第5話 どう見ても裸族です

 皆の念話をバージョンアップし終わり、ノアの装備の拡充と戦闘訓練を行い、何故か増えた土地を整備して増えた住人の家を用意し、木工や鍛冶などの職業を持つ人の為にと、専用の設備を作る。

 そんなことをしている内に約束の一ヶ月が過ぎ、魔族領へと出掛ける日がやってきた。


「じゃあ、行ってくるね。皆も注意してね」

「はいはい。分かりました。もう、何回目よ。いいから、早く行きなさいよ。ゴルドさんも待たせているんでしょ。ほら、エリス。さっさと連れて行ってよ。もう、キリがないったら」

「ティア?」

「ソルト、いい加減しつこいから。もう、ティアのお腹が心配なのは分かるけど、あなたはお腹の子の父親でもなんでもないでしょ。ほら、ゴルドも待っているんだからさ」

「でも……」

「でもじゃないの! そんなに子供が欲しければ私がいくらでも産んであげるから。ほら、行くわよ」

「「「エリスってば、大胆!」」」

「え? 私、何か言った?」

「「「うん」」」

「大胆」と皆に言われ、エリスがソルトに言った言葉を反芻してみる。

「あ……」

 すると、エリスの顔が途端に真っ赤になり、ソルトに「忘れて! いいから忘れて!」と懇願し、サクラ達の後ろへと隠れてしまう。


「なんのこと?」

 言われたソルトは何も分かっていないが、いいタイミングだとサクラがソルトの腕を引っ張り屋敷から出る。すると、さっきのエリスのセリフに呆然としていたリリスやレイも再起動し、ティアに後のことを頼むとサクラ達を追いかけ、屋敷を出る。


「やっと行ったわね。もう、心配してくれるのは有り難いんだけどね~」

「まるでティアの旦那さんみたいだったね」

「冗談でも止めてくれよ~ソルト君が相手なら、俺は勝てないじゃん」

「あらワーグ、私を信用してないの?」

「信用はしてるさ。でも、ソルト君相手に勝てるところがないから、不安なんだよ」

「バカね。勝つ必要なんてないでしょ。あなたは私の旦那様。それで十分でしょ?」

「そ、そうか。俺はティアの旦那様だもんな。うん、そうだよ。ソルト君にはなれないティアの旦那は俺一人だ!」

「ふふふ。単純なんだから」


「遅い!」

 街の門の所で待ち合わせしていたゴルドが言う。

「でもさ、ここで待ち合わせしてなくてもさ、ゴルドが屋敷に来てから、ソルトの転移でノアがいたところまで行けばよかったんじゃ?」

「「「……」」」

「え、どうしたの? 私何か変なこと言った?」

「レイ、遅いよ。なんでもっと早く言わない!」

「そうよ、もうここまで来たら、戻るのも面倒だし」

「そうだよな、俺が屋敷に行けば……」

 レイが不意に言ったことに「その手があったか」とソルトを始め、数人が忘れていたことに気付く。

「もしかして、誰も気付かなかったの?」

「「「……」」」

「ぷっ。へぇ~いつも私をなんだかんだと小馬鹿にしているソルトまで気付かなかったんだ~へぇ~ふ~ん」

「な、なんだよ。たまたまだろ。いいから、行くぞ」

「ま、いいけどね」

 門を出てからも「なんで気付かなかった」と悔いている面々を余所にレイだけがご機嫌な様子でボードを進ませる。


「ソルト、どっか人目に付かないところで転移しましょう」

「でも、折角ここまで来たんだし、リリスのお母さんのお墓までは、このままで行こうよ。森の中の様子も見ておきたいし」

「もう、そんなこと言われたら反対しづらいじゃない」


 やがて、リリスとショコラの母親の墓標へと辿り着き、墓前で手を組み挨拶を済ませるとノアと出会った場所へと転移するためにソルトが皆に自分の体に捕まるようにと声を掛ける。

「よ~し、捕まって」

「は~い」

 エリスが何時ものようにソルトに正面から抱き着こうとしたところで、ドンと突き飛ばされる。

「何するの!」

「ここは私の場所。あなたは余ったところでガマンしなさい」

 ノアがエリスにそう言うと、それを見ていたレイがソルトの後ろに回る。

「バカだね。欲張らずに後ろに回ればいいのに」

「そうだな」

 そう言われると同時に今度はレイが突き飛ばされる。

「いった~何するのよ!」

「何って、前がノアなら、後ろは私の場所だろ」

 サクラは冷淡な口調でレイにそう告げる。

「もういい。その場所は譲ってあげるわよ」

 レイはそう言って、側面に回るとリリスがいて、しょうがないと反対に回るとシーナがいた。

「え~じゃ、どこに抱き着けばいいのよ!」

「別に抱き着かなくても俺達と同じ様に捕まっていればいいだろ。ほら、ここに捕まればいい」

 ゴルドがそう言って、四人の女性に抱き着かれていて密着状態だが、少しだけ空いている隙間に入れるようにとレイに言う。

「もう、なんで私が!」

「つべこべ言うな。ほら、エリスもぶつくさ言いながらもちゃんと捕まっているじゃないか。ソルト、準備出来たぞ」

「分かった。じゃあ、行くよ『転移』」


 ソルトが言葉を発すると同時にソルト達の体が消え、転移されたことを示す。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「確か、娘の気配が消えたのはこの辺りだな」

「そうね。この辺ね。じゃあ、アソコに下りましょうか」

「ああ、そうしよう」


 番らしい龍がノアがいた場所へと降り立つと、すぐに人化スキルを使う。

『パァ~』と光が放たれたと思うと、その光が消えると同時に全裸の男女が現れる。

 男の方は、長身で長い銀髪に精悍な顔に鍛えられた肉体を恥ずかしげもなくさらしている。

 女の方は、男より頭一つ小さいが、腰まで伸ばした白髪に豊かな双丘にくびれた腰、そしてほどよい大きさの臀部を誇らしげに隠しもせずに立っている。


「なあ、いつまでもこうしているつもりだ? そろそろ、服を着た方だいいと思うんだが?」

「そうね。サービスのつもりだったけど、誰もいないものね」

 そう言って、それぞれが自分の服をインベントリから出そうとしていると、何かが転移してくる気配を読み取った男が、妻である女を庇い、前に出ると「気を付けろ。何かが転移してくる!」と声を掛け、片膝立ちで構える。


 そして、『シュン』と音がすると同時にソルト達が転移してくる。

「着いた! ほら、離れて、離れて……って、え?」

「着いた~え?」

「どうしたの? え?」

「なんだ、どうした? は?」

 ソルト達が目にしたのは、空き地で全裸になっている男女の二人で、どことなく雰囲気が誰かに似ていると思ったが、どうしても均整の取れた裸身に目が行ってしまう。

「ソルト! どこ見てるの!」

「そういうレイこそ」


 どうも裸に目が行くのはソルトだけじゃなかったようだが、とにかくこのままじゃマズいと思い、なんとかソルトが目の前の裸族の二人に声を掛ける。


「あの、すみません。見たところ、裸族のようですが、とりあえず、隠してもらえないでしょうか?」

「「は?」」

「だから、裸族というのは理解出来ますが、俺達には目の毒なので何かで隠してもらえないかと……」

「誰が、裸族だ!」

「そうよ、こう見えても私達は立派な……裸族ね」

「そうだ! 俺達は立派な裸族だ! え?」

「だって、この格好じゃあね」

 ソルトが二人の反応にもしかしてと思い、密かに鑑定してみると、その結果に思わず天を見上げる。

 その間にエリス達から毛布を借りた裸族の二人がなんとか着替えを終えて、ソルト達の前に出てくる。

「済まなかったな」

 そう言って、男がエリスへ毛布を返す。


「ん? 君は……」

 男がソルトに気付き、ソルトをジッと見る。上から下まで絡みつくように見ると「面白い」と呟く。

「あなた。どうしました? あら、あなたは……」

 今度は女がノアをジッと見る。

「ねえ、どういうことか説明してもらえる?」

「「はい?」」

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