最終話 今。私たちの物語が始まる。
それは、満月の夜だった。
不思議な主人公と出逢うならばうってつけの、随分と明るい満月の夜だった。路地裏を黒猫が駆け抜け、私はつられて入り込む。普段だったらそんなことはしない。けれど、私は渇望していた。探していた。もしかしたらと思っていた。
まるで私の嫌いな主人公の立ち位置のように、私はこの身体を動かしていた。
そこで再び。
主人公のような少女を見つけた。
ウメさんだ。
最初に出会った時と同じだ。倒れ込んでいて、そして手には拳銃があった。
白い制服に血が滴っていた。
けれどウメさんの血では無いらしい。いつもと同じだ。外傷を確認しては、ひとつ、息を吐く。
見つけた。出会えた。
再び、出会えた。
「ウメさん。帰りますよ」
そっと声をかければ、呻くような声とともに、わずかにウメさんは瞳を開ける。
まだ意識は朦朧としているのだろう。
「かえ、る……?」
不思議そうに、私を見つめる。
「ええ、帰りますよ。私達のアパートに」
この状況は、私にもよくわからない。
ウメさんは怪我をしていなくて、けれど血まみれで。ウメさんが勝ったのか負けたのかもわからない。どうして今、再びあえたのかもわからない。だって私はモブだったし、モブであろうとしてたし。けれど。
「帰って、シャワーあびてごはん食べて眠って。それで教えてください。ウメさんのこと」
私たちは再び出会った。
出会えた。出会えてしまった。これがどんな物語かわからない。ラノベなのか文芸なのか、主人公はどちらで、それともどちらでもないのか。わからない。けれど。
「聞かせてください。ウメさんのこと」
私はもう、ウメさんの隣のモブではいたくなかった。モブでいたいと望んでいたけれど、ウメさんのモブではいたくなかった。だから。ウメさんを担いでは、「帰りますよ」と、もう一度紡いだ。
「どうして」
ウメさんは不思議そうに私を見る。それはそうだろうなと思う。けれど。
「そりゃあ私がウメさんのこと、愛しているからですよ」
好きになった。愛してしまった。
ウメさんの物語を見届けたかった。ならばそのためにはモブではいられないと思った。だから。
「愛してますよ」
もう一度、告白をして。
そうして、今度こそ、当たり障りのないものではなく、本来の自分らしく笑った。
ウメさんはそれに、少しだけ驚いた顔をして。そして次に、赤面した。そんな表情もできるのだと、私のほうが驚くくらい、顔を赤く染め上げて。
私の手を握った。
握り返した。この瞬間。
今。私たちの物語が始まる。
今。私たちの物語が始まる。 蒼埜かげえ @mothimothi7
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