第4話 その手は通用しない
「疲れたぁ~」
屏作りを終えたレイが玄関から入ってくるなり、リビングのソファにドカッと座ってもらしていると、ショコラとコスモもソファに座りティアから飲み物を受け取る。
「お疲れ様。大変だったでしょ、はい」
「ありがとうございます」
「ありがたい」
「ちょっと、ティア! 私には?」
レイがティアに不満を漏らすとティアはすんとした顔で話す。
「私はちゃんと働いた人を労っているだけなので、欲しいのなら自分でどうぞ」
「え~私だってちゃんとしたってば!」
レイがそう言うのを「へ~」と黙って見ているショコラとコスモを見てティアも納得する。
「ほら、やっぱり。ちゃんと働かないとソルトに言い付けられちゃうよ。まあ、その方が面白いかもしれないけどね」
「……ちゃんとしたもん!」
そう言ってレイが頬を膨らませるが、見せる相手がショコラとコスモじゃ相手が違うというもので、ティアモ呆れて笑うしかない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ソルト! 聞いてよ!」
そう言って、何時ものようにソルトの部屋の扉をノックもせずに開けるレイに気付いたソルトと目が合う。
「レイ、ノックはどうした?」
「え? したつもりだったけど? そんなことより、聞いてよ! 私だって屏作り頑張ったのにショコラとコスモより、働いてないって言われたのよ! どう思う?」
「どう思うって、その通りなんだろう?」
「非道い! ソルトまで!」
「それで、実際に作った割合は?」
「え?」
「だから、ショコラとコスモの三人で作業したんでしょ? だから、その屏を作ったのなら全体の十に対して、どの位の割合をレイが作業したの?」
「割合?」
「そう、割合。頑張って作ったっていうなら、三割は超えたの?」
「え~と、どうかな? ほら、私って土魔法が得意じゃないしさ。ねえ、ソルトもそんなことを気にしてたら将来ハゲちゃうぞ!」
「ハゲないわ! ってか、ティアの言うとおりってことじゃないか」
「非道い! ソルトまで! あ、そうだ。それよりさ、ほら、例のを教えてよ。出来たんでしょ?」
「例の?」
「そうよ、『着信拒否』よ。ほら、早く早く!」
「はぁ~分かったよ。じゃ、背中をこっちに向けて」
「背中? 分かったわ。はい、これでいい?」
ソルトの言うようにその場でくるっと回転しレイはソルトに背中を向けるとソルトがレイの背中に右手をそっと添える。
「よし、じゃあ行くぞ『ルーお願いね』」
『分かりました。『念話』バージョンアップ! はい、出来ました』
「『ありがと』レイ、終わったよ」
「へ? もう? じゃ、ちょっと試させてよ」
そう言って、レイがニヤリとする。それを見たソルトはこの前の意趣返しだなと考える。
『ルー、着信拒否を無効に出来るのはある?』
『スキルとしてはありませんが……』
『が?』
『私には無駄です。エヘン!』
『ふふふ、分かった。じゃ、ちょっとイタズラに付き合ってよ』
『イタズラですか?』
『そう。たまにはいいでしょ』
『はい。面白そうですね』
「ちょっと、ソルト! 聞いてるの?」
「ああ、分かった。じゃあ、念話を送るぞ」
「ええ、いつでもいいわよ」
『レイ!』
「あ! 来た! へぇ、こうなるんだ。へぇ~じゃこれを『拒否』と……あれ?」
『どうした?』
「拒否出来ない! なんでよ! この! この!」
レイが何度も『拒否』を選択しているのだろう。少し顔が赤くなり始めている。
「もう、どういうこと! ソルト、バグなんじゃないの!」
『俺からの着信は拒否が出来ないんだよ』
「くぅ~ムカツク! ソルトの癖に! もういい!」
『なんだよ、せっかく作ってやったのにお礼もないのかよ』
「それはどうも、ありがとうございました。ですが、もう結構ですので念話を止めて下さい。お願いします」
思わずレイから泣きが入ったので、ソルトもイタズラが過ぎたと念話を切ると、タイミングがいいというか、悪いというか例の竜也から念話がレイに届く。
「あ! 来た! 竜也だ。もう、こうなったら竜也で試してやる。『拒否』と。これでどうだ。ん? 竜也の声が聞こえない……ってことは」
レイが少しばかり嬉しそうにソルトを見ると、ソルトもレイに向かって右手の親指を立てて見せる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「もう、そろそろ麗子の機嫌も直ったかなっと」
竜也が麗子……レイに対し念話を送るが、しばらくして『この念話は相手に拒否されました』とアナウンスが聞こえる。
「どういうことだ?」
「竜也、今度は通じたか?」
泰雅が竜也に麗子への念話が通じたのか確認してくると、竜也は泣きそうな顔をしていた。
「どうしたんだ?」
「どうしよう……拒否されたみたい……」
「あ~竜也、しつこかったからな~」
「そんなに?」
「ああ、俺から見てもそんなにだ。向こうならすぐにストーカー案件だな」
「でも、気になる相手ならこれくらい普通だろ?」
「それ、ストーカー目線だぞ」
「……」
「まあ、『押してダメなら引いてみろ』ってあるだろ。今度は麗子から念話が来るまで待ってればいいじゃないか」
「……」
泰雅の言葉に竜也が感心したように泰雅を見る。
「なんだ?」
「いや、泰雅に諭される日が来るとはな~と思ってさ。さすが、もうすぐパパになるだけはあるな」
「よせよ」
『バン』と泰雅が軽く竜也の肩を叩いたつもりが照れ隠しのせいか、少しだけ力が強かったようで、竜也は『ゴン』と音がするほどテーブルに額を打ち付けてしまう。
「あ……すまん。竜也」
「……」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ソルト、レイから聞いたわよ。新しい念話を作ったって。相手からの念話を拒否出来るんだってね。ね、私のもやってくれる?」
「いいよ、はい」
「何? 魔石?」
エリスに言われたソルトが差し出したのは、少し大きめのコボルとの魔石だった。
「そう、魔石。これを握って『ダウンロード』って唱えれば『念話』スキルが更新されるから。まあ、試してみてよ」
「握って、ダウンロード……ね」
「そうだよ。はい」
ソルトから魔石を受け取ったエリスは、そのまま右手を握りしめ『ダウンロード』と唱える。
「ねえ、何も変わったって、実感がないんだけど、これって本当に変わったの?」
「なら『ステータス』で確認してみたら?」
「そうね、『ステータス』……あ、『念話』スキルが『Ver.2』ってなってる」
「成功したみたいだね。じゃあ、他の人にも説明お願いね」
「あ~面倒くさいことを私にやらせるつもりね」
「ごめんね。本当はレイにやらせるつもりだったけど、あの通りだから」
そう言って、ソルトがエリスの視線をソファに向けさせると、そこにはレイが横になり気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「しょうがないわね。じゃあ、この魔石を借りるわね。レイ、寝たふりは私には通用しないからね」
「くっ……」
気のせいか、レイの寝息が一瞬止まった気がしたが、ソルトも周りの土地のことで話があったので、エリスと一緒にリビングへと向かう。
「残念だったわね」
ソファで眠っているであろうレイに向けてエリスが一言だけ放つと部屋から出る。
「もう、分かっているのなら見逃しなさいよね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます