第三章 ようこそ、エルフの国へ
第1話 これがエルフの国なんだ
「しかし、そうなると私達の国だけの問題とは言えないですね。そこで提案なんですが、この国と似た問題を抱えている隣国と歩調を合わせて行ければと考えています」
「隣国?」
「ええ、この国とエルフが治める『セレネージュ国』は『シャムニ王国』と隣接しています。そして、シャムニ王国は労働力として私達獣人を。性的な目的でエルフを奴隷にするために国境の村を中心に襲っていると聞いています」
ニャルからの提案に対し、想太は頷くとニャル達に切り出す。
「じゃあ、直接行って、相談しようか」
「「「はい?」」」
想太からされた提案とも言えない内容にニャル達は首を傾げるしかない。
「ちょっと待って下さい。ソウタ殿」
「何? こういうのは早ければ早い方がいいと思うんだけど?」
「それはそうですが、相手はエルフですよ? 自分達以外の種族を見下し、人はおろか獣人の我々も一様に下に見ています。そんな連中の所へ直接行って何をするというのですか。まずは、根回しが必要です」
「え~でも、言い出しっぺはニャルでしょ?」
「それはそうですが……」
「それに根回しするって言うけどさ、見下されているんでしょ? それなのに相手にしてくれる知り合いでもいるの? いたとしてもさ、向こうのトップに話が行くまでどれくらい待てばいいの? 俺達がおじいちゃんになったら、もうこんな無茶は出来ないよ?」
隣国も巻き込んで。同じ問題を抱える国同士の全体で考えようと言い出しっぺのニャルの腰が引けてしまう。
「それを言われると困ってしまうのですが……」
「じゃあさ、会ってから決めようか。じゃ、準備はいいかな。朝香はミコをお願いね」
「いいわよ。ミコちゃんはこっちに来てね」
想太はニャルとパルの手を掴み、朝香に転移ポイントを伝えると、朝香はミコを側に呼び、想太と同じ様にミコの手を握る。
「準備はいいみたいだね。それじゃ行くよ『転移』!」
「『転移』!」
「「「え~聞いてないヨ~」」」
ニャル達三人の声だけ執務室に残して想太と朝香は同じ場所を目指して転移する。
「着いた!」
「ここは?」
「着いたのか?」
「はい、お疲れ様。ミコちゃん」
「え? ちょっと待ってよ」
ミコは回りの様子を確認すると朝香に抱き着く。
ミコだけでなく、想太を含めた五人の回りを槍や剣を構えた衛兵に取り囲まれていたからだ。
「貴様、どこから現れた?」
一歩前に出て来た銀色の長髪で、痩身のエルフらしい男が想太達に質問する。
「ども! 獣人の国から来たんだけど、王様はここにいるよね」
「ムッ。お前はヒトか。ヒト族の子供が何故、獣人と一緒にいるんだ?」
「一々話すのも面倒だから、王様に話すよ。王様に会わせてくれるかな?」
「ならん。素性の知れないものを王の前に通すわけにはいかない」
「ニャル、国の指導者なんでしょ? もしかして、知られていないの?」
「ソウタ殿、だから言ったではないですか。エルフの連中は私達のことなど気にしていないと」
「もう、面倒だな。いいから、通してもらうよ」
ニャルの返答もだが、目の前の偉そうな男の物言いにイラッとした想太は皆に離れないように言うと、障壁を張り、玉座を目指して歩き出す。
「ならん! 通さないと言っている!」
エルフの衛兵達が、想太達を止めようと、槍を構えて先に進ませないようにと前を塞ぐが、想太は気にすることなく歩き続ける。
衛兵達も必死に止めようとするが、想太が張った障壁のせいで、想太達に槍や剣が届くこともなく、力尽くで止めようにもどうにもすることが出来ない。
やがて、偉そうに玉座にふんぞり返っている王様らしい人物の顔がハッキリと見える位置まで進んだところで想太が止まる。
「あんたが王様なの?」
「無礼な! 貴様……」
「よい。下がれ」
「しかし、王よ」
「ここまで近付けておいて、これ以上何か出来ると言うのか?」
「しかし……「いいから、下がれ!」……はっ」
想太達を何とかしようとしていた男は想太と王の間に立って、これ以上進展しないように頑張ってはいたが、王の一言で立ち退くしかなくなる。
「それで、お前は獣人を引き連れて、何用があってワシの前に立つ?」
「ちょっと、話を聞いて欲しくてね。聞いてくれる?」
「話を聞くだけでいいのか? 何かを要求するつもりではないのか?」
「ないよ。ただ、話を聞いて、その後にどうするのかを決めて欲しいだけだから」
「それはワシ以外の誰かが聞いてもいい話なのか?」
「そうだね。出来れば、王様が信用出来る人だけ。少数に留めて欲しいかな」
「そうか。では、護衛は認めてくれるか?」
「それはダメ。ごめんね」
「分かった。では、聞こえたな。宰相を残して、他は出て行ってくれ」
「王! せめて私だけでもお側に置いて下さい!」
「イサク。気持ちは分かるが、ダメだ」
「しかし……「聞け!」……はい」
「言いたいことは分かるが、この者らは我々に何も感知させることなく、ワシの目の前に転移して来た。この意味が分かるか? お前なら、分かるだろ。この者には何を防御しようとも我々には防ぐ手立てはない。いいか、魔法技術に優れた我々が何も出来ないのだ」
「……分かりました。しかし、扉の前で護衛することはお許し頂きたく」
「まあ、それくらいならいい」
「ハッ。では」
最後まで残っていたイサクが王からの説得でやっと退室し、これで謁見の間から王と宰相以外のエルフが皆退室していったことになる。
「じゃあ、上とか壁の向こう側から見ているのは、他の人に喋ったりしないんだよね?」
「……分かるのか?」
「分かるから言ってるの。で、どうなの?」
「心配はいりません。彼らは、隠密です。私と王以外の者の前に姿を見せることはありません」
「信用していいんだね。出来ないなら、寝てもらうけど?」
「ほう、これはこれは。ヒトの身でありながら、我々エルフの隠密を無害化しようというのですか?」
想太は宰相の物言いに少しだけムッとしたので、アツシに頼んで壁の向こう、天井に潜んでいる連中を対象に『睡眠』を実行する。
「あんたが信用出来ないから、眠らせたよ。話が終わったら起こしてあげてね」
「え?」
「宰相よ。あまり余計な手出しも口出しもしないでくれ。ワシはまだ死にたくはない」
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