第3話 聞きたくないのに拒否出来ない

 レイの突然の訪問に驚くが、それより早くレイが反応する。

「ソルト、何やってんの!」

「レイ! 違うんだ! 聞いてくれ!」

「シーナもよ! あれほど順番だって言ってたじゃない!」

「え? 順番?」

「もう、部屋に入ってくるのが早過ぎです!」

「へ?」

 レイの訪問に驚き、どうやってこの場を釈明しようかと思っていたソルトだが、レイ達の会話の内容に不穏な感じを覚える。


「それで、シーナは済んだの?」

「いえ、もう少しのところで邪魔が入ったので……」

「邪魔? 邪魔って誰がそんなこと!」

 レイが自分を見ているシーナの視線を気にもせずに声を大にして言う。

 そして、ここまで聞いていたソルトが会話の内容が気になる。『済んだ』とはどういう意味だと。

「なあ、レ「レイ、ちゃんと報告はしたの?」イ……エリス、どうした?」

「あ、ソルト。レイからはもう聞いた?」

「いや、何も聞いてないが?」

「やっぱり……レイが、自分に任せて! って言うから任せたのに」

「だって……」

「だってじゃないでしょ!」

「ごめんなさい」

「分かればよろしい」

 レイが謝り、エリスが納得したところでソルトが切り出す。

「それで、なんの報告なの?」

「あ! そうだったわ。はい、ちゃんと確かめてきたわよ」

 そう言ってエリスが広げたのは、この屋敷を中心とした地図だった。


 その地図を見ると屋敷の周りの周辺が赤線で囲われている。

「この線で囲われた箇所がソルトに提供された土地よ。どう?」

「どうって……どうするのこれ?」

「取り敢えずは屏で囲ってソルトの土地って分かる様にしないとね。って訳でレイ。ショコラ達と一緒に頑張ってね」

「え~」

「え~言わない! さっさと行く!」

「はい! 行ってきます!」

 地図を見て、想像していなかった土地の広さにどうすればと思っていたソルトの想いとは反対にエリスがレイに素早く指示を出す。

「屏を建てたら、どこに何を建てるか考えないとね」

「それもあったね。まあ、それはティアの報告を聞いてからにしようか」

「そうね。で、ソルトは何があったの?」

「……別に」

「そう……なの?」

 エリスはソルト越しにシーナを見るが、シーナは俯いたままだ。

「ふふふ、あれほど順番だと言ったのにね。ねぇ?」

「は、はい!」

 エリスに言われたシーナが飛び上がるような勢いで返事する。

「だから、順番ってなんだよ」

「直に分かるわよ。私達も焦っている訳じゃないけどね」

「はい?」

「だから、その内ってことよ。はい、これで終わり。下に行って、どういう風にするか皆で考えましょう!」

 エリスに促され下の食堂へと向かう。


「ティア、手が空いている人を集めてくれるかな?」

「いいわよ。はいは~い、子供達は暇そうな大人をここに連れてきてね!」

「「「「「は~い!」」」」」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


『麗子~聞いてくれよ~』

「あ~もう、うざい! こっちは仕事中なのに!」

『そんなこと言わずにさ~聞いてよ~もう全属性まであと少しなんだ。どう、凄いでしょ?』

「はいはい、分かった分かった。凄い凄い」

『なんだよなげやりだな。僕と麗子の仲だと言うのに、少し冷たくないか』

「だから、仕事中だって言ってるでしょ! いい加減にしてよね!」

『分かったよ。じゃあ、またね』

「は~やっと終わった。スマホなら着信拒否出来るのに……」

 ぼやいていた麗子にコスモが話しかける。

「なんだ、また例の王国の彼氏からのラブコールなのか?」

「彼氏なんかじゃない! もう、本当にどうにかして欲しい!」

「なら、ソルトの兄貴に頼めばいいじゃないか」

「そうか! あのチートなら出来るわよね! よし、行ってくる!」

「あ! おい、屏はどうするんだよ!」

「任せた!」

 いいことを言ってくれたとコスモに感謝しながら、レイはソルトの元へと急ぐ。

 ソルトならきっとアイツからの念話を止めてくれると信じて。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「分かったよ。じゃあ、またね」

「終わったか。で、どうだった麗子の様子は?」

「聞けなかった」

「は?」

「仕事中だからって……言われた」

「そうか、それじゃ仕方ないよな」

「それにしても麗子は、もう少し喜んでくれてもいいと思わないか。なあ泰雅」

「そうか? まあ、またお前が自慢気にタラタラと自分のことばかりで長かったんじゃないのか?」

「うっ……」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ソルト!」

「レイか。そんなに慌てて屏はどうなった?」

「そんなことはどうでもいいの!」

 乱暴に玄関扉を開けたと思ったら、ソルトを見付けるなり走り寄るレイにソルトが頼んでいた作業を確認するが、レイに一蹴される。


「『着信拒否』したいの!」

「は? 何言ってんだ?」

「だって、もうウザくてしょうがないの! 苦痛なの! なんとかして欲しいの! お願い! ソルトなら出来るでしょ!」

「どうどう、落ち着いてレイ。ちゃんと説明してくれないと分からないから」

「あ、そうよね。えっと、あのね……」

 レイが落ち着き、少しずつソルトに理由を話す。

「あ~そういうことか。なるほどね。確かに欲しいよね。でもな~」

「出来ないの?」

「ん~どうだろう。やってみないと分からないかな」

「え~そこは私のために頑張るって、言うところでしょ!」

「なんで?」

「なんでって……だって、ソルトは……でしょ?」

「はぁ? よく分からないけど、出来たら教えるから、屏のことよろしくね。じゃ、頑張って」

「あ! もう、何よ!」

 ソルトに押される形で玄関から出されたレイが呟く。


 回りの土地についてはティア達にまずは草刈りを頼み話を終えたので、ソルトは自室へと引き籠もる。

「着信拒否ね~そもそも出来るのか?」

『出来ますよ』

「え? そうなの? でも、どうやるの?」

 ソルトの呟きにルーが反応し『着信拒否は出来る』と言うので、ソルトはルーに説明を求める。

『そうですね、まず念話を受ける前に、その相手の顔が浮かぶようにします』

「ん、それで」

『念話を受けてもいいと思ったら、そのまま『受信』を選びます。イヤなら『拒否』を選びます』

「まんまスマホだね」

『スマホですか』

「でも、それってどうやるの? 新しいスキルなの?」

『いえ、『念話』スキルのバージョンアップが必要です』

「え? バージョンアップ? レベルアップじゃなくて?」

『はい。バージョンアップです』


「えっと、それはルーの方で出来るの?」

『ええ、出来ますよ。試してみますか?』

「うん、お願い」

『はい、終わりました』

「え、もう?」

『はい。相手の同意が得られれば、すぐですから』

「じゃ、試してみるかな。『レイ、ちょっといいかな?』」

『何、ソルト。今、ちょっと忙しいんだけど』

『ちょっと、俺に念話を飛ばしてみて。頼むね』

『あ、ちょっと……』

 しばらくして、ソルトの頭にレイの顔が浮かび念話を受信中だと知らせる。

「お、来たね。で、これを『拒否』と」

『一度、拒否すると次からは顔は出ますが、拒否されたままになりますから』

「そういうことね。あ、また来た。じゃ今度は『受信』ね」

『ソルト! どういうことよ! そっちから念話してって言っときながら拒否するってどういうことよ!』

「ごめんごめん、単なる確認だから。じゃまた後で。『拒否』と。ねえ、ルー拒否された場合って相手に分かるの?」

『はい。『拒否されました』ってアナウンスが流れるようになっています』

「ああ、なるほどね」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


『レイ、ちょっといいかな?』

「何、ソルト。今、ちょっと忙しいんだけど」

『ちょっと、俺に念話を飛ばしてみて。頼むね』

「あ、ちょっと……なんなのよ、もう切れちゃったじゃない。でも、念話をしろって言ってたわね」

 ソルトに言われた通りにソルトに向けて念話を飛ばすレイだが、中々繋がらず終いには『この念話は相手に拒否されました』とアナウンスが流れる。

「はぁ? 何、どういうこと? 着信拒否が出来たってこと?」

 不思議に思いながらも、レイはもう一度とソルトへ念話を飛ばすと、あのアナウンスは流れなかったので怒鳴るように話す。

「ソルト! どういうことよ! そっちから念話してって言っときながら拒否するってどういうことよ!」

『ごめんごめん、単なる確認だから。じゃまた後で』

 ソルトからの返事の後に『この念話は相手に拒否されました』とアナウンスが流れる。

「え? どういうこと? もしかして『着信拒否』出来る様になったってことなの! なら、すぐに行かないと!」

「「どこへ?」」

「あ……」

 屏作りをしている場合じゃないと屋敷に戻ろうとしていたのをショコラとコスモに止められるレイだった。

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