るように言う。

「ノアも一緒にこの家ね」

「え? どうして? 私はソルトと一緒がいいのに」

「それもダメだから。ちゃんと二人を見張ってね。シルヴァ達も娘がいるんだから、ガマンしてね」

「鬼だ! 鬼がここにいる!」

「そうよ! ノア、止めさなさい! こんな男!」

「イヤよ。だけど、そもそもお父さん達は何をするつもりなの?」

 純粋な質問にシルヴァとブランカの目が泳ぐ。

「それは……だな……」

「う~とてもじゃないけど、私の口からは言えないわ。ゴメンね」

 ブランカにそう言って断られたノアは誰か他に教えてくれないだろうかと回りを見渡すと、ゴルドは下を向き、視線を合わせないようにし、ショコラとコスモは「なんのことだろう」と首を傾げている。サクラとカスミは恥ずかしそうにもじもじしていて答えてくれそうにはない。そしてレイが何かウズウズした様子でノアをジッと見ている。

 でも、そんな様子のレイに何か危険なものを感じたのか、ノアはそれを無視してソルトを見る。

 それに気付いたソルトが嘆息しノアに向かって「今は知らない方がいい」とだけ言うとレイが溜まらずといった感じで大声を出す。

「あ~そういう誤魔化しはダメなんだよ」

「誤魔化しって……じゃあ、レイは答えを教えるつもりなの?」

「当然! だって、知りたいのなら教えてあげるのが優しさでしょ!」

 それを聞いたソルトがレイの目を見て話し出す。

「もし、レイがノアの立場で、レイの両親がそういうことをする予定だと聞かされたらどう思う?」

「もちろん、そんなのイヤに決まっているじゃない。バカなのソルトは……あ!」

「レイはどっちがバカなことをしようとしているのか分かったみたいだね。じゃ、そういうことだから、レイからちゃんと説明してやってね」

「え、ちょっと待ってよ。そんなこと言われたら話せなくなるじゃないの! どうすんのよ!」

「さあ?」

「『さあ?』って、ソルトのバカ!」

「バカで結構。ほら、ノアが待っているよ」

 ソルトが言うようにノアはレイが話すのを今か今かと期待した目で待っている。

「ソルト~」

「頑張って!」

 ソルトに突き放され、期待するノアの前に行くと「ごめんなさい」と頭を下げる。

「え? どうして……」

「ごめん。やっぱり話せない。ごめんね」

「そんな~」

「はいはい、いいからどいて。レイ達も準備を手伝って」

 ノアに謝罪して話を誤魔化しているとエリスから夕飯の準備が出来たからと手伝いを頼まれたことでレイが「ほっ」と胸をなで下ろし、夕食の準備を手伝う。


 なんだかんだで騒がしくも夕食の準備を終え、夕食を食べ終わると、それぞれに宛がわれた家へと入っていく。そして、シルヴァにソルトが「するなよ」と声を掛けるとシルヴァが短く「するか!」と返事をして家に入り、その後をノアが少し不安そうに家に入る。


 翌朝、特に何もなく朝を迎えることが出来たソルトが朝の身支度を済ませると既に朝食の準備を終えていたエリスに声を掛ける。

「おはよう、エリス」

「あら、ソルト。おはよう。珍しく早いわね」

「そうかな。まあ、危惧していたことも起きなかったみたいだし、ゆっくり眠れたからじゃない」

「そうなのね。でも、あっちはそうでもないみたいよ」

「あっち?」

 エリスが指す方向を見るとシルヴァ、ブランカ、ノアの三人が目の下に隈を作って眠たそうにしている。

「ソルト、どういうことだと思う?」

「はぁ~そこまでしなくてもいいのに。なぜガマン出来ないかな。エリス、俺の考えはこうだよ」

 そう言って、ソルトが話す内容はこうだった。

 ノアが寝静まるのを確認したシルヴァとブランカがことに及ぼうとすると、その物音でノアが目を覚ます。そして、中止されたシルヴァとブランカがまた、ノアが寝静まるのを待ち、寝静まると同時にことを始めようとすると、またそれに気付いたノアが目を覚ますというのを延々と朝まで続けていたんだろうということだった。

「呆れた……」

 エリスがソルトからの推論を聞いて呆れ、一緒に聞いていたシルヴァ達も、それが正解とばかりに顔を赤くして俯く。

 やがて、皆が起きて朝食を済ませ、家を片付けようとしていたところでシルヴァが身構える。

「来るぞ」

 その一言で皆が臨戦態勢をとる。


 そして、ソルト達が囲む中央に誰かが転移してくる。


「ここか。確かに黒龍はいないな。それに用意したあの棒もない。ん?」

 転移してきた場所で、その人物はが用意した黒龍に『魔素注入棒』がないことを確認した後に自分に向けられている視線に気付く。そして、その中の女性が自分を指差し叫ぶ。

「お前は……私を唆した魔族だな!」

「はて? 私はお前に会ったことはないと思うが」

「忘れたとは言わせない! 私はお前に唆された黒龍だ!」

「ほう、あの黒龍か。それで私をどうすると言うのだ?」

「もちろん、こうする!」

 ノアが魔族と言った女性に殴りかかるが、魔族の女性はすっと身を躱すと「いきなりだな」と言う。

「だが、私は捕まらん。じゃあな……ん?」

「どうした? 逃げないのか?」

「バカな! なぜだ、なぜ転移出来ない……」

 魔族の女は恐らく転移魔法を使って逃げようとしたらしいが、出来ないようだ。そして、それに対しシルヴァが自慢気に話し出し、牙を剥き出しにして魔族の女に迫る。

「ふふふ、何を驚いている。魔族の転移魔法を抑制するくらい私達にとっては簡単なことだ。じゃあ、私達の娘を騙した罪を償ってもらおうか」

「ま、待て! 私は依頼されただけだ! だから、早まって私を殺すと何も分からないぞ」

「あら? それって、コレの飼い主のことかしら?」

 ブランカが小さな魔物を摘まんで魔族の女に見せる。

「え?」

「あら、その様子だと気付いてなかったみたいね。ずっと、あなたのことを監視していたみたいよ、この魔物を使ってね」

「アイツ~」

「だから、もうあなたが話さなくても別に構わないのよ。お分かり?」

「もう、その辺にして上げたら。君も無駄に死にたくはないでしょ」

 ソルトがそう言って、魔族の女に近寄ると魔族の女はソルトに向かって激昂する。

「ふん! たかだかヒトの分際で私に情けを掛けたつもりか! お前らヒトは私達の種族に対して何をしたのか忘れたのか! 私は絶対にお前達のことは許さないからな! そんあヒトに情けを掛けられるくらいなら、ひと思いにやってもらった方がいい! さあ、とっとと殺れ!」

 そう魔族の女に言われたシルヴァがどうするの? と言いたげにソルトの方を見る。

 そのソルトはと言うと、脳内会議の真っ最中だった。

『ルー、どういうこと?』

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