第5話 side 京香④
まさか急に打ち上げに行くなんて言い出すとは思わなかった。慌てて家を飛び出したせいでスマホも忘れた。十月の夜だというのに走り続けているせいで身体が熱い。
真琴に説教しておきながら、私も打ち上げに参加しなかった。そんな気分になれなかったからだ。そして彼女の配信を見ていた。会場に私がいないことを知られる訳にはいかない。何としてでも彼女より先に着かなければ。
◯
店の前に着くと、そこからちょうど真琴が出てきた。あっ、と同時に声を出す。最悪なタイミングだ。
「どうしてここに?」
「別に。涼んでただけだけど」
「いやでも、一時間前にみんな帰ったって店員さんが……」
「へー」
真面目か、と口裏で叫ぶ。そこを一切考慮していなかった。誤魔化すように鳴らした咳払いが、夜道にやけに響く。
「そういう真琴は何でいるの。行かないって言ってたじゃん」
「私は、京香ちゃんにどうしても謝りたくて」
店の明かりが彼女を優しく撫でる。その目は真っ赤に腫れていて、涙の乾いた跡が光った。
正直怒りは収まっていなかった。こんな最低な奴、許す必要があるのか。しかし、現に私はここに来ているのだ。汗ばむ肌が本心を示す。
真琴の手を引き、宛もなく前に進む。
「謝罪は後でいいよ。それより何か食べよ。真琴、お腹空いてるでしょ。ずっと食べてなかったもんね」
「何で知ってるの」
「見てたから、配信」
え、と動揺したのか真琴を引く手が重くなる。彼女は黙り込み、そして次第に元の歩幅に戻っていく。
「そっか。じゃあ全部聞かれてたんだ。酷い奴だったね、私」
「ほんとだよ。友達いないとか言われて、どれだけ傷ついたか知らないでしょ」
ごめんなさいと、震えた声が背後から届く。
でもさ、と私は夜空を見上げた。
「よく考えれば直接言われたわけじゃないんだよね、私が盗み聞きしてただけで。思えば、私といるときの真琴はいつも楽しそうだったし」
「……うん」
「私達さ、もっと話せば良かったんだよ。楽しいことだけじゃなく、悩みとか不満とかも。そしたらもっと寄り添えた」
振り返り、嗚咽を堪える真琴と目を合わせた。水の膜で覆われた瞳が私を見上げる。
「まだぼっちだと思う?」
「思うわけない。京香ちゃんは大切な友達」
ははっ、と喉から感情が弾けた。
やっと聞けた。画面越しの言葉よりも、直接聞いたこの言葉を私は信じたい。彼女の隣に並び、また歩き出す。
「何食べよっか。実質打ち上げだし贅沢して――って聞いてる?」
号泣する真琴を覗き込むと、伏せられた顔から微かにありがとうと聞こえた。答えになってないじゃん、と笑みがこぼれる。
そういえばワンマイルのイベント告知が来ていたっけ。報酬は良かったが、相変わらず私には難易度の高いものだった。
でも今回の報酬も獲得出来るだろうと、私は隣を歩く女の子に身を寄せた。
あの子は画面の向こうでぼっちを語る たまごなっとう @tamagonattooo
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